第528話 地下迷宮ケルベロス 7 その名はケルベロス様




『きゃははははは! アタリきたーーー!!』




 ケルベロス迷宮地下十階層。


 そこに現れた異常種蒸気モンスター。



 討伐に向かったというルナリアの勇者を名乗る人物を追い、俺達は急ぎ地下十階層に来た。


 道中はバニー娘アプティが頑張ってくれ、ほぼモンスターを見ることもなくデート気分で来ることが出来た。



 そして地下十階層にいた大型トラック並の巨大狼。


 ラビコ曰く地下三十階層付近によくいる狼らしいが、それの異常進化した姿らしく、頭が一つ付け加えられた二つ頭の巨大狼だった。それは未だ人類未踏階層である地下五十階層相当の力を持つらしく、先にいたパーティーは苦戦を強いられていた。


 状況を整理すると、地下九階層で聞いた救難信号は男性二人のパーティーが撃ったもので、それを聞きつけルナリアの勇者を名乗るパーティーが助けに入ったそう。



 俺たちが駆けつけたとき見たのは男性二人が壁際で重傷を負い倒れ、それを介抱する女性二人に巨大狼に対峙する大剣持ちの女性と長剣を持つ男性。


 すぐに負傷者を地上まで搬送してもらい、残った大剣持ちの女性の助けに入る。


 水着魔女ラビコ、猫耳フードのクロに協力してもらい、最後は愛犬ベスのシールドアタックで巨大狼を撃破。


 女性には驚かれたが、まぁ、フルメンバーならこれぐらいは余裕。



 この大剣持ちの女性がどうやらルナリアの勇者を名乗った本人のようで、ラビコと同じく以前ルナリアの勇者パーティーに所属していた人物だそうだ。


 その手にしている大剣がルーインズウエポンらしく、まともに食らったら人間なんて簡単に消し飛ぶクラスの巨大狼の火炎弾を受け流したのには驚いた。


 さて狼も倒したしラビコの仲間だったという女性も無事、詳しく話でも聞こうかと思っていたら、不思議な声がダンジョン内に響き渡った。



 それが冒頭の言葉だが、おかしなことにこの声がダンジョン外から聞こえてくる。


 愛犬ベスも先程までの余裕の態度を一変、警戒音を発し俺の横で唸っている。





「アタリ……? なんだこの声……ラビコ、このダンジョンではこういうのが当たり前なのか? 強敵を撃破しましたおめでとうファンファーレ的な」


 過去一度ルナリアの勇者パーティーとして潜ったというラビコに聞く。俺はこのダンジョンは初めてなので、ローカルルールはよく知らないんだ。


「……さてね……過去に三十階層まで潜りはしたが、こんな現象は初めて聞いたね。どうなんだ爆破娘、最近はこういうのがこのダンジョンで流行っているのかい?」


 ラビコが杖を構え、大剣持ちの女性に聞く。


「まさか、私も初めて聞く現象だ。それなりに過去の資料は読み漁り、ダンジョンの歴史には詳しいつもりだが……」


 大剣持ちの女性が困った感じで答え、周囲に目を配らせる。


 大剣の女性はこのダンジョンに詳しいのか。というか、いい加減に紹介してくれないですかね、ラビコさん。



「……クラリオさん、でよろしいでしょうか」


 そういやさっき、完全に戦意喪失していた長剣持った男性がそう呼んでいたことを思い出す。


「ああ、名乗り遅れてすまない。私はクラリオ=クラットと言う。……しかしそのあたりは後にしよう、どうにも様子がおかしい」


 大剣の女性が答えてくれ、名前が判明。


 クラリオさんか。どう見ても年上、二十代中盤ぐらいだろうか。


 様子がおかしいのは同感……



「ベッス!!」


 愛犬ベスの警戒音。真上を見ている。


 上っても、頑丈そうな天井しかないが……



「全員壁際に退避! アプティ、ロゼリィを守ってくれ!」


 なんか嫌な感じがするので、全員に指示。


 すぐにみんなが動き、部屋の端っこに移動。



「きゃははははは! 待った待った、すっごい待った! 来たんだろ? 勇者ってやつがさぁ!」


 天井付近に突然人影が現れ、勢いよく地面に着地。


 女性、だな。黒い足首まである豪華なドレスを着て、手足にゴツイ武具を付けている。しかし普通の人間と違うのが、犬みたいな耳が頭に生えていることと、お尻に三本の犬の尻尾が生えていることだろうか。


