第172話 さぁ、ケルシィへ! 5 水着美女の聖地へ様


「…………」



「綺麗ですね」



「ああ……」





 水平線から昇る太陽を見ながら俺は無表情でロゼリィに答えた。


 結局あれから寝付けず、ぼーっと船のデッキに出て昇る朝日を眺めているが、特に感動はない。


 童貞宣言をした傷心の俺に誰か優しい言葉をかけてくれ。




「悪いなロゼリィ、アプティ。付き合わせてしまって……」


「いえ、私も目が覚めてしまいましたし。船の上であなたと見る朝日は一生の思い出になりそうです。ふふ」


 そうか、それはよかった。


 俺には童貞の夜明けが待ち遠しいよ。


「……マスター……紅茶が飲みたいです……」


 了解、そろそろ戻るか。








 部屋の前にある共用ロビーのフカフカのソファーでうとうとしていたら、アンリーナが元気にこちらにやってきた。



「皆様おはようございます! 船は今朝四時にソルートンを出港いたしまして現在午前七時、天候にも風にも恵まれとても順調な航海となっています!」


 アンリーナが海図で説明をしてくれる。



 行き先はソルートンより遥か東の国ケルシィ。


 普通の船なら四日、高速船だと二日の距離にある。早いわりにこの船、揺れはあまり感じない。その証拠に乗り物酔いしやすいロゼリィがピンピンしているぐらいだ。



「明日の午前九時ごろにケルシィ領のフラロランジュ島に寄港しまして、補給で数時間停泊いたします。補給が済み次第再びケルシィ最大の港町ランヤーデに向かいます。二日間の船旅となりますが、皆様の良き思い出作りにご助力出来ればこのアンリーナ幸せでございます」


 アンリーナが深々とお辞儀をする。ニコニコしていてやたらに機嫌が良さそうだぞ。


 途中に補給で寄る島はもうケルシィなのか。


 フラロランジュ島、緯度的にソルートンより赤道に近いみたいだから、暑いところなんだろうか。


 ラビコの部屋がガチャと開き、のそーっとラビコが眠そうに出て来た。昨日はさぞ一人酒を堪能したっぽいな。



「ラビコー、途中で寄るフラロランジュ島ってどういうところなんだ?」


「え~フラ……? あ~世界でも人気の観光地だよ~年中真夏の気温であっついところさ~白い砂浜に~青い海、そして世界中から集まる水着美女~童貞社長には刺激が強すぎるかもね~あっはは」


 ……もしかして昨日の騒動聞いてたのか。くそぅ……。


 しかし聞くとよさそうなところだな。


 ハワイ的なところだろうか、ちょっと楽しみになってきたぞ……水着美女。



「ペルセフォスで人気ナンバーワンリゾート地の~カエルラスター島と同じぐらい大人気の場所だよ~」


 カエルラスター島……そういえばだいぶ前にその名前聞いたな。海に行こうとしたときにラビコが言っていたか。リゾート地、それは今度ぜひ行ってみたいな。




 まずはケルシィ領の水着美女の聖地とやらへ向かい、俺の傷ついた心を癒そうじゃないか。












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