第409話 ペルセフォス騎士養成学校に通おう! 6 短期入学修了と星に願いを様




「お疲れ様でした先生! これで短期体験入学のスケジュールは完了となります!」




 サーズ姫様のコネで通わせてもらったペルセフォス騎士養成学校。



 今最後の授業を終え、六日間という短い学生生活が修了となった。


 元高校一年生としてはこの学校独特の空間が懐かしく感じ、とても満喫出来た。朝の定時早起きも苦ではなかったし。


  授業計画はこの騎士学校出身のハイラが組んでくれたりお世話をしてくれ、俺はなんの苦労もせずに学校に通うことができた。これはハイラに感謝。



 この学校に通った目的は学生気分を味わう為ではなく、魔法使いになるため。


 冒険者センターで行われる魔法使いへの転職試験合格を目指し、その知識を得るため魔法系の授業を受けれるだけ受けたのだが……。





「あ、ああ……終わって……しまったのか……」


 授業終了後、俺とハイラはこの騎士学校の職員室みたいなとこに行き挨拶を済ませてきた。


 教師達からこのままこの学校に通ってくれないか、と懇願されて参ったが。


 ウェントスリッターのレースで優勝し、今年のペルセフォス騎士代表になったハイラが普通に来てくれたり、世界に名を馳せる大魔法使いラビコが授業を特別に行ってくれたりと、学校としては恩恵がすごかったそうだ。


 特にラビコが授業を行ったという話があっという間に広がり、来年の入学志願者が殺到しているとか。


 俺がいれば、なぜかハイラやラビコが来てくれるからってことなんだろうが、悪いが俺は騎士になるつもりはない。丁重にお断りしてきたぞ。


 

「はい、終わりましたよ! これで明日の試験なんて余裕ですよ!」


 ハイラが笑顔で抱きついてくるが、逆に俺の表情は暗く虚ろ。




「あ、いた! 待って胸元くーん! 学校辞めちゃうって本当なの!?」

「はぁ……はぁ……さ、寂しいです」


 学校の玄関を出ようとしたら、二人組の女生徒が駆け寄ってきた。


 魔法の実技授業で流れ弾が当たりそうになった件以降、俺の横に座り授業を受け、仲良くしてくれた二人。


 気の強い子がアリーシャ、気の弱いもじもじちゃんがロージといい、二人共成績が良く将来有望な生徒。



「あ、ああ……元々六日間っていう予定だったしな……」


 冒険者センターでの試験は明日だから、今日までしか通えないし。


「うん、それは聞いたけど……胸元君、結局魔法使えるようにならなかったじゃない」


 う……それを言うな……言わないでくれ……。


 このままじゃ明日の試験、確実に落ちるんだよ……。


「だからさ、冒険者の魔法使いは諦めて私達と一緒に騎士になろうよ! 三人で助け合ってさ!」


「う、うん、それがいいと思う。ハイラ先輩には敵わないけど、私魔法教えられるよ……」


 二人が俺の右腕を掴んでくる。


 それを見たハイラが敵発見の顔。


「いや、俺は騎士になるつもりはないんだ。アリーシャとロージのような才能も無いしさ。俺は単に子供の頃から夢だった魔法を使えたらなぁってヌルい考えで行動しているだけだし、それに将来のことをしっかり考えている優秀な二人を巻き込むわけにはいかないよ」


 獣のように構え、二人に襲いかかろうとしたハイラの頭を抑え俺は笑顔で言う。


「優秀っても、この学校には私達以上のバケモノがたくさんいるから恐ろしいんだよなぁ。あとさ、私思うんだけど、胸元君って戦士系騎士でも魔法系騎士でもなくて、周りを効率よく動かす軍師タイプだと思う」


「わ、私も……! 胸元君の視野の広さと状況予測はすごいと思う。予測というか、もう予言並に当たる気がする……」



 魔法実技授業には集団模擬戦技術なんてのもあって、三人でチームを組み、魔法に見立てた柔らかいボールを武器に相手フィールドにあるフラッグを奪うゲーム、なんてのもあった。