 パッと見、アプティっぽい。


 まさかこのダンジョンに住む上位蒸気モンスター……か? いや、蒸気は出していないか。



「なんだよ急におとなしくなっちゃってさぁ。さっきまで勢いすごかったろお前ら。それでそれで、どれが勇者ってやつなんだ? なぁなぁ教えてくれよー」


 両の拳をガツンガツン叩き合わせ、言葉は軽いが、威嚇するように俺たちを見回す。


「お前か? 強ぇえ勇者ってのは? あれ、この剣なっつかしー! 私が来たばっかのころに人間に持っていかれたやつじゃん! せーのっ……!」


 ドレスを着た女性が急に視界から消え、クラリオさんの目の前に現れる。


 な……瞬間移動? やばい、こいつ……危険だ!


「は? い、いや、確かにルナリアの勇者を名乗りはしたが、私は……ぐっ、うわあああああ!」


 ドレスの女性がクラリオさんを大剣の上から殴りつける。


 すぐに剣の反応爆発が起こるが、ドレスの女性は笑顔のまま微動だにせず、クラリオさんが拳圧に負け吹き飛ばされる。


「アプティ! フォローを!」


 さっきの異常種狼の火炎弾を受けて飛ばされた比じゃない、クラリオさんが受け身も取れない速度で飛ばされ、部屋の反対側の壁にぶつかる寸前にアプティが追いつき受け止めてくれた。


「貴様……! 喰らえ……オロラエドベル!」


 ラビコが紫の魔力を放ち、高速詠唱。とんでもない速度で魔法が完成し、ドレスの女性の脳天に……


「あれれ、お前知って……る? んー、私記憶力悪くてさぁ、そういやあのときの人間たちのなかにお前みたいな雷使いがいたよな。じゃあお前か?」


 ラビコの放った雷魔法が何も無い地面に着弾。


 ドレスの女性が宙に浮いているラビコの背後に急に現れ拳を構える。あれを避けるか……正直今まで見た中で最速詠唱版の雷魔法だったんだが……!


「ラビコ! ダミー魔法を背後に撃てるだけ撃て!」


「後ろ……!? くっそ!!!!」


 俺の声で背後にドレスの女性がいることに気がついたラビコが手だけ背後に向け、二十七個の紫の光の塊を放つ。


「おお、いいねいいね! 多少は緩和出来るかなぁ?」


 ドレスの女性がラビコの魔法を突き破りながら拳を振り抜く。


 背中を強打されたラビコが地面に叩き落とされるが、アプティがなんとかフォロー。


 一応弱いながらも魔法シールドも展開していたっぽい。その辺りはさすが歴戦の魔法使いラビコ。



「っンの野郎! なに者だてめぇ!!」


 猫耳フードのクロがキレ、魔晶銃を乱射。全てドレスの女性に命中するも、女性は表情一つ変えない。


「……くそ! クロ、今すぐ自分の真上に柱を! 一秒後右、背後には二本、急げ!」


 俺の言葉と同時にドレスの女性がクロの上空にジャンプしていて、体重の他に魔力を纏った蹴りを放ってくる。


 すぐに移動し、クロの右側から回し蹴り、さらに背後に移動し口から極大火炎を放ってきた。


「な、なンだよコイツ……! 人間じゃねぇ……蒸気モンスターか!」


 クロが俺の言葉だけを頼りに指示通り柱を展開。


 全ての攻撃を柱が受け止め、クロは無事。さすが、あの柱はすげぇな。



「きゃはははははは! すっげぇすっげぇ! 私と戦ってまだ全員無事か! きたきたー! これはアタリ……あ? 私はネーブゼロじゃねぇよ」


 ドレスの女性が狂気の笑顔。しかし最後で顔をしかめる。


 ネーブゼロ? はて……どこかで……。



「アタリっても、まともなのはお前だけか」


「うぐぅ! ……うう……」


 何か思い出そうとしていたら、ドレスの女性が俺の目の前に来ていて、胸ぐらをもの凄い握力で掴まれる。


「お前だお前。そいや勇者は男だったな。ってことはお前か! でもお前の目……あれ、そいやファルミオ様からなんか聞いていたような……おっと!」


「ベッス!!」


「……マスターへの敵対行為……許せない……」


「その男に触るなぁ!!!」


「キングから離れろクソ女!」


「は、離れてください……!」


 怒りMAX愛犬ベスのシールドアタックに気付いた女性が上空に回避、アプティの追撃の蹴りを左手一本であしらい、ラビコの雷連打を空中で全て避け、クロの柱魔法の直撃を拳で受け止める。


