第144話 ウェントスリッターへの道 11 その名はバウンディングダンス様



「ハイライン=ベクトール、これより全ての作戦を遂行すべく行動に移ります!」





 願わくばメラノスさんの曇った目を、考えを晴らしたい。


 才能、技術とメラノスさんは素晴らしいものを持っている。それを正しい方向に向けて欲しい。




「ちっ……追いついたのかよ……! 直線バカが! おい、やるぞ」



 国旗ポイントを抜け直線で私は一気に加速をし、なんとかメラノスさんのいるトップ集団に追いついた。


 メラノスさんが加速、しかしトップグループの残りの五人が減速を始めた。


 直角カーブを曲がる為にしては不自然な減速。




 二番人気のイオーツさんが私の横につける。ニヤニヤと嫌な笑いを向けてきた。



「へへ、悪いな。お前にはなんの恨みも無いがメラノスさんには逆らえないんでな……あばよクソ真面目ちゃん!」


 イオーツさんの操る飛車輪が私の飛車輪と接触する。



 わざと……? 多少のラフプレイは認められているけど、これは……。


 何度もぶつけられ、私は必死に飛車輪に掴まる。ただでさえバランスを取るのが苦手なのに……! 残りの四人にも囲まれ、逃げ場もふさがれてしまった。


 このまま飛べば建物の壁にぶつかる……。



「二度と会えなくなるのは残念だ! へへ……あばよ、そら!!」



 イオーツさん含む四人の飛車輪に激しく激突され、コントロールを失った私は建物の壁に減速も出来ないまま飛んで行く。




 ここはスタート地点から見えない場所、そのうえ観客もいない場所。


 毎年レースでこのポイントで事故が起きる。それはレース最大の難所であることと、ゴールに向けてリスクを承知で勝負を賭ける人がいるから……と思っていたが……。



「こんなもの……飛龍の重い攻撃に比べれば対処出来る!」



 私は壁にぶつかる直前に飛車輪の下面を壁と平行にし、全ての魔力を注ぎ込む。


 壁に向かっていたベクトルを飛車輪の加速で打ち消し、一瞬私の体から重さが消えた。



「……ゼロ! 行きます……これこそ先生が授けてくれた、私を勝利へと導く輝き! 力を貸して……シューティングスター!」



 飛車輪が細かい光の粒子を放ち、力強い鼓動が返ってくる。


 先生に習い二日間という短い特訓で私が得た新たな力。


 物にぶつからないように綺麗に飛ぶことが当たり前、と考えていた私を驚かせたこの作戦。





「――ハイラは曲がるな。いいな最後は曲がらず直線で跳べ。直線加速を最大限生かすんだ――」


 曲がらず直線で壁に向かい、その壁を飛車輪ごと蹴り、跳ぶ。


 まるでボールが跳ねるように跳ぶ、今まで飛車輪の歴史に無い飛行法。こんなこと考えるのは余程頭のネジが飛んでる人か、先生ぐらいだろう。




 壁を蹴り、加速。


 驚くイオーツさん達を一気に抜き去る。


 その先には綺麗に、華麗にカーブを曲がるメラノスさんが見えた。すごく綺麗で美しい飛び方です。私もずっとその飛び方に憧れていた。


 サーズ様のように飛びたい……でもそれは私には叶わない夢だった。


 バランスすらうまく取れず、カーブでは大きく膨らみ、皆にバカにされ続け……指導官からも匙を投げられた。




「――ハイラは直線が速いんだから、曲がらなくていいよ。壁や障害物を蹴って方向転換するんだ。でもその分、足や飛車輪にかかる負担が増えるのは覚悟しろ。ここぞというところだけ、飛ぶんじゃなくてジャンプするように跳ぶんだ――」




 飛車輪が放つ光の粒子に包まれた私は真っ直ぐ跳び、二ヶ所目の直角カーブでメラノスさんを抜きにかかる。



「これが私の勇者様から受け継いだ勇気の輝き……! これが私の飛車輪の使い方……行きます! バウンディングダンス!!」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る