第343話 リニューアル! 宿ジゼリィ=アゼリィ 1 ついにオープン様


「足湯、食堂ステージ……よし。温泉施設、よし。客室、よし」



 開店前、俺は宿内全ての施設を見て回り、不備がないかチェック。




「兄さん、リニューアルオープンメニューはどうでしょう」


 食堂に戻り、神の料理人イケメンボイス兄さんに声をかける。



「ああ、大丈夫だよ。食材、手順全て準備万端さ。はは、今日からオープンステージかぁ、ちょっと緊張するなぁ」


 兄さんが苦笑いしながらタオルを頭に巻く。


 どうにも癖っ毛天パは全く言うことを聞かないらしく、タオルで抑えるしかないんだと。


 うん……なんというか、イケボ兄さんはタオル巻いた姿のほうが格好がいい。


 四方に無造作に散っていた髪がうまくまとめられ、地味に整った眉と優しそうな目が髪に隠れずハッキリ見える。


 そして声が超絶イケメン。


 タオル巻いて清潔さがアップ、そこに美味しい料理をどうぞ、と良い声で優しく語りかけられたら俺でも落ちるかもしれん。


 いや、すでに落ちているか。


 今や兄さんのご飯無しには生きていけない体になってしまっているし。




「よし、準備完了。じゃあいくぞみんな! ジゼリィ=アゼリィ本店リニューアルオープンだ! セレサ、扉を開けてくれ!」


 俺が皆の顔を見渡し、お店オープンの合図を出す。



「はいっ! いらっしゃいませ、ジゼリィ=アゼリィ本店、本日リニューアルオープンとなります! お得な限定メニューがオススメとなっています!」


 セレサによって扉が開けられ、午前十時、新生ジゼリィ=アゼリィがついに始動。




「いらっしゃいませ! はい、限定メニュー四つですね? お肉のお皿だけはお客様ご自身での受け取りとなります。すぐに焼きあがりますので、あちらにお並びください」


 リニューアルオープン限定メニューは、ちょっといいお肉のステーキ。


 お肉だけで一人前の原価十G、俺感覚で千円はする代物。それを焼き立てパンにオレンジ入りサラダ、さらにオニオンスープがついて五Gだ。


 限定三百セットにはなるが、お時間のある方はお店に……って外に並んでいるお客さんの数を見たら、一時間で無くなりそうな勢い。



「はい、お肉あがりー。熱いからね、お気をつけてお召し上がり下さい」


 イケボ兄さん含む、宿の料理人が次々とお肉をお客さんの目の前で焼き上げていく。


 お店に漂う良い香り。そして目の前で豪快に焼きあがるお肉。


「うわぁ、すっごい! 朝早くから並んだ甲斐があるー!」

「出来たてが受け取れるスタイルっていいね、焼きあがるのを見ているだけでワクワクしてきちゃう」


 二人組の女性が嬉しそうに出来たてのお肉を受け取り席につく。


 笑顔で食べるその姿を見るだけで、こっちも頑張った甲斐があるってもんだ。



「おおおお! うめぇぞ、この肉!」

「料理人が目の前にいるってすごいな、ショーでも見ている気分だぜ!」


 常連の世紀末覇者軍団も来ているのか。


 うむ、魅せるステージはかなり好評のようだ。

 


「……紅茶もどうぞ……とても美味しい……よ」


 カウンターではバニー娘アプティが紅茶を担当。


 ちなみに本日は紅茶カップ一杯無料で提供している。


 ぜひ、美味い紅茶を飲んでいってくれ。


 残念ながらアプティとの握手はないぞ、悪いな。



「うわーうわー大混雑です! 王都のカフェで経験はしていますが、こっちでこの混雑が起こるとは思っていなかったです」


 宿の一人娘ロゼリィが大混雑の店内に驚いている。


 開店前からお店の周りには大行列が出来、オープンしてからもその列は途切れることなく、さらに増えているとか。警備員さん雇って正解だったぜ。


「王都の混雑は半端なかったなぁ。なんだか懐かしいな、頑張ろうぜロゼリィ。あ、従業員のみんなの休憩はしっかり管理してくれよ。いくら混んでいようが、絶対に規定通り休んでもらってくれ。無理されるとミスが起こるかもしれないからな」


「はいっ! その辺りは私がしっかり管理します! ふふ、なんだかあなたの若旦那っぷりが板についてきましたね、とても頼もしいです」


 ロゼリィが嬉しそうにニッコリ笑う。


 若旦那ではないけど……この宿からお給料をいただいているしな、そのぶんはしっかりやるさ。




「おぅレンジ! 持ってきたぜぇ! 今朝釣り上げた魚達だ! マグロもあるぜ」


「レンジ、久しぶり、しぶり。お父さんと今朝頑張ったんだ、たんだ。褒めて褒めて」


 入り口に山盛りのお魚を積んだ台車が止まる。


 持ってきてくれたのは漁船でお世話になった海賊兄妹。


 事前に今日の仕入れをお願いしていたんだ。


「レセント、シャム、ありがとう。ガトさんにもお礼を言っておいてくれ」



「隊長ー! お肉がなくなったのです!」


 ちびっ子シャムの頭を撫でていると、厨房から正社員五人娘のオリーブが俺の元に走ってきた。


 限定メニューが規定の数に到達したか。開店三十分で売り切れ。


 でも大丈夫、お次はこっちだ。


「タイミングばっちりだ、レセント、シャム。ここからはマグロ解体ショーをお見せするぜ」




「お肉は無くなりましたが、こっちもすごいよ。さぁ、新鮮で美味しいマグロをどうぞ」


 すぐに魚を厨房に運び、メインであるマグロは食堂のステージへ運ぶ。


 イケボ兄さんがざっと下処理をし、デカイ包丁を構える。


 にこやかに笑いながら、一つの無駄な動きもなく流れるようにマグロを解体していく。


「おおおお!」

「すげぇ、迫力ある!」


 見ているお客さんの反応もいいぞ。つーか、俺が食いたい……。



 お肉は売り切れたが、ここからはマグロセットをご提供。同じ五Gで食べられるので、安心してお店に来てほしい。



「あっはは~すっごいね~、王都のカフェみたいな混雑だ~。外の足湯も盛況だよ~」


 水着魔女、ラビコが足湯の状況を見てきてくれた。


 無料ということで、かなり行列が出来ているとか。


 対策として、申し訳ないがお一人様最大十分間という制限を取らせてもらった。混んでいなければ制限はないので、今だけは勘弁して欲しい。


 そして足湯では俺の愛犬ベスが大人気。


 どうにもあそこはベスが自分の物と思っているらしく、混んでいようが我が物顔で泳いでいるとか。その姿がかわいい、と若い女性に大好評。


 そのご主人様の世間体は地に潜っているがな。



「レセント、シャム、よかったらお風呂入っていってくれ。バラのお風呂を用意してあるんだ。無料チケットを使ってくれ」


 魚を持ってきてくれた海賊兄妹に感謝を込めて無料券を渡す。


「おお、いいのかレンジ。じゃあ入ってくか!」


「やった! バラのお風呂、お風呂ー! 私ここのお風呂大好き、好き、レンジ大好き」


 温泉施設入り口のカウンターでは、アンリーナがローズ=ハイドランジェ商品を売っているぞ。サインにも応じているとか。


 足湯が呼び水となり、有名人のアンリーナがいるのも加わり宿の温泉施設も混雑している。



 王都に比べたら人口が少ないので、どれほど人が来てくれるか不安だったが、余計な心配だったようだ。


 さーて、なんとかリニューアルオープン初日を乗り切ってやるぜ。








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