第572話 クロの銃は俺のモノ様




「えーと、ここか。魔晶石アイテムのパーツ屋さん」


「はい師匠、高価だった魔晶石アイテムも、だいぶお手頃価格で手に入るようになりましたからね。大発展中のソルートンでも需要が増えるのでは、とお招きいたしました」



 大型商業施設の三階にあったコスプレ店でバニー娘アプティを回収。


 パンフレットに載っている館内地図を見ると、同じ階の端っこに小さめのお店でパーツ屋さんがあった。


 商売人アンリーナが元気に先頭に立ち、俺の手を握り引っ張る。



 ああ、コスプレのお店の店頭にあった極小水着マネキン相手に熱演を行っていた商売人アンリーナはすぐに回収したぞ。


 マジで警備員を呼ばれる数秒前、だったからな。


 つかアンリーナってこの商業施設に各お店を誘致した張本人なんだよな。なのにホテルといいコスプレ店といい、来てくれたお店でトラブル起こしまくりじゃね……。




「ヌフフ……ああ、師匠の熱くて大きな手……最高ですわ……あ、着いてしまっては愛の握り合い時間が終わってしまいますわね……間違えましたわ師匠! このアンリーナ一生の不覚っっ! クロさんがいると思われるお店はもっともっと遥か向こうの地平線あたりかと思われます! さぁ、私とどこまでも手をつなぎ走っていきましょ……」


「お、いたいた、おーいクロー!」


 突如アンリーナが目を光らせ、蛇のように首をグインと伸ばしたところで俺はアンリーナの頭を優しく抑える。これ以上のトラブルはアカン。


 お店奥のガラスのショーケースにベッタリ張り付いている猫耳フードの女性、まぁ間違いなくクロだろう。



「…………ニャッ! あ、キ、キングか……ニャッハハ、このお店はまずいな、アタシみてぇなマニアにはたまンねぇぜ」


 俺の声にちょっと時間差で反応したクロがヨダレを拭きショーケースから離れる。


 ……そんなに心が向こうに行くような物でもあったのか? ってショーケースにクロのヨダレついてんじゃん……子供かよ……。


 店内はそれほど広くはなく、何かのパーツと思われる部品がずらーっと展示されているが、俺にはこれがなんなのかサッパリ分からない。


 輪っか状の鉄パーツに大きさ違いのネジ、太さ違いの配線……まぁ俺はこういうの見るのは好きだからいいけど。


 宿の娘ロゼリィは全く興味が無い&売っている物が意味不明で、ほけーっとした顔をしている。


 バニー娘アプティも興味無しで、無表情に俺の尻をつかんでくる。何? 暇だとつかんでくるの?



「見てくれよキング! これさ、アタシが持っている魔晶銃にも付けられる交換用グリップでよ!」


 猫耳フードをかぶったクロが大興奮で俺の肩をバンバン叩き言うが、これ以上の打撃は後ろにいるアプティが敵判定すんぞ。


「そういやクロは魔晶石を利用した銃、魔晶銃を持っているんだっけな。どれ……って五百G……俺はこういう物の相場は知らないが、結構すんのな……」


 クロが指す物の値段表記、日本感覚五万円なり。


 魔晶銃ってお高い魔晶石をエネルギーにしていたり、細かなパーツもお高かったり、金持ちの遊戯なのか……。


「本場である火の国デゼルケーノ行けばもっといっぱい種類あっけどな! でもこれよ、ここにオレンジのラインが入っててよ、なンとなくキングっぽくていいなーって、ホラ、なンかキングをぐいっと握っている感覚になれンじゃねぇかなーって、ニャッハハ!」


 猫耳フードをユサユサ揺らしながらクロが顔を真っ赤にしているが、俺を握っている感覚ってなに?


 全く理解出来ない感覚なんですが……。


「よく分からんが……まぁそれぐらいなら買ってやるぞ。クロには今後も俺の側にいて欲しいしな」


 店員さんを呼び、ショーケースの商品を取り出してもらう。ああ俺、金ならあるんだ。



「ニャッ……」


 お金を支払いクロに商品を渡すと、口と目を見開き、アホ顔で俺を見てくる。


 あとでアンリーナとロゼリィとアプティにも何か買ってやるか。ああ、まだ未遭遇の水着魔女ラビコにも。


「ニャニャッ……キ、キング、こ、こういう告白ってどうなンだよ……! 今後ずっと俺のモノを握れとかいうそういう意味なんだろ!? ず、ずりぃってキング、なンですぐにそうやってアタシだけが喜ぶような言い方で告白してくンだよ……!」


 ……は?


 突然何を言い出すんだこの猫耳フードは、誰も告白なんてしてねぇし。


「い、いい、いいぜぇ……! アタシだって女だ、そこまで情熱的に告白されちゃあ……ドカンと応えないとセレスティアの名が廃る! 分かった、これをキングのモノだと思って毎日……!」


 お、おいクロ、なにをそんなに興奮してんだよ! お店のスタッフさんが驚いているだろ。


 あとお前お姫様の身分隠してここにいるんだから、セレスティアの名前出すな。





「はぁ……はぁ……くそ、さっきから連続で逃げるようにお店出てんぞ……」


 なんか知らんが興奮して止まらなくなったクロを引っ張り店外へ。


 なぜ普通にお店を見て回れないのか……今度一人でゆっくり見に来ようかな……。


「ニャハハ、これで毎日キングを握れンな! 練習しとくからいつでも言ってくれ、本番もバッチリ決めてやンぜ!」


 練習? 本番? ……もう意味が分からない。


 ご自慢の魔晶銃に頬ずりしながらクロさんは何を言っているんだ……。


 あとこういう商業施設で銃出していいの? 


 ……あ、ここ冒険者が普通に武器装備して街歩いている異世界だった。いいのか。





「あとはラビコですね、どこにいるんでしょうか」


 宿の娘ロゼリィが今までのことは無かったかのように笑顔で左腕に絡んでくる。


 ああ……色々あったけど、腕に伝わってくるロゼリィの大きなお胸様感触は、過去の悪い物全てをチャラに出来るポテンシャルがある。


「たぶんお酒のお店かと。世界でも有名なお酒を集めたお店が一階にありますので、行ってみましょうか」


 ロゼリィのお胸様で癒やしを得ていたら、商売人アンリーナが階下を指す。



 最後はラビコか……あいつがいると、必ずトラブルが起きるからなぁ……回収しないでもうこのまま宿に帰ってもいいんじゃ、とも思うが、そうもいかんか。


 迷惑を受けているお店を救うため、俺は行かねばならん。



 いざ、魔王ラビコを倒しに──


 そう、酒屋へ──











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