第557話 魔晶列車ソルートン延伸 10 厳か爆笑コント式典とハイラは俺だ様




「まずは十年前このソルートンを発ち、多くの人の命を救ったルナリアの勇者メンバーたちに感謝を。そして苦境に耐え、命を繋ぎこの街を守ったソルートンに住む皆に感謝を。この歴史的英雄譚はペルセフォスのみならず世界中の人に希望を与え、未来の子供たちに勇気を与えてくれるだろう。街を守ったソルートンに住む全員が勇者なのだと、自分の心に誇って欲しい」



「ちょっと~勇者って言葉を安売りしないでもらいたいんですけど~。私たちマジで頑張ったし~」




 時刻はお昼十二時半過ぎ、俺たちはついに出来上がったソルートン駅に降り立ち、魔晶列車開通記念式典に参加している。


 

 駅が出来上がった場所は街の北側、冒険者センターや高級街がある中心部のちょっと上あたり。


 高級街からは川を挟むので、あまり開発されていなかった区域。


 そこに一気に巨大でオシャレな施設と駅が出来上がり、駅前には巨大な公園が完備。


 ソルートン駅が出来たことで、野原だった場所に新たに住宅街や商店が作られ、風景が一変した感じ。


 新しく出来た公園に簡易ステージを作り、そこに王都からサーズ姫様を迎え現在式典が行われている最中。



 サーズ姫様が『ザ・王族』という振舞いとお話をされているのだが、横に座っている水着魔女ラビコがちょいちょいつまらなそうに横槍を入れるというコントみたいな状況に、集まった多くのソルートン民が爆笑するという不思議な式典になってしまっている。


 残念ながら俺たちはステージ裏で見ている状況なので、ラビコの暴走を止めようにも手が出せない。



 あのクソ魔女、せっかくの式典だってのに……どうにも列車を降りる直前にサーズ姫様とハイラが俺に迫ったことを根に持って不機嫌なご様子。


 ステージの一番前の客席には元勇者パーティーのメンバーであるローエンさんにジゼリィさん、一見海賊風ガッツマンのガトさん、そして以前お世話になった農園のオーナーのおじいさんが招待されているのだが、ゲラゲラ笑いサーズ姫様とラビコのコントを楽しんでいる。


 いや、あの、元お仲間で同格の皆様はラビコの暴走を止めて下さいよ……。




「──チッ……露出魔女め……さっき式典のスケジュールを見せただろう。その通りに進行しろ」


「はぁ? 私こういうお決まりごと嫌いだし~社長の顔立てて嫌々ここにいるだけだし~って、舌打ちに露出魔女とか聖女と名高いペルセフォス王族様にひどいこと言われたんですけど~聞きましたかソルートンのみなさん~」



 一応司会進行役のお姉さんがいるのだが、王族であるサーズ姫様やこの国の王と同権力を持つラビコの暴走は止められず、冷や汗を流し涙目でフルフル震えてしまっている。


 ああ……サーズ姫様もラビコのノリの乗っかってしまっている……あかん……。


 宿の娘ロゼリィのお母様であられるジゼリィさんが腹を抱え笑っているが、そういやこの人もサーズ姫様だろうが誰だろうが遠慮なんてしないストロングスタイル系の人種だったっけ……。隣にいる夫であるローエンさんは超困り顔。


 正式にペルセフォス王族様を迎えての厳かな式典だったはずが、ラビコとサーズ姫様の小気味良い会話のコント会場になってしまいソルートン民も手を叩き笑い盛り上がる。



「ニャッハハ! たっのしそうだなキング! アタシも混ざってきていいか!?」


 それを見ていた猫耳フードをかぶったクロが勢いよく立ち上がり駆け出そうとする。


 俺は慌てて腕を掴み制止。


 やめろ……やめてくれ。ここにお忍び中の身の魔法の国セレスティアの王族様であるお前が行くと、とんでもねぇ複雑な相関図が完成してしまう。



「あ、あの……サ、サーズ様……お時間が……その……」



「分かっている……オホン。ほら露出魔女、お前でもこれぐらいは出来るよな、お得意の魔法をポーンと空に打ち上げるやつだ」


 オロオロしていた司会のお姉さんが小さな声で進言すると、サーズ姫様が少し我に返り咳払い。しかしすぐに元に戻りラビコを煽る。


「はぁ~? この私をバカにするとかいい度胸じゃないか~社長がいなきゃその豪華な式典用ヒラヒラスカートをひん剥いているところだっての~! 見てろよぉ~でっけぇの打ってやるよ~! せぇの……!!」


