第91話 お土産計画成功とお給料マイナス借金様


 お一人様五個までという条件で販売開始。



 在庫の一万があっという間に完売してしまう事態に。




「街の外から来たお客さんが多かったなぁ。やっぱローズ=ハイドランジェの知名度はすごいんだな」



 現在アンリーナが慌てて追加発注をかけている。



「ちょっと予想以上でしたわ。嬉しい悲鳴ってやつですわね」


 売り切れで買えなかったお客さんにはアンリーナがサインをしてフォローしてくれた。






「お疲れ様アンリーナ、ほいアイスティー」


「いえ、読み違えた私のミスなので、宿にご迷惑をかけてしまい申し訳ないですわ」



 夕方、お客さんもいなくなり、あとは入荷待ち。


 俺は右へ左へ奔走しフォローしてくれたアンリーナに飲み物をおごる。



「はぁ、おいしい。ふふ、なにかしらすごく疲れているのに、もっと動いて仕事がしたい……変なスイッチが入ったみたいですわ。久しぶりに直にお客様の話を聞いて、今後の課題と改善点を考えていましたら逆に気持ちが高ぶってきました」


 うっは、すげぇなそれ。


 ザ・商売人だ、さすが世界的メーカーの娘さん。



「師匠、このたびは私に成長の機会を下さり感謝ですわ。今日はとても楽しかった……はぁ、師匠に見られているという緊張感が私にはとても刺激になると分かりました。……出来ましたら今後も師匠に見守って欲しいです……な、なーんて思ったりしましたです」


 アンリーナが紅茶をすすりながら俺に体を寄せてきた。


 俺は頑張ってくれたアンリーナの頭を撫で、苦労をねぎらう。


「はぅ、すごく安心しますわ……師匠の大きな手、大好きです」


 向こうで料理配膳中のロゼリィが笑顔でこちらを睨んでいるのが気になるが、まぁいいだろう。









「それでは皆様、本日はお世話になりましたわ。今後もよろしくお願いしますです」



「お疲れ様、じゃあなアンリーナ」



 アンリーナ側の皆さんが撤収、宿の皆で笑顔で送る。




「お疲れ様でした。その、先ほど父と母と話し合ったのですが……」


 ロゼリィがアンリーナ一団に手を振っている俺に近寄ってきて左腕をつかむ。


 え、話し合った? さ、さすがに従業員でもない俺が勝手に色々やり過ぎましたかね……。



「食堂のメニュー改善、お弁当販売、お風呂施設増築、そして今回の宿の代表的なお土産品の作成。あなたが来る前と今で、はっきり言いまして倍どころか十倍以上の利益が宿に出ています。これ以上あなたをタダ働きさせるわけにはいかないと、宿にあなたがいてくれる限りお給料を支払うことを父が認めてくれました」


 …………ふぉ? お給料? お金もらえんの!?



「……お給料? マジで?」



「はい、そうでもしないと申し訳がないです。売り上げだけ取って、アイデアや実際動いてくれたあなたに何も支払わないというのは……」


 いいのか!? 嬉しいぞ、それ! 


「あなたがこの宿に来てから、この宿の従業員の顔も変わりました。皆、とても笑顔で楽しそうに働いてくれています。お仕事に能動的に動いてくれるようになり、効率が上がり売り上げにも影響し、皆さんのお給料も増やすことが出来ました」


 おお、みんなのお給料上がったのか、そりゃーよかった。


 イケメンボイス兄さんも笑顔になるわけだ。


 新たにバイトさんや、社員も増やしたみたいだしな。いい方向に向いているのか、この宿。



「ふふ、あなたのおかげです。みんなあなたに感謝しているんですよ? お父さんなんか、息子が出来たって喜んでいますし。そして一番変わったのは私ですね……こんなに毎日笑うようになりました、こんなに堂々と自分の想いを言えるようになりました」


 ロゼリィがぐっと俺の腕にその大きな胸を押し当ててくる。




「私の側にいて欲しい、あなたの子供を私が……」


「はいは~い、エロ娘はそこまでね~よっこいしょ」


 ラビコが背後からロゼリィを羽交い絞めにする。


「な……! 何するんですか! 今いいところなのに!」



「あっはは~社長~お給料貰えるようになったとか~いや~めでたい! じゃあ少しずつ私の借金を返していかないとね~はいっ今月分くださ~い」


 ラビコが笑顔で右手を出してくる。


 どうやったら毎日一万G支払えるってんだ。俺は踏み倒すぞ、そう決めたのだ。


「無理だ、払えるわけがねぇ」


「あっはは~じゃあしょうがないね~私への借金をなくす方法が一つあるのさ~」


 ニヤニヤ嫌な笑顔のラビコ。


「私と結婚することかな~そうすればその借金は無しにしてもいいかな~」


「ちょっ……だめですよ、そんなの! 脅しじゃないですか! 愛のない結婚とかありえません!」


 そうだ! 脅しだ! もっと言えロゼリィ。



「愛ならあるさ~愛しているから支払い期限を設けていないのさ~。愛する男のために広~い心でいつまでも待ち続けるというこの健気さ、愛だろう? あっはは~」


「屈折しています! 私はそういう愛は認めません!」




 さて、そろそろ俺は逃げ出そうかな。



 宿のみんながいつものが始まった、と笑っているし。


 最近この宿には男湯という、いい逃げ場所も出来たことだしな。



「じゃっおつかれっした! お風呂行ってきまーす!」




「あ、待ってください! まだお話が終わっていなのですよ!」


「男湯かい~いいさ~私はなんともないよ~サービスしてあげるよ~社長~」



 俺はダッシュで男湯に逃げ込み、先客の世紀末覇者軍団に溶け込む。





 その後、本当に水着でラビコが男湯に入ってきて覇者達が恥ずかしがるという阿鼻叫喚の光景が広がった。












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