第72話 ソルートン防衛戦 5 男達の戦い様

 


俺は先行してきた紅鮫の集団を指し、ベスに合図を出す。



「撃てぇ!!」




 ベスが前足を振り、かまいたちを発生させる。


 見事集団の一部を蒸発させるも、生き残った後続が次々こちらに向かってくる。


 数は不明、数えるのも馬鹿らしい数。黒い雲がすごい勢いで向かってくる。



 俺はとにかく空を指し、ベスに撃てと指示を出す。




「みん、な。力を、貸してくれ」


 ハーメルが笛を吹くと巨大なクマ、メロ子が地面を揺らしながら歩みを進め、その太い腕を振り下ろす。何匹かの紅鮫がその爪を受け、蒸発していく。




「ぅおおおおお!」



 逃げる街の人の中から、武器を持った男達が数名飛び出してきた。ハーメルと俺の周りに立ち、大きな武器や盾で紅鮫の突撃を防いでくれる。


「よう! あんたあの宿の人だろ。よく女関係の悪い噂聞いてたから、どんだけ悪人かと思ったら結構勇気ある兄ちゃんじゃねーか!」


 大きな盾を持ったごつい人が笑いながら言う。申し訳ないが、その悪い噂は全部ウソなんで忘れていただきたい。


「俺も聞いたぜ、七人の愛人がて毎日抱いてんだろ? かーっうらやましい! 俺も死ぬ前に色々やってみたかったぜ」


 長い槍の男も続く。いません、俺が抱けるのはベスだけです。


「ここで逃げて、あんたの愛人伝説が聞けなくなるのはつまんねーからな! あんたに加勢するぜ、俺だって男だ! どうせなら女を守って死にてーからよ!」


 ごつい鎧にかわいらしい魔法のステッキを持ったゴリラ風の男が、簡単な防御魔法をかけてくれた。



「あのな、そういうのは全部ウソだからな。こいつ等全部片付けたらその愛人伝説が全部ウソだって一個ずつ訂正すっから、全員生き残るように! いいな!!」


 俺は色々な想いを込めて力の限り叫んだ。



「おうよ!」



 男達の力強い返事が聞こえ、俺達は笑い合った。






「ベス、撃て!!」


 撃ちもらしは男達に任せて、とにかくベスに撃ってもらう。



 周囲が暗くなるほどの数の紅鮫。都合のいいことに、背が五メートル以上あるクマのメロ子に目が行くらしく、後ろの街の人のほうに紅鮫は向かっていかない。


「ハーメル! 悪いがメロ子を使わせてもらう! メロ子に目が向いている鮫を打ち落とせ!」


 体の大きなメロ子に警戒し、上空を8の字で飛んでいる紅鮫を背後から狙って落とす。これで少し命中率が上がる。


「分かった、メロ子。耐えて、くれ」


 メロ子が防御体制を取る。頑張ってくれ、メロ子!




「お、おう兄ちゃん! 来たぜぇ! でけぇのがよ!」


 盾のごつい人が空を指し、冷や汗を流しながら笑う。


「でけぇ……」


 巨大なエイみたいのがついにこちらに来た。口から真下に向け、蒸気の塊を吐きながら近づいて来る。



「やべぇぞあれ!」


 槍の人が叫ぶ。くそっ、あれをまともに喰らったらどうしようもないぞ。



「ベス! 撃て!」


 指示をエイに切り替える。ベスのかまいたちが全弾命中するも、エイはびくともせずこちらに向かってくる。これ、やばい。




「かぁあーーーーーっつ!!!」



 背後からもの凄いでかい声が聞こえ、ビクンとなりながらそちらを見ると、背後から全身赤い重鎧を来た人がゆっくり現れた。


 手にはゲームで見たような太く長い槍、ああいうのはランスって言うんだっけか。赤いマントをなびかせながら長さが四メートル近いランスを構え、一突き。


「うおっ!」


「ひい!」


 俺を守ってくれていたごつい男達が悲鳴を上げる。


 俺も何が起こったか分からなかったが、俺達に向かって来ていた巨大なエイとその周囲がぽっかり穴が開いたように消えていた。ものすごい蒸気が噴きあがり、エイ達が消滅していく。



「かぁああーーつ!!」


 赤い全身鎧の人がまた吼え、一突き。


 ものすごい衝撃波がランスから真っ直ぐ飛び、鮫とエイ達をまとめて吹き飛ばす。な、なんだこの圧倒的な力は。



「いやぁ、遅れて悪かったのぅ。兜がみつからのーて、時間かかってしまったわい。年かのぅ」


 その兜のフェイスガードを上げ、にかっと笑うおじいさん。



「の、農園のオーナーの……?」



 俺が驚いて声を上げる。え、あのおじいさん……え、どういうこと?



「弟子達が命張ってるけぇ、ワシもやらんとのぅ。さぁ、かかって来ぃ! 老いぼれじゃけぇ、まだまだ若者には負けておれんけぇの! ワシを倒すなら三千人の騎士でも連れてきぃ!」



 ランスが轟音と共に火を噴き、次々と蒸気モンスターを蒸発させていく。








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