 イラッとした顔になったラビコがキャベツの刺さった杖を晴れ渡った上空へ向け、紫の魔力弾を何発も放つ。



「少しスケジュールは狂ってしまったが、集まってくれた皆に感謝を! そしてこの魔法演舞がソルートン駅開通の正式な号砲になる! ペルセフォス王国の感謝を込めて、そして私個人の想いを込めて……魔晶列車開通おめでとう! さぁソルートン駅、そして大型商業施設ソレイローラ……開店!」



 サーズ姫様が天を指し吼えると同時にラビコの放った魔法花火が次々と鮮やかに空に華開く。


 拍手と大歓声が巻き起こり、商業施設の入り口に並んでいた人の列が警備の誘導のもと、ゆっくりと中へ入っていく。



 その後、ステージでは抽選で選ばれた人がサーズ姫様にラビコと一緒に記念写真を撮るなどのイベントが行われた。


 




「うへぇ、無事終わってくれて良かった……途中寿命が縮む思いだったぞ……」


 式典も終わり、駅と直結の商業施設内にある関係者控え室で俺がぐったりとうなだれる。


 俺は参加していないで見ていただけなのだが、まさかサーズ姫様とラビコが公式の場でいつもの調子の言い合いになるとは思わなかった。



「いやぁすまなかった。君の側にいると、どうも地が出てしまうな、はは」


「ああ、疲れました師匠……補給をお願いします」


「私もですぅ! 面倒な権力者相手に心が疲弊しましたぁ」


 式典後、商業施設出店者やソルートンのお偉いさんたちとの会合に参加していたサーズ姫様一行と商売人アンリーナが控え室に戻ってきた。



「な~にが地が出る、だ。まだクマかぶっていないだろ~が」


 部屋に入ってきた途端俺の腹めがけて突進してきた商売人アンリーナと、競うように腕に絡んできた騎士ハイラの頭を撫でていたら、水着魔女ラビコが苦い顔で一言。


 クマをかぶる? 


 はて、日本で言う『猫をかぶる』の異世界版ってことだろうか。



「はは、しかし楽しかったぞ。王都からソルートンまで列車一本で来れるというのはとてもいいものだな。それに移動中も式典中も、君が側にいると思うとテンションが上がってしまったよ」


 今までは王都ペルセフォスからフォレステイまで特急列車で二十四時間、そこからは十二時間かけての馬車移動だったからなぁ。


 それが列車がソルートンまで通ったことで、王都からソルートンまで列車一本で来れるようになった。特急ならなんと二十五時間。これは本当に体の負担が減る。



「このまま宿ジゼリィ=アゼリィに泊まって、君と施設を見たりのんびりしたいところではあるが……今は王都が忙しい時期でな、もう帰らねばならん」


 サーズ姫様が残念そうに駅直結の商業施設のパンフレットを見ている。


 そうか、相当お仕事を詰めてこられたようだが、それでもソルートンに泊まれるほどの時間は作れなかったのか。やっぱ、王族様ってのは大変なんだなぁ……。







 夕方、商業施設内からの特別専用通路を使いソルートン駅のホームへ。



「ううううう……帰りたくないですぅ……先生、早く騎士をクビになってソルートンに来ますので待っていてくださいね……ああ……上司であるアーリーガルさんを何発無意味に殴ればクビになるのかなぁ……」


 列車最後尾のロイヤル部屋がある車両の前で、騎士ハイラがグイグイ俺に頭を擦り付けゴネだしたが、お前は頑張って今年のペルセフォス代表騎士になったばかりだろうが。


 あと上司は無意味に殴るな。


「ハイラ、しっかりサーズ姫様をお守りするんだ。俺がいないあいだにそれが出来るのは、俺の一番の教え子であるハイラだけなんだぞ」


 俺は頭を撫で、リーガルにロックオンしていたハイラの視線をずらす。


「先生の一番……! そうですよね、そういえばそうでした! よく考えたら私は先生の愛を一番注がれた女でした! 他の人には出来ない、私だけが出来る先生の代わりにサーズ様をお守りするお仕事……そうか、つまり私は、私自身が先生だったということなんですね!」


 ……ん、え、何? つまり……どういうこと?


 最後俺がガ○ダムだ、みたいなこと言われたけど。


「ふんふん、ということは、私の手で触るということはつまり先生に触られているということと同意! じゃあ……こう!」


 ハイラが謎の言葉を発し興奮し、もぞもぞと自分のお胸様を触り始めたが、これ以上は描写できねぇし、ここは新設されたとはいえ混み合うホームじゃい脳天チョップ。


「ォホハァ! い、痛いです先生ぇ……」



 軽く頭に手刀を入れたら不満そうにハイラに睨まれたが、発言の意味分かんねぇし。


 もちろんこのエロ舞台が宿の俺の部屋で開催されていれば、長時間カメラ片手にねっとり眺めていたいエロチャンスではあったけどもさ。












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