第483話 俺のこの手に魔法を 1 世界レベルではなく地元レベル様




「魔法、魔法なぁ……」



 宿ジゼリィ=アゼリィの一階にある食堂のいつもの席に座り、正社員五人娘の一人、元気ハツラツなヘルブラが持ってきてくれた紅茶を口に含み溜息。



 俺は水の国オーズレイクで出会った女性のことを思い出しながら右手を構える。


「まじかるまじかるー我かざすは光の……スカートめくりぃ!」


 俺の席に紅茶ポットを配膳し終え、厨房へ戻ろうとしているヘルブラのひらひらのスカートに向かって何か色々混ざった謎の言葉を発するが、スカート様はピクリとも反応しねぇ。




 アンリーナに誘われ観光で行った水の国オーズレイク、そこで俺はゲームとかで有名なエルフってやつに出会った。


 よく分からないが戦うことになり、そこでエルフ族の女性、エルメイシア=マリゴールドさんの圧倒的な魔力をこの肌で感じた。あれはラビコどころじゃない、人間にはどうやっても到達することが出来ない、対峙しているだけで恐怖を感じるレベルの魔力。


 ……とそんな桁違いの魔法使い様と出会えたんだから、当然それはついに俺に訪れた異世界を魔法で無双する物語が始まるきっかけイベントでした……! じゃねぇのかよ。


 せっかく奇跡の確率を越えて異世界に来れたってのに、夢だった魔法一つ使えない始末。


 はぁ、俺もラビコみたく雷とか出してみてぇなぁ。




「な~にやってんの社長~? 食堂で不自然に右手真っ直ぐ伸ばしちゃって~」


 一体俺は何をしに異世界に来たのか悩んでいたら、右隣りに水着にロングコートを羽織ったラビコが座ってきた。



 ちなみに正社員五人娘の一人ヘルブラさん。彼女はお金を稼ぐために冒険者として登録してペルセフォス王都に行こうとしていたそうだ。


 そこに最近美味しいと評判のお店が高額でアルバイトさんを募集していると聞き、試しに応募してみたら受かったんだと。


 確かにヘルブラは運動神経の塊みたいな女性なんだよな。


 以前宿の増築工事の時、夜の砂浜で行われたジゼリィ=アゼリィ従業員による一芸披露大会では、足元が不安定な砂場にも関わらず体操選手のようなバク転の連続を見せてくれ、俺が盛大に驚いた。


 あの運動神経の良さと体の動きは格闘系冒険者を目指していたのかな。



「い、いやなんでもない。ヘルブラを呼び止めて、追加で甘い物を注文しようか葛藤していただけだ」


「うっそ~、スカートめくりぃ! とか小声で言っていたじゃない」


 っの野郎……聞いていたんじゃねぇか! 冷静装って必死に言い訳したってのに。


「あっはは~分かる、分かるよ社長~その年頃はしたくてしたくてたまらない時期だもんね~。ほ~ら、ラビコさんが欲に勝てずに暴走寸前な社長にサービスしてあげるよ~」


 ラビコがニヤッニヤしながら、ロングコートの裾をめくったり閉じたりして水着姿の太もも部分を見せつけてくる。


 おおおお……! これはエロい、とてもエロいぞぉぉ!


 元から水着で見えているのを一回隠してからコートをめくって見せてくる嘘パンチラなのだが、不意な風でスカートがめくれておパンツ様が見える、と同等の価値があるシチュエーション……なのか? 違うのか? ああもうどうでもいい、とにかくエロい。



「ニャッハハ! おっもしれぇぐらい釣れてンなぁ。でもロゼリィに気付かれる前にやめといたほうがいいぜキング」


 そう言い、二丁の魔晶銃を腰にさし、猫耳フードにゴーグルをつけた女性クロが俺の左横に座る。


 おっと、まさに宿の娘ロゼリィが他のお客さんの注文品を持って厨房から出てきたところだった。あっぶねぇ……ロゼリィはエロに厳しいからなぁ。連続お説教はご勘弁だぜ。


「それがさクロ~、社長ってば使えもしない魔法を駆使してスカートめくりとかしようとしててさ~。も~そのいつまでもブレない一貫とした思考とエロを求めて健気に努力する姿が面白可愛いくてさ~あっははは!」