 当然魔法が使えず無能っぽい俺とは誰とも組みたがらなかったが、二人が笑顔で名乗り出てくれチームを組んだ。


 気の強いアリーシャは体力があり、素早く動ける接近戦魔法タイプ。逆に気の弱いロージは、相手との距離さえ保てれば才能を発揮する遠距離支援タイプ。


 ボールを投げるなら俺でも出来るので、前衛アリーシャ、俺が真ん中で司令塔となり後方支援をロージで組みチーム戦に挑んだ。


 ボールが一回当たればアウトのワンライフ制。手持ちのボールは十個。


 前衛をアリーシャに任せ俺の指示で派手に動き回ってもらい、俺とロージで後ろから適度にボールを投げ、隙を突きアリーシャか俺が相手陣営を突破しフラッグを掴む作戦で連勝連勝。


 気が付けば一度も負けずクラストップの成績となっていた。


 基本派手に動き撃破数一番なアリーシャが生徒や教師に褒められていたが、後方支援であるロージの俺の指示意図を理解し実行する早さと狙撃精度の高さが勝因とも言えた。



「基本俺は何も出来ないからさ、二人が俺を信じて動いてくれたのは嬉しかったよ。俺はいなくなるけど、二人なら大丈夫。必ず優秀な騎士になれるさ」


 二人の頭を撫で、笑顔を向ける。


「うわわっ……この感じ、胸元君って絶対モテるよね。ハイラ先輩の気持ちが分かったかも。それとあなたのおかげで、優秀なリーダーの存在ってのがどれだけ大事かってのも分かった気がする。せっかくそのリーダーが誰か分かったのに、これでお別れは寂しいなぁ」


「あ……その、学校じゃなくてもプライベートでお会い出来たら嬉しいのですが……」


 二人は俺と同じ十六歳だとか。


 この二人なら間違いなく優秀な騎士になれるだろうし、数年後サーズ姫様の隣でビシっと構えてる姿が目に浮かぶ。



「すまんな、俺って王都に住んでいないんだ。数日でソルートンっていう港街に帰んなきゃいけないし、王都にはたまに来る程度でさ。ああ、でも何か困ったことがあったらハイラに言ってくれ。必ず君達の力になってくれるさ、なにせ俺の最初の教え子だからさ」


 少し悲しそうな二人にハイラをご紹介。


 俺なんかよりよっぽど有益な情報を教えてくれるさ、ハイラなら。


「はいっ! 私が先生の一番弟子、ハイライン=ベクトールです! 手取り足取り、時には二人抱き合い求め合うほどの関係の者です! ええ、いわゆる先生の女でして、このように婚約に近しい意味を持つ二連リングも頂いています!」


 ハイラが良い声で返事をしたが、胸元に付けていた以前俺があげた二連リングネックレスを見せつけ、妄想話も忘れず織り交ぜ二人を威嚇。


 そうじゃねぇだろハイラ……。


 二人が「え?」って顔で見てくるが、信じないでくれよ。


 ハイラの話は八割ウソだから。






「まったく……冗談でもああいうこと言うなよハイラ」


「え? 何を言っているんですか先生、冗談なんかじゃないです。私が先生の弟子で愛人であることは間違いないですし、抱き合ったことも事実です! お互いを求め合うような口づけを交わしたことは空気を読んで秘密にしてあげたんですから、むしろ褒めてほしいです!」


 二人と別れお城に向かう途中ハイラに小言を漏らすが、壁打ちのボールがごとく勢いよく言葉が返ってくる。


 すぐに誤解のないように説明をしたが、あの二人、どこまで信じてくれたかな……。




 さて、なんにせよ期日は明日だ。


 やれることはやった。知識だけはなんとなく頭には入ったし、ハイラとアリーシャにロージが試験で出そうなポイントなんてものをまとめてくれたので、丸暗記で望むのみだぜ。


 実技? んなもん転生者のアレでこれがこうなってえいやっと、だ。



 ……明日が俺の魔法覚醒の日でありますように──と星に祈るしか対策は……ない。












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