第29話 公園の王子様 2
「僕はどちらかと言うと騎士ではなくて、隠密にあたるんだ。絶対に誰にも見られてはいけない手紙とかを運んだり、国宝級の武器、防具の運搬とかね」
……そういうの喋っていいのかよ。口封じで殺すからいい、とかやめてね……。
「それをやるには特殊な才能が必要でね。いわゆる姿隠しの魔法が僕の得意分野なんだ。今まさに僕は誰にも見られず、気付かれることも無く目的地に行くところだったんだ」
ど、どうぞどうぞ! 俺とかいう小虫なんかに構わず、もぅささーっと移動しちゃってください。
「今まで途中で姿を見られることなんて一度も無かったんだけどなぁ……」
王子がさわやかフェイスを俺に近づけてきて、耳元で囁いた。
「もしかして君もどこかの国の隠密かい? 僕の姿隠しをやすやすと見抜くとか、どれほど上位なのかな。試し……」
「ベスッ!!」
愛犬ベスが怒ったように吼えた。ベスの周囲に円陣が浮かび、牙に青い光があふれ出す。ベスが瞬時に俺の前に移動し王子の長い剣を一撃で噛み切った。
噛み……マジかよベス……。すげぇ……。
「っと……! これはすごい……僕の自慢の剣が粉々とか、参ったな」
王子は馬と共に安全圏まで一瞬で距離を取った。
「スペアは持っていないし、体術でその犬には勝てそうもないかなぁ。……えーと、見苦しく逃げてもいいかな? まだ任務の途中でさ」
「ど、どうぞどうぞ! お互い見なかったことにして平和にいきましょう!」
俺は震えながら送り出すようなジェスチャーをする。早くどっか行ってくれ……。
「助かる。君は……王の眼か。いや初めて目の当たりにしたよ、悠久の時を生きたドラゴンにしか存在が確認されていない千里眼。君とはなるべく戦いたくないかな、それでは!」
白馬の王子は、さわやかに笑い去って行った。
「…………なんなんだアイツ……ベス、無事か」
「ベスッ! ベスッ!」
ベスがペロペロ俺の顔を舐めてくる。ありがとうな、ベス。お前いなかったら死んでたかも。
「ただいまーっす……」
宿屋に帰還。すっげー疲れる散歩だった……。
「あ、お帰りなさい。ラビコが探していましたよ? 帰ってきたら部屋に来て欲しいとか。お客様もお見えになっているようです」
ロゼリィが帰ってきた俺に気付き、お水をくれた。
ふーん。ラビコがねぇ、借金の取立てとかは勘弁な。
「おぅ、ラビコー今帰ったでー」
俺は会社帰りのサラリーマンか。
「おっかえりぃ~待っていたよ~ほら約束のレンタルアーマーさ~」
ああ、そういやラビコが手配してくれるとか言ってたな。つかそれ、借金増えるやつじゃん……。
「あれ……君……」
「……? うわっ!!! 白馬の王子……」
ラビコの部屋にはもう一人いて、これがさっき俺を襲った王子。
「あっははっ……白馬の王子だって~あんたそういう格好、いい加減やめなさいって~あはは」
ラビコがバンバン王子の背中を叩いている。
「ラビコ様、この男は……?」
王子が警戒した顔で俺を見ている。
「どったの~? だから私の~今の雇い主の少年さ~」
「! ラビコ様の主君と……! これは失礼を! 知らなかったとはいえ先ほどの無礼、お許し願いたい。どうりで並外れた力をお持ちだ……ラビコ様を従えているのも納得です」
王子が焦ったように頭を下げてきた。
並外れた力? ああ、うちのベスね