 あ、い、言うなよ! だからなんでこの水着魔女はちょっと俺の行動見ただけで全て理解出来んだよ。


「あ、それ分かるぜ。キングって行動が可愛いンだよな。ついからかって……じゃなくてサービスしたくなるっつーか、ニャッハハ」


 か、可愛いって……そしてクロさん、今ついからかってしまうって言いかけたろ。


「ニッハハ、しかしスカートめくりなぁ、それだと風系の魔法だな。ペルセフォス騎士のお得意の魔法だろ、それ」


 そういやそうだな。サーズ姫様だったり、ハイラがよく使うのが風の魔法だもんな。王都で騎士学校に通わせてもらったが、そのときも生徒のほとんどが風の塊を撃つ魔法の練習をしていたしな。


 でもその風系の魔法が得意な国の騎士学校で短期間とはいえ習ってダメだったんだよな、俺。はぁ……。



 つか真面目にスカートめくりに都合がいい魔法はどれだ、みたいな童貞空想論議を女性側から提案してくんなよクロ。

 

 好きになっちゃうだろ。




「よ~し、普段は絶対に面倒でしないけど~社長がど~してもって言うのなら、この大魔法使いであるラビコさんが魔法を教えてあげよう~。ただし一日一万G~……え、授業料が払えない? 仕方ないな~じゃあ体で払ってもらうしかないな~。ほら、一生このラビコさんの下僕君をするって誓ってくれればいいだけだから~簡単でしょ~あっはは~」


 ラビコが超面白いこと見つけた、という顔になり、爆笑しながら俺の右腕に絡みついてくる。


 ってまーた一万Gか、誰が毎日お前に日本円にして百万円を払うかっつーの。どんだけの金持ち設定なんだよ、俺は。ハイラがレースで稼がせてくれたお金はまだあるが、一夜成金で得たお金ではそこまで余裕ねぇって。


「キングがアタシの言うことを何でも聞いてくれる下僕に……ニッハー最高だなそれ! 聞いて驚け、このアタシこそあの魔法の国セレスティアの第二王女であるクロックリム=セレスティア様だ! 魔法の本場、そうアタシならセレスティア仕込みの本物の魔法ってやつを教えれたりしちゃうンだぜぇ? ただし見返りはアタシを毎日お姫様抱っこ……」


 うーわ、ラビコの悪乗りにクロまで大興奮で乗っかってきたぞ。

 

 何が今さら聞いて驚け、だ。名乗らなくても知ってるっての。あとそれ内緒なんだろ? 自ら自慢気に言うなよ。


 そういや王都でも二人が魔法を教えてくれるとか言いながら、いいようにもてあそばれた記憶。確かそこでもクロがお姫様抱っこしろ、とか言ってきたよな。


 本物のお姫様がお姫様抱っこを所望するって、どういうギャグなんだよ。



「まーたお前等、俺で遊ぼうとしやがって。俺は真剣にスカートめくりが、じゃなくて魔法を使ってみてぇんだよ。確かにラビコとクロは最高の魔法使いだが、俺とはレベルが違いすぎる」


 俺は二人が絡みついていた柔らかい物が当たっていて軽いエデン状態だった両腕を名残惜しそうに振りほどき立ち上がる。


「あっれれ~どっか行くの社長~? その超反応している下半身では捕まるかもよ~? あっはは~」


 ラビコが俺のマグナム部分を指し笑う。


 う、うっせぇ、お前等みたいな俺好みの美人様の柔らかい物を両腕に感じて反応しないほうが男としておかしいだろ。


 この柔らかな思い出は、今晩使わせて頂きます。






「ったく、あいつ等は美人で体がエロすぎるんだっての。思春期の少年には刺激が強くて抑えきれねぇんだよ」


 なんとかラビコとクロを振り切り、脱いだジャージの上着で上手に股間を隠しつつ俺は宿を出る。


 目指すはソルートン中心部付近にある冒険者センター。


 

 さっきも言ったが、ペルセフォス王都の騎士学校だったりラビコだったりクロだったり、俺には習う相手のレベルが高すぎたんだよ、きっと。


 あんな世界レベルの学校、実力者じゃなくて、このソルートンで穏やかに活動しているレベルの、地元の普通の冒険者さんから学んでみるのが俺にはちょうどいいんじゃないかと思う。


 なんにせよ、結果を求めるのなら行動あるのみ。



 早速冒険者センターに行って、集まっている冒険者さんに色々相談してみようじゃないか。













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