第505話 続続恐怖の砂浜 3 勇者ローベルト=フルフローラ様




「……ちっ……害はなさそうなイレギュラーだったので放っておいたが……魔女同様始末しておくべきだったか」




 夜のソルートン南側にある砂浜。


 ペルセフォス王都から休暇で港街ソルートンに来ているハイラに誘われ誰もいない夜の砂浜に来たのだが、なぜか俺はここにいるはずのないピンクの着ぐるみクマさん集団に襲われている。


 しかも今回はレギュラーだったピンク二匹に、新色の水色を加えた三匹。


 増えてんじゃん。


 こいつらはペルセフォス王都のお城でのみ生息が許されている生き物だと思っていたのだが、野生化してソルートンにまで出てくるとは予想外だった。


 結構ルールが自由な生き物なのかな。




 今俺はどんな状態かというと、砂浜に仰向けに倒され、腕は水色クマさんに抑えられ、胸元にピンククマさん二号が乗っかり、モロ出し下半身にはリーダーっぽいピンククマさん一号が迫ってきている感じ。


 多勢に無勢の絶望的状況&命と貞操の危機。


 なんかこいつら普段から鍛えているようで、やたらに連携取れた動きをしてくるんだよな。


 この厳しい世の中を野生で生き残るには、個々ではなく集団で動くのがいいと学んだのだろう。可愛らしい見た目に反して頭のいい連中だぜ。


 もうダメなのか、俺の初めての体験は着ぐるみクマさんになるのか……と諦めかけていたら、花の国フルフローラからロゼリィに会いに来ていた王族ローベルト様が救援に来てくれた。


 ローベルト様は花の国フルフローラの盾騎士。数的不利ではあるが、こんな野生の着ぐるみクマさんに名のある騎士様が負けるはずはない! 


 お願いしますローベルト様! 死なない程度に、いい感じにクマさんズを痛めつけてやってください!




「これはこれは。夜のお散歩でしょうか。申し訳ないがこちらは今プライベートタイムのビーチでロマンスという楽しいデートの最中でして、出来たら見なかったことにしてお引取りを願う」



 冒頭、離れているローベルト様には聞こえないように舌打ちをし、スックとリーダー格のピンククマさん一号が立ち上がりローベルト様をにらむ。


 言葉は丁寧だが、その着ぐるみから放たれる圧倒的な悪しきオーラは、十五歳以下の子供なら気絶をして記憶を失うレベル。


 そして魔女を始末したって何? こいつら人間の冒険者狩りでもしてんの? おっかねぇって!



「デート? ご冗談を……どう見ても力で押さえつけ無理矢理やろうとしているではないか! どうしたと……一体どうしたというのですか……その少年を狙うライバルが多いとロゼリィ嬢が嘆いていたが、まさかあなたまでとは……」


 ローベルト様がこの異様な状況をすぐに理解してくれたらしく、クマさんズに俺から離れるようジェスチャーする。


 ですよね……! これデートとかじゃないですよね! 


 ピンククマさん一号が少女の夢みたいなポエムを語っていたけど、この状況はそれとは正反対の無理矢理系のアレですよね!


 よかった、ローベルト様は数少ない普通の感覚の持ち主っぽい!



「はは、それほどこの少年は魅力的というわけさ。絶望的な劣勢だろうが前を見、決して未来を諦めない姿勢。どんな強大な力を手に入れようが増長せず仲間を想う優しき心。巨額を手にしても欲のままに使わず、世話になった宿の増築や新たなお店の開店資金に投資をし資産を数十倍に増やす経営者感。どれも素晴らしい……我々が今以上にさらに発展繁栄をしていく為には必要な人材なのだ!」


 冷静に語りかけるローベルト様に対し、クマさんが難しい漢字多めで猛反発。


 このクマさんズ、やけに俺のことに詳しそうだが、お城で情報収集でもしていたのかね。


 我々がさらに発展繁栄をするには必要な人材って、何、俺ってクマさん界の救世主なの? 


 これ以上着ぐるみクマさんが増えたら迷惑なんですけど、俺が。


 毎回襲われるし。



「あとは個人的にこの少年の笑顔が好きでな。出来たら独り占めしたいのだ! フハハ……ハハハハハ!」


 ピンククマさん一号が悪の組織のボスみたいにフハフハ笑うが、聞いている限り私欲が強くね? 


 まぁこれぐらい強引に行かないとまずいぐらい、クマさん界は絶滅の危機にさらされているのかもしれないけど。なんだかソルートン組とかいう謎のライバル組織もあるみたいだし。


 なんつーか、困っているのなら、もっと普通にアプローチしてくれればいいのに。



「私も恋愛についてどうこう言える立場ではないが……もっと普通に……」


「ハハハ! この世に普通などという基準はない! 十人いれば十通りの恋愛があり、それぞれに喜ぶポイントも違えば目指すラインも違う! 私には私の恋愛があり、誰かが上手く行ったルートを辿ったところで私は満足しない!」


 どうにか説得しようと語りかけるローベルト様に対し、クマさん聞く耳持たず。


 うーむ、毎回思うけど、結構やっかいだなこのクマさん。



「相容れず、か……しかしその少年は渡さないぞ……相手が遥か雲の上、手も届かない格上の者だろうと私は引かない……! 今我が国は財政難で、支援してくれる友好国がとても、とっっても欲しい……だが私はその淡い希望を蹴ってでも親友であるロゼリィ嬢の幸せを選ぶ! 過去には想いを告げることも出来ず、国を守り果てていった先人達もいた……ロゼリィ嬢にはそうなってほしくない!」


 ローベルト様が下を向き深く息を吐く。


 数秒後、意を決したように顔を上げ、拳を構えピンクのクマさんに強い視線を向ける。



「我が名は花の国フルフローラの盾騎士、フォリウムナイトのローベルト=フルフローラである! この身の全てを賭け、友のその純粋な想いを守ってみせる!」



 良い声で名乗り、ローベルト様が戦闘態勢。


 大丈夫、どう見てもポジション的にあなたのほうが正義の味方! 


 俺もローベルト様を全力で応援します!



「……素晴らしい。友を想うその心には敬意を表する。だが私も自身の幸せをつかむため、一歩も引きはしない。強い言葉を使うには、本人も強くなくては説得力がない。さぁ、あなたの強さが本物か、それとも口だけなのか……この拳で計らせてもらうぞ!」



 ピンククマさん一号がゆっくりとローベルト様の前に歩き、一定の距離で止まる。


 多分、お互いの間合いの一歩手前なんだろう。


 二人が腰を落とし構え、合図を待つかのようにチラチラと俺を見てくる。


 え、俺? この状況で俺が仕切るの?



「が、頑張ってくださいローベルト様! は、はじめぇ……!」


 俺のちょっと裏返った声を合図に二人が戦闘開始。



 だ、大丈夫、ローベルト様ならあんな変なクマさんに負けはしないさ! つか二人共、じゃれ合う感じで本気は出さないだろ……多分。



 そして思い出して欲しいのだが、このシリアス展開の中、俺はずっと下半身のミニマグナムを出したままなんだよね。


 たまに暇を持て余したピンククマ二号さんがツンツン突いてくるんだけど、くすぐったいからやめて。













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