 す、すげぇなこの女性……こっちのフルメンバーアタックをいとも簡単に……。


 って最後のセリフ、ロゼリィじゃねぇか。


 慌てて見ると、ロゼリィが俺の前で両手を広げ守ろうとしてくれている。



「……ふぅん。やっぱその男がキーか。ってかお前のパーティー、面白えな。こんな異種族パーティー初めて見た」


 ドレスの女性がベスとアプティを見て笑みを浮かべる。


 まだ蒸気を出すことはしていないが、アプティの正体が分かっているのか? 


「なんか人間の強ぇ勇者ってのが来るって聞いてさー、確か三十階層まで来てた奴らだろ? ならその三十階層にいたネーブの狼連れてきてよ、これ突破出来たら勇者ってやつなんだろうと待ってたんだ。ってもそのまま置くんじゃつまんねぇからさ、ちょっと魔力ぶっ込んで強化しといたんだけど、なんか簡単に突破してきたから嬉しくってさー、きゃははは!」


 女性が楽しそうに語る。


 意味はさっぱり分からないが。


「もーさー、最近つっまんなくてさー。ロクな人間入ってこないし……ちょっと前にさ、すっげぇ無茶な特攻してきたパーティーがいてさー、あれが勇者って奴らだったんだろ? あれすごかったなぁ……ああいうのって死に戻りアタックって言うの? 人間なんて長生き出来ねぇのにさ、その生命を削りに削ったとんでもねぇ奴らでさー」


 ちょっと前に来た無茶な特攻? どういうことだ。それはルナリアの勇者のことを言っているのか?


 ルナリアの勇者が来たって、ラビコの話だと少なくても五年以上前のことだろ。


 それをちょっと前、ね。なんか時間の感覚が俺等と違う感じ。


「あのときは面白くて見てただけでさ、そしたらすぐ帰っちゃって、今思うと損したなーって。だからさ、次勇者ってのが来たら遊んでやろーって」


 見ていた? 


 この女性はルナリアの勇者がダンジョンに来たのを見ていたってことか?


「でもお前違うよな。うん、勇者以上に強くて面白い奴! 怒られるかなー……ファルミオ様おっかねぇけど……ちょっと遊ぶぐらい、いいよね! 本来自分が管理するように命令されたのに、面倒がって部下に押し付けたんだからさー。私もこんなところに押し込められて千年退屈してたしーもうさー……強えぇ奴と思いっきり遊びたいんだ!!」


 ドレスの女性がブツブツと呟き手を地面につけ、獣のような四足で構える。


 お尻に生えている三本の尻尾が炎で包まれ、目が獲物を見つけた獣の目に変化。



「……ファルミオ、火の柱ファルミオ……」


 ラビコが火の国デゼルケーノで千年幻を倒した報酬で貰った極大紫魔晶石を持ち出しドレスの女性を睨む。


 ……極大紫魔晶石、それを使うクラスの相手、ラビコはそう判断した。


 つまり、生命の危機。


「アタシにもファルミオって聞こえたな。それって火の魔法を使うときに力を借りる、大いなる存在ファルミオのことかな……まさかな」


 猫耳フードのクロも極大紫魔晶石を取り出す。


 大いなる存在? ディスティネーションタイプの魔法を使うときに力を借りるという、大いなる存在。


 俺は魔法が使えないからさっぱり分からないが、それってお祈り的な、使う魔力の方向をブラさない為の都合のいい存在を人間が作り上げたってことじゃないのか?


 今から私は火の魔法を撃ちますよ、火です火、的な。学力向上のお願いをするから、それ系の神様がいるという神社に行こう、ぐらいの感覚。


 もしかして大いなる存在って、マジで実在しているとか?



