第487話 俺のこの手に魔法を 5 ラビコとあの小屋へ様
「ったく~私とアプティがいたから良かったものの、結構危険な状況だったんだよ~って。しっかり自覚してよね~」
「分かった、分かったって、マジ俺が悪かったし感謝しているよ」
俺が世紀末覇者軍団の二人と山で遭難をした翌日、水着にロングコートを羽織ったラビコに誘われソルートン南側にある砂浜へ。
ここは銀の妖狐に街が襲われた時戦いの場になったり、ジゼリィ=アゼリィのみんなで宴会をやったりと色々な思い出がある場所。
そしてラビコが俺をここに誘ったっていうことは、タイミング的にあの場所へ行こうということだろうか。
日差しも強く気温もそこそこあるので、砂浜には海を楽しもうと家族連れだったり若い男女だったりで賑わっている。
あ、あの水色の水着の子とかすげぇスタイルいいじゃん。ええなぁあの男、俺も彼女と海来てぇ。
最近ソルートンによくいるとはいえ、ラビコは世界的に有名な大魔法使いなので結構視線が集まる。
主に男の。まぁ気持ちはすげぇ分かるぞ。
俺だってラビコの水着姿は毎日見ているとはいえ、怒られないのならじっっと脳に焼き付けるレベルで眺めていたいしな。
チャンスがあるのなら、デゼルケーノで買った魔晶石カメラで超接写したい。
……そういやラビコって朝弱いっぽいし、朝方に部屋に行けば寝ているラビコの写真撮れるんじゃ。
気付かれたら雷の直撃は避けられないが。
……そうしたらカメラも壊れるな……うん、やめておこう。高かったんだよ、カメラ。
「風が温いね~ってう~わっ、何そのエロい目。海にいるだけで捕まるレベルじゃん」
海風でラビコの長く綺麗な髪が舞い、シャンプーのいい香りが鼻をくすぐる。しっかしすっげぇ美人だよなラビコって、と綺麗なお姉さんに憧れる純粋な心を持つ少年の目をラビコに向けていたら、いきなり犯罪者扱いされたぞ。
「てめぇで海に誘っておいてひでぇ言い草だな。自分好みの女をエロい目で見たらいけないのか……いけないな、うん。すまんかった……」
どうにも俺ってすぐに顔に出るらしく、こっそり気が付かれないように眺めてエロを楽しむ、が出来ないんだよな。
つかこいつ、俺がちょっとでも変な動きをすると、すぐにツッコミ入れてくるんだよ。安心して女性をエロい目で見る暇もねぇ。
「はぁ……ま~たそういうことをサラっと言う~。だからさ、エロいことしたいんならちゃんと言えばいいじゃない。ほら~試しに言ってみなって。ちょうどよく、ここには誰にも見えないし入ってもこれない不思議な小屋があるからさ~あっはは~」
水着魔女ラビコが超面白いことを思いついた顔になり、ニヤニヤ笑いながら俺に体を密着させてくる。
くそっ……俺を童貞だと思ってもてあそびやがって……!
く、悔しいけど女性に体密着されたら顔真っ赤で体固まって何も出来ねぇけどな……!
そしてお前のお師匠であるエルメイシアさんの住んでいた小屋を、都合のいいエロいホテルみたいな扱いすんなよ。
「あっはは~周りの男の視線がすご~い。ねぇねぇ社長~今私達ってどういう関係に見られているのかな~? 当然肉体関係はあって、今日は気分を変えて外でヤリにきました~とかかな~あっはは~」
突然何を言い出すんだこの魔女は。
頼むからこれ以上俺の世間体を地に潜らせることはやめてくれ。
「……ほら行くぞラビコ。わざと話をそらそうと無理しなくても大丈夫だって。なんか相談があるんだろ? 俺でよければ聞くからさ」
俺は必要以上にケラケラ笑うラビコの頭を撫で、気持ちを落ち着かせる。
「…………ちぇっ……気付いてんのか……年下のくせに大人ぶっちゃってさ~。その超反応している下半身がなければコロっといくところなのにな~。まぁこの頭と下半身が別行動なところが私の社長って感じで安心はするけど~あっはは~」
妙にハイテンションだったり、体を密着させてきたりと、ラビコのこの感じは何か不安でまとまらない考えがあるんだろう。
ああ、俺の下半身ならご指摘の通り、ラビコの柔らかな体に反応してヤバイことになっているぞ。この俺の意思とは別にどこだろうが素直に反応する暴走マグナム君とはいつかキチンと話し合わないと、マジで捕まりそうなんですよね……。
俺達は海とは逆の方向にある林の中へ入っていく。
すぐに緑のぼんやりとした光に包まれた空間が見えてきて、そこの中心に小さな木の小屋が見えてきた。
「この辺かな~? ねぇ、社長はもう見えているんでしょ~?」
右腕に絡んでいるラビコが林をキョロキョロしながら言う。
そうか、そういやこの不思議な空間は普通見えないんだっけ。
「ああ。もう目の前だぞ」
そう言い、俺は普通にその空間に入る。おお、なんか久しぶり。地面からふわーっと緑の光が湧いている感じで、ほんのり暖かい。
「うわ、社長が消えた~。ほんと、不思議な仕組み~」
水の国オーズレイクで出会ったエルフ、エルメイシア=マリゴールドさん。
どうやらあの人が子供だったラビコに魔法を教えた張本人らしい。
確かにエルメイシアさんが放つ魔法や、戦い方の発想はラビコとよく似ていた。
つか向こうが本家か。
エルメイシアさん曰く、エルフも俺や蒸気モンスターと同じく異世界から来た種族だそうだ。エルフといったら魔法が得意なイメージだが、まさにオーズレイクの森の中で対峙したときのエルメイシアさんの放つ魔力は、どうやったって人間が敵うレベルではなかった。
ラビコは人間の中では世界屈指の魔法使いらしいが、やはりその力はエルフであるエルメイシアさんから習ったからこそのものなのだろうか。
「確かエルメイシアさんは透過境界……とか言っていたかな。この結界」
「透過……境界? ふぅ~ん、そういう名前なんだ」
ラビコが祈るように手を合わせ、結界の中に入ってくる。
「ラビコはこないだ俺が水の国オーズレイクの森の中で出会った、あのエルメイシアさんから魔法を習ったんだよな? それなのにこの魔法結界のことはあまり知らないのか」
「うん、結局私には姿を見せてくれなかったけど、そう、あの声の主が私の魔法のお師匠さ~。魔法については、お師匠ってなぜか私の前であまり魔法を使ったり見せてくれなかったんだよね~。使うにしても、この小屋の近くでちょっと見せてくれたぐらいで……だからあまりお師匠の魔法には詳しくないんだ~あはは……」
俺の問いにラビコが答えてくれたが、あまり魔法を見せてくれなかったってかい。なんか理由でもあんのかな。
使うにしてもこの小屋付近、つまり結界内ってことか。
そういやエルメイシアさんが自分は追われている身、とか言っていたけど、魔法を使ったら居場所がバレやすいとか、そういうのが関係してんのかな。
「それでさ……ね、社長……ここで私の体を見て欲しいんだ……全部」
追われている身かぁ、とエルメイシアさんのことを考えていたら、ラビコがほぅっと息を吐き、紅潮した顔で腕を絡ませてきたぞ。
な、何事……あ、ま、また童貞の俺をからかおうとしているんだな。
そ、そうに決まっている……!
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