第452話 アンリーナの謎のアイランド計画様




「青い空に青い海、そして赤みがかった建物。そうそう、花の国フルフローラってこんな感じだった」



 午前八時過ぎ、俺達は花の国フルフローラ最大の港街と言われるビスブーケに到着。



 緯度的に南国で大変暑く、肌に突き刺さる日差しがすごい。ここからさらに南にある火の国デゼルケーノも暑かったが、あっちは砂漠で乾燥の暑さ。花の国フルフローラは海風そよぐ、湿度がある暑さという感じだろうか。


 街中に花壇が置かれ、色とりどりの花が植えられていてとても美しい。




「ふふ、街が綺麗ですね。なんだかわくわくしちゃいます」


 左隣りで宿の娘ロゼリィが興奮気味。


 この絵本の世界のようなメルヘンな感じの風景は男の俺でもわくわくしてくるし、花好きであるロゼリィにはたまらない光景だろう。



「前回来たときは紅茶探しが目的だったからあまり観光出来なかったけど、今回はみんなに心配かけてしまったお詫びを含め、のんびり見て回ろうと思う。アンリーナ、お仕事のスケジュールは大丈夫なんだろうか」


 ペルセフォス王都にジゼリィ=アゼリィの支店を出そうとしたとき、良い紅茶が欲しいと花の国フルフローラに仕入れに来たっけ。アンリーナの取引先の挨拶回りついでに農園巡りに付き合ってもらい、彼女のおかげでとても良い紅茶を仕入れることに成功した。


 グリン農園とガウゴーシュ農園のみなさんはお元気だろうか。



 観光、俺達は大丈夫として、アンリーナは魔晶石と化粧品で有名なローズ=ハイドランジェという世界的企業の娘さんだからなぁ。日々忙しそうに世界を飛び回っているらしいし、こんな思いつきの旅行に付き合わせてもいいのかね。



「もちろんですわ師匠。現在ローズ=ハイドランジェでは、世界で初めてと言えるとても大きな事業に着手したところなんです」


 ん? 世界で初めてと言えるとても大きな事業に着手? 


 なんかすごそうだが……余計こんなところにいて大丈夫なのか。


「以前から計画はゆっくり進んでいたのですが、ここのところの急激な売上増加により予算確保が一気に出来てしまいまして、急ピッチで工事が進められております。これも全て師匠のおかげなのですわ。本当にありがとうございます」


 アンリーナが丁寧に頭を下げてくるが、ジゼリィ=アゼリィに関わってからのローズ=ハイドランジェは本当に売上が増加したそうな。多少なりともアンリーナに恩返しが出来ているのなら、俺としても嬉しい。



「工事はとても順調に進んでいるのですが、やはりどうにも足りないと思える部分がありまして……もっとイベント、いえ雰囲気と言いますか……こう、ムーディーなものが欲しいと思っていまして……」


 ローズ=ハイドランジェが世界で初めて進めている事業でもっとムーディーなものが欲しい? 


 いったいアンリーナは何を始めようとしているのだろうか。


「一生に一度の私と師匠の晴れ舞台ですし、世界にこのことを知らしめるにはありきたりで普通のものではなく、もっと派手でロマンチックなものが欲しいと思っているのです」


 何を言っているのかさっぱり分からん。誰か解説をしてくれ。


 どうにも俺が関わっているみたいだが。



「そういえばアンリーナさ~、ソルートンでアイランド計画がどうのとか言っていたけど~それのことかい~?」


 水着魔女ラビコが話に入ってきてくれた。助かる、俺頭悪いからさ。


 なんかニヤニヤしているのは気になるが。


「はい、そのアイランド計画になります。どうにも最近の師匠は次々と女性を毒牙にかけていっているようなので、これはさっさと行動しないと手遅れになるかと思い急ぎ計画を進めているところですわ」


 真顔でアンリーナが言うが、俺が女性を毒牙にかけているって何の話だよ。


「あっはは~それは同感だね~。社長には二十歳になるまで、あと四年待って欲しいとか言われたけど~この調子じゃその四年あったらどんだけ女が増えていくか考えただけでおっそろしいし~。やっぱ同盟協定なんて守らないで行動したモン勝ちなのかな~っと、あっはは~」


 笑うラビコの言葉にロゼリィ、アンリーナ、クロが真剣に頷く。今は耳無しバニー娘アプティは、しゃがみ込んで愛犬ベスとなにやらモゴモゴ会話中。


 え、何? なんでみんな頷いてんの。俺だけ意味わかんねーんだけど……っていうかアプティさん、いつもベスと何の会話してんの。そっちのが気になる。



「というわけでですね師匠、今回トラブルで花の国フルフローラに来たのですが、私にとっては不幸中の幸いとも言えるのです。師匠も銀の妖狐にさらわれ、不自由な思いをされたでしょう。心に傷が出来たかもしれません。私達も師匠の安否が不安で眠れぬ思いをしました」


 あ、別に不自由ではなかったかな。


 銀の妖狐がジゼリィ=アゼリィそっくりの環境を作っていてくれたし。


 でもいくら似ていようが、やっぱりあの島はジゼリィ=アゼリィ、ソルートンではないんだよな。みんなの顔が頭に浮かんで離れなかったし……すぐにホームシックっぽくなったし。


 みんなに心配かけたのは本当にごめんなさいと謝るしかない。



「色々ありましたが皆さん無事ということになりましたし、あまり引きずっても精神的によくありません。ここは皆さん気分転換が必要かと思います。ええ、そうです観光です。皆さんで楽しい思い出を作り、笑顔でソルートンに帰ればいいのです。もちろん気分が高まり過ぎて思わず男女の関係がぐいっと進むことも当然ありかと……! そういう素晴らしい旅に……!」


 さて、観光ってもどこに行こうかね。


 前回行けなかったところとかいいよな。


「オホン……失礼。つまり、我が社で進めているアイランド計画のイベントの参考としてこの花の国フルフローラを観光するのは、お仕事の一環でもあるのです。公私混同……かもしれませんが、なにせ私と師匠の盛大な式、この私自らが行くのが一番なのです!」


 お、自力で戻ってきたかアンリーナ。


 しかし大興奮して役者のような大げさな身振りで演説をしたもんだから、周りに見世物かと人が集まってきたぞ。さっさと移動したいところだ。

 

 なんというかさすが実績を上げ続けている大企業の娘さん。こういうプレゼンは得意中の得意なんだろうなぁ。


 ……式? なんのことなんだ、それ。



「説明が長くなりましたが、私と師匠の明るい未来図&家族計画の為に花の国の王都であるフルフローラに行きませんか、ということです」


 花の国の王都。ほう、それは興味あるなぁ。



「行ってみたいです! 花の国の王都フルフローラ。お花に囲まれたお城なんでしょうか……ああ、想像が止まりません……!」


 お、ロゼリィが乗ってきたぞ。


「王都フルフローラか~……あ、そうか~そういや街のあちこちに宣伝チラシが貼ってあるね~。そういやそういう時期か~。ほら社長、光る桜さ~。アンリーナはこれが見たいんじゃないかな~」


 ラビコが街のあちこちに貼ってあるチラシを指すが、光る桜? そういやそれ、以前聞いた覚えがあるな。


「お、フルフローラの祭りか! 行きたいぞキング! すっげぇ楽しそうじゃねぇか、ニャッハハ!」


 クロも乗ってきたが、フルフローラのお祭り? 



 よく分からんがせっかく来たんだし、前回行けなかった花の国の王都に行ってみようか。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る