 ドレスの女性の話が本当だとすれば、そのファルミオという存在から何かの管理を押し付けられた。つまり、この女性はその大いなる存在に近い人ってことか? 部下とかそういう。


 なら……この女性の桁違いの強さも理解出来る。


 この人は人間とか蒸気モンスターレベルじゃなく、それとは全く違う存在。


 神様とか、そういうものになるのでは……。


 俺があれこれ考えたって想像しか出来ないし、答えなんておそらく出ない。なんでもいいがとにかくここで全力出さないと、全員が生命の危機にさらされる。



「……こ、怖いです……」


 ロゼリィが泣きそうな顔で俺の左腕を触ってくる。




「……全員下がれ。俺とベスでやってみる」



 俺は足元に元気に絡みつく愛犬の頭を撫で、想いを伝える。



「あっはは! ……うん、いい顔してるね。それでこそ私の男だ。一言だけアドバイスさせてもらうけど、ダンジョンは壊すなよ~? さ、みんな下がるよ~。側にいたら、正直社長の邪魔になるだけだからさ~あっはは~」


 水着魔女ラビコがすぐに理解してくれ、みんなに通路まで下がるように指示をする。


「お、おい……! 捨て駒か? あの少年を置いて逃げると言うのか!? 私はその指示には応じない。戦うぞ……私には勇者が必要なんだ!」


 大剣を構えクラリオさんが俺の横に来てくれるが、ラビコが背中を引っ掴み引きずっていく。


「だ~から~私たちが側にいたんじゃ社長が全力出せないってんの~。巻き添えとか喰らいたくなかったら下がれってことさ~」


「巻き添え? どういう……あの強敵相手に加勢なしとか、無理……」


 クラリオさんが意味が分からない顔でいるが、まぁ、見ていてください。


 多分、なんとかなります。



「……マスター、終わりましたらマッサージをいたします……ご指定の箇所はあります、か?」


「にゃっはは、全力のキングが見れるとかひっさしぶりだぜぇぇ! かっけぇンだよなぁ、あれ見せられたら惚れねぇ女はいねぇって、にゃっはは!」


「怪我だけはしないように、お願いしますね……そうですね、終わりましたら私もアプティと一緒にマッサージ頑張りますね、ふふ」


 アプティ、クロ、ロゼリィが俺の肩を触り笑顔を見せてくる。


 マッサージか……そうだな下半身系を頼もうかな……。え? ああ、足な足。ほらダンジョンで走り疲れたからさ。



「……勝算は?」


 最後、ラビコが小走りで近付いてきて俺の耳に小声で呟く。



 さっきの戦いでドレスの女性の魔力とかを見て、過去に俺が戦った強敵と比較してみたんだ。


 おおよそだが、銀の妖狐以上、エルメイシア=マリゴールドさん、不思議な空間で戦ったジェラハスさん以下……ぐらいだろうか。


 それが当たっていれば、勝算はある。


 数字で表すなら……



「百パーセント勝てる」


 俺は迷いなく言い放つ。



「ぶっ……あっははははは! そっか~百か~それは安心だ、あっはは! 百パーセントの英雄君には必要無いかもだけど、ちょっとだけ勇気をあげるね」


 耳元で笑うな、キーンてなったろ、と思っていたら、ラビコが俺の頬に唇を優しく押し付けてきた。


 お、おい……!


