第68話 ソルートン防衛戦 1 響く鐘の音様
街中に鐘の音が鳴り響く。
それは街の外への強制避難の鐘。
「そ、そんな……生まれ育った街……新しいお友達も出来て……あなたと出会えた大切な場所なのに……」
街を捨てる。その意味もこの鐘の音には含まれているそうだ。
ロゼリィが俺の腕を掴んで、もう泣いてしまっている。
「早く農園に避難するんだ! 急げ!」
農園? 俺がお世話になったあそこか。まぁ、あそこ広いからな。食料もあるし。
街の警護の騎士さんが慌ただしく動いている。
ラビコの指示らしく、あれが近づくまでには時間はまだあるらしい。
「明日の朝、か」
そうラビコが言ったらしい。ならまだ大丈夫。
蒸気モンスター。
以前キャンプ場で初めて出会ったラビコ曰く異世界の化け物。
口から多量の蒸気を吐き出しているという特徴がある。二回目は空飛ぶ鮫。王都のお姫様と出会った時、戦った。
宿のオーナー、ローエンさんが言うにその蒸気モンスターが住む島、それがあの不気味な動く島なんだと。海を漂い、時たま人間の町を襲う。
「悔しいね、せっかく新しいシステムが上手く回ってきたところなんだけどな」
「オーナー、蒸気モンスターって一体……」
宿の戸締りを急ぐオーナーを手伝いながら聞く。
「さぁねえ、それが分かっていたらここまで苦労はないんだけど。ただ分かっていることは、向こうも必死ってことなんだろうね」
向こうも必死。生きることにということだろうか、それならこっちも同じ。
やらなきゃやられるってか。
「僕等だって同じ。だから僕等は戦うのさ、守る為に」
オーナーが家族の写真を大事そうにしまい、顔を上げる。
「さぁ避難するんだ、農園なら絶対安全さ。あそこには僕等の師匠がいるからね」
「お、お父さん!? 一緒に行かないのですか!?」
ロゼリィが声を上げる。
「娘よ、私達には守らねばならない物があるんだ。それはとても大切な物でね、それを守るのが大人の役目ってやつなのさ」
ジゼリィさんがロゼリィの頭を優しく撫でる。
「お母さん……! 私だって大人です! いや、いや……いやぁああ」
ロゼリィが泣き出してしまった。
「ほら子供だ。泣くんじゃないよ、私の自慢の娘。ふふ」
ジゼリィさんがロゼリィのほっぺにキスをした。そして俺を笑顔で見てきた。
「娘を頼んだよ。今を守り、未来を子供に託す。それが大人ってやつなのさ」
ローエンさんとジゼリィさんが笑い、従業員全員を送り出した。
「隊長……怖いです……」
新人五人組みのセレサが震えている。さすがにいつもの元気は無いか。
調理の兄さんも少し泣いている。悔しいのだろう。
「くそ……」
ロゼリィの手を握り、俺は歩く。
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