第198話 帰ってきましたソルートン様
「見えた、ソルートンだぞ!」
「おほ~帰ってきたね~社長~」
太陽が傾き始め、海と空がオレンジに染まる時刻。俺たちはソルートンに帰ってきた。見慣れた景色、嗅ぎ慣れた海の匂い、聞き慣れた鳥たちの声。やっぱりここが俺のホームだぜ。
「皆様お疲れ様でした。これよりグラナロトソナスⅡ号はソルートン港に入ります。お忘れ物などないようお気をつけください。またいつか皆様と海の旅に出られるときをクルー一同楽しみにしております。案内役はアンリーナ=ハイドランジェ、まだまだ若輩者ですが、皆様の良き思い出作りのお手伝いが出来ていれば幸いでございます」
アンリーナが挨拶を述べ、クルーがずらっとデッキに並ぶ。俺達も向かいに並びお礼を言う。
「ありがとうございました、こんな豪華な船旅なんて二度と出来ないと思います。突然押しかけたのにもかかわらず、快く迎え入れてくれたクルーに皆さんには感謝しかないです!」
俺が頭を下げると、皆も続いて頭を下げる。
船を降りる前にアンリーナに個人的にお礼を言う。
「アンリーナ、本当にありがとうな。おかげで快適に旅が出来たよ」
「ふふ、良かったですわ。師匠が喜んでくれたのならそれでいいのです。こうして約束の指輪もいただけましたし……はぁ、素敵……」
自分の左手薬指に付けた指輪をうっとり見つめるアンリーナ。
約束の指輪じゃなくて、感謝の指輪な……。
「ペルセフォスのカフェの話がしたいときはどうしたらいいかな。色々相談しないといけないし」
「はい、私もちょっと師匠達の計画に便乗してみようと思っています。しばらくはソルートン中心部にあるローズ=ハイドランジェのお店にいると思いますので、毎日来ていただけると嬉しいです」
ま、毎日は行かないぞ。アンリーナの頭を優しく撫で一時の別れを告げる。
「ソルートンだ、帰ってきたなぁ」
アンリーナと別れ、港を歩く。
かさばるお土産を少しシュレドに持ってもらいホームである宿、ジゼリィ=アゼリィを目指す。
「ふふ、帰ってきましたね。本当にあなたといると楽しいです……やっと私の人生が動き出した感じがして、毎日が輝いて見えます。朝、目が覚めることが本当に嬉しいのです。そしてすぐにあなたの姿を探す……ふふ」
ロゼリィが優しく微笑み俺に肩を寄せてくるが、その肩を軽く抱き俺は言う。
「まだまだだぞ、ロゼリィ。こんなの冒険の入り口ってやつだ、俺はもっとあちこち行ってもっといろんなものを見るんだ。今後も迷惑承知でみんなを連れ回すからな、覚悟しとけ」
「はい、構いません。私はどこまでもあなたについていきます。あなたが宿に来てから私の日記の書く量が増えて毎日大変なんです。いつか完成するあなたの冒険記を、私が最後まで書いてみせます。そちらこそ覚悟をしてくださいね、ふふ」
あれ、ロゼリィは日記をつけていたのか。偉いなぁ……俺には無理なやつだ、それ。
よし頼むぞ、俺がいかに活躍したか大げさに書いといてくれ。
ロゼリィと笑顔で見つめ合っていると、ラビコが不満そうにぶつかってきた。おい、ヤメロ……壊れ物があるんだぞ。
「ふ~んだ。私もついていくんだからね~田舎の宿屋の娘になんて負けてたまるもんかっての」
「こっちだってキャベツ使いになんて負けません。田舎者の根性みせてあげます」
ロゼリィとラビコが睨み合う。
帰ってきてそうそう喧嘩はやめい。
「テクニックです……それがあるものが最後に勝つ……」
アプティがなにやら不思議な手つきをしているがやめような。
「ただいま帰りました、いない間ご迷惑をおかけ……」
「お帰りなさーい!!」
ジゼリィ=アゼリィに入り、帰宅の挨拶の途中でパパーンとクラッカーの音がなり、拍手が起こる。驚いて見ると、宿のみんながずらっと並び、俺達を迎えてくれた。うわぁ、これは嬉しいなぁ。
「おお、シュレドじゃないか! 久しぶりだな、元気だったか」
「ボー兄さん! 久しぶりだぜ! なんだよいつのまにこんなでっけぇお店で働いてたんだよ! 羨ましいから俺も来たぞ! わはは」
イケメンボイス兄さんとシュレドが感動の再会で抱き合う。
いいなぁ、仲のいい兄弟って。
「おかえりロゼリィ。うん、元気なようだね」
ジゼリィさんが出てきて娘であるロゼリィを抱きしめる。父であるローエンさんも加わり、親子で笑いあっている。こっちも美しい光景だぜ。
「あ、ローエンさん……こっちこっち」
俺が小声でローエンさんを呼び、例の高級酒を渡す。
「お、おおおおお……これは私が求めてやまないグインホーク……いいのかい……? くぅ、なんていい婿を持ったんだうちの娘は! 」
ローエンさんが涙を流し喜ぶ。
気のせいか、ロゼリィが無事に帰ってきたことより喜んでないか……気のせいか、うん。
兄弟と親子で抱き合うその姿をラビコが無言で眺めている。
寝たふりして聞いていたが、ラビコは孤児なんだっけか……。
「ほら、ラビコ。なんだよ、お前らしくもない。毒舌の一つでも言っておけよ。あとアプティもお疲れ」
俺はラビコとアプティを抱き寄せ、お互いの体温を感じる。
「な、なにさ社長~ちょっと黙っていただけじゃないか~それに私は毒舌なんて言いません~あっはは~」
うん、いつものラビコだ。
「マスター……温かいです……温かいと心がふわふわしてきます……不思議」
それが人ってやつなんだよアプティ。お前も同じってことだ。
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