2 異世界転生したら周りがすごい人なんだが

第86話 アンリーナの正体様


「はーい! お元気ですか師匠。アンリーナ、只今ソルートンに帰りましたですわ!」





 お昼、常宿にしている宿屋の一階の食堂兼酒場でランチセット、白ワイン入りチーズリゾットを食べていたらドンとテーブルに何かを叩きつけられた。



「アンリーナか、そういやしばらく見かけなかったな。どっか行っていたのか」


 俺の隣にどっかと座ってきたのはうどん屋で知り合ったアンリーナ。



 相変わらずいい服着てるなぁ。大き目の帽子、こういうのキャスケットっていうんだっけ、をかぶった女の子。多分一個下ぐらいだと思う。


 何かの包みをテーブルに置き、俺の隣に座って足をぶらぶらさせている。




「商談がありましたので、一時この街を離れていました。そうしたら街が襲われたとか、ちょっと心配で早めに切り上げて帰ってまいりました」


 そうか、タイミングよかったな。


 商談? なにか商売やってるのか? まぁ無事でなによりだ、アンリーナ。


 俺が笑顔で見ると、アンリーナは焦った顔でテーブルに乗っけてあった包みを渡してきた。



「と、とりあえず街は被害もあまりなく元に戻りつつあったのでホッとしましたわ。何か英雄が現れたとか聞きました。それで師匠が心配でさっき帰ってきましてすぐこちらに来ましたら、お元気そうでなによりですわ」


 なんか言葉がおかしいぞ。アンリーナはとりあえず荷物を俺に手渡しはしたが、俺の手をがっつり握って離さない。な、何?


「ああ、男の手……ハッ! こ、これは今度うちで販売する予定の男性用化粧品なのですわ! よ、よろしければどうぞ!」




 やたらに豪華な包装のそれは近づくといい香りがする。


 少し香水が包装にかけてあるのだろうか。女の子だなぁ、アンリーナ。




「男性用化粧品? へぇ、珍しいね。この街では見たこと無いけど。貰っていいのかい? ありがとうアンリーナ、あと手離して」


「ぐぐ……これは酒造メーカーと共同開発した自信作ですわ。化粧水ですの」


 アンリーナが渋々手を離してくれた。



 ほう、お酒とな。包みを開け中身を見てみると、まぁ綺麗なボトルに入った物が。確かにちょっとお酒の香り。なんかおしゃれだな。


 俺こういうの元の世界でも使ったことないんだけど、まさか異世界で化粧品デビューとは。乾燥したら適当に塗ればいいのか?




「……し、師匠。このランチ、もしかしてリゾットですか!? これってまだ王都でも作れるお店が少なくて、人気で数時間並ばないと食べられないという……!」


 なんかさっきからアンリーナが俺が食べているお皿にチラチラ視線を送っている。


 ああ、イケメンボイス兄さんにちょっとアイデア振ったら試行錯誤で完成させてくれた新作だよ。白ワインがポイントなんだ。




「食うか? ホラ、あーん」



 俺がスプーンですくって食べさせてあげようとすると、アンリーナが顔を真っ赤にする。


「マナー違反、マナー違反なのです! こういうことはいけないですわ! ああ、でもここは気軽に楽しくご飯が食べれられる食堂……! それに師匠との間接チャンスは逃せませんわ! いただきますです!」


「はい、お待たせしましたー。本日のランチセットの白ワインのチーズリゾットになりまーす」


 俺のスプーンを持った手を跡が残るような恐るべき力で握ってきた女性。


 恐る恐る見ると、強者のオーラを放つ鬼がそこにいた。アッパー攻撃がすごそうなイメージ。



「あうっ……師匠のリゾット……うっ」


 カチンと空振りで噛んだアンリーナもその鬼に気付いたらしく、強者のオーラをまともに浴び顔が青くなる。



「あ、ありがとうロゼリィ。お、おごるよ、アンリーナ」

「そ、それはありがたくいただきますわ……」


 ロゼリィがわざわざ新しいセットを持って来てくれた。






「お、おいしいですわ! これは王都の人気店よりおいしいかもです! しかも値段も安いとか……相変わらずここは不思議なお店。さすが師匠がアドバイザーを務めるお店ですわ」


 アンリーナが一口で笑顔になった。喜んでくれて何より。




「あ、あれ? あの、これは……?」


 ロゼリィが俺の左側に座り、テーブルに置いてある男性用化粧水のボトルに目をつけた。


「ああ、今アンリーナから貰ったんだ。今度これを売るんだとさ」


 ボトルをマジマジと見て手が震えだすロゼリィ。


「こ、こ、ここれ!? このマークはローズ=ハイドランジェ……! 私の憧れの高級化粧品メーカーです!」


 ハイドランジェ? そういやアンリーナのフルネームそんなだっけ。


「え、そういやロゼリィこのマークの口紅持ってたよな。もしかしてアンリーナってそこのメーカーさんの人なのか?」


 アンリーナはリゾットを頬張りながら答える。


「ほぉへふは。ひひほういいっへ……」


 飲み込め、アンリーナ。




「失礼、あれ? 師匠に言っていませんでしたか? それは大変失礼を。そうですわ、私はバラのマークの化粧品と高級魔晶石の販売を手がける世界的メーカー、ローズ=ハイドランジェを営む父ペリド=ハイドランジェの娘、アンリーナ=ハイドランジェですわ」




 何か妙に身なりがいいと思っていたが、お金持ちさんの娘さんかい。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る