「……ちゃんと戻ってくるんだよ。私たちの人生には社長が必要なんだからさ」


 そう言うとラビコがヒラヒラと手を振り、部屋の入口付近まで下がっていく。


 ロゼリィとかクロがラビコの行動を見ていたらしく、すっげぇ向こうで揉めているが……勇気、か……ありがとうラビコ。




「あれー? 一人? なんで全員で来ないんだよ。さっきの連携、人間にしては結構いい線いってたのにさー」


 俺が歩き近付くと、律儀に待っていてくれたドレスの女性が不満そうに言う。


「一人じゃないさ、ベスもいる」


「ベッス!」


 愛犬を撫で、ベスからふわっと出ている光る紐みたいなものを掴む。頼むぜ、ベス……全力で行くぞ。



「いい目してるなーお前。なんか全部見透かされそうな、真っ直ぐな目。さぁやろうぜ、私と全力で遊んでくれよ……きゃはははは!」


 女性が口から極大の炎を吐き、それを両手のゴツイ武具に纏わせる。


 ガツン、と拳をぶつけ合わせたと思ったら瞬時に俺の上空にジャンプしていて、纏った炎を投げつけてくる。


「ベス……行くぞ、狼武装!」


 俺が叫ぶとベスも吼え、体から光を放ちそれを形と成す。


「オオオオオオン!!」


 俺が乗れそうな感じに巨大化し、光の狼となったベスが魔力を纏った遠吠え。


 女性の放った極大炎を掻き消す。



「きゃははは! 吼えただけでか! そんなんで私の炎を消すのか……すっげすっげぇ! これ神獣化か? こんな能力使えるやつがこの世界にいたのか! 面白ぇ、面白え!」


 女性が狂喜の笑顔。


「じゃあこれは? これはどうする!? きゃははは!」


 両手を地面につけ、獣のような四足のポーズで構え突進してくる。


 なんつー速さ、こんなの普通に目で追っていたら避けられねぇよ。



「せーのっ……おりゃああ! ……ってあれれ、いねぇ……」



 俺がツイているとすれば、それは過去に何度か強者と戦えていることだろうか。


 銀の妖狐、ジェラハスさん、千年幻ヴェルファントム、エルメイシア=マリゴールドさん。彼等のおかげで、俺の目には桁外れの強さとはどういうものか、という物差しが出来上がった。


 これこそ俺が異世界に来て手に入れた、俺だけが持っている武器。


 チートの魔剣とかではなく、経験という情報。


 あとはこれを元に相手を計り、それを上回る力を出せばいい。



「私の目で追いきれねぇって……お前動いていなかったよな? ……じゃあもう一回!」


 渾身の一撃を空振り、女性が不思議そうに首を振る。


 左側に移動していた俺をみつけ、再び四足ダッシュ。


 俺は彼女の動きを予測し、今度は彼女の背後に座標を定め体を飛ばす。


 そういや水の国オーズレイクで出会ったエルフの女性、エルメイシア=マリゴールドさんがこの力のことを座標指定空間移動とか言っていたか。



「は? え、おいウソだろ……私の背後取るとかファルミオ様クラスかよ! きゃっはは、すっげぇなお前!」


 すぐに俺の場所を把握し、振り返りざまに口から極大火炎弾を飛ばしてくるが、その動きも予測で見ている。


「オオオオオオオン!」


 俺の横のベスが吼え、口から魔力の込められた光弾を放ち炎を消し去り貫通。



「悪いが顔面を殴るぞ」



 ベスが炎を消してくれた瞬間、俺は構えていた拳を女性の左頬に打ちつける。


 女性だろうが手加減もしない。


 ここで頬を殴らないと、こいつ次の瞬間炎を部屋中にバラ撒いて大暴れする映像が見えたんでな。


 俺の後ろにはロゼリィがいるんだ。ロゼリィを、みんなを守るためには、この目で見えた未来を俺が変えないといけない。


 それにこいつは俺の仲間を傷つけた。


 お前がどんな格違いで偉い存在か知らねぇけど、俺はそれを黙って許せるほど聖人じゃあないんだ。


 怒るときは怒る。



「ぎゃっふ……!」



 女性が俺に殴られた頬に手を当て、慌てたように俺たちから距離を取る。


 今の俺達から距離とかとっても意味ないですよ。


 例え数十キロ先だろうが、瞬時に飛んで追いかける。



「……殴られた……きゃっはは……なっぐられたぁ! 私の顔……人間に殴られたぁ!! きゃはははは、こんなこと初めてだ! お前、とんでもねぇな! 調子に乗って遊ぶ相手間違えたってやつか、これ。……でもすっげぇ面白ぇ。この心がワクワクする感じ、そうこれ、これなんだよ私が求める退屈じゃない遊びってやつは、きゃはははは!」


 女性が頬を長い舌で舐め、腹を抱えて笑い出した。



「お前気に入った。しばらくダンジョンにいたから知らなかったけどよ、人間にも強え奴いんのな。私はケルベロス、このダンジョンの管理をやってんだ……ってまぁ嫌々だけどな。ああ、私の名前、しっかり覚えろよー。今日からお前はこの私を飼うんだからな! きゃはは!」


 女性が笑いながら名乗り、俺を人差し指で指してくる。



 ケ、ケルベロス……? 


 このダンジョンってケルベロス地下迷宮って名前だけど、それをこの女性が管理している……? どういうこと、まさかの本人……? 意味が分からないぞ。


 あと、お前は今日から私を飼うってセリフが、もっと意味が分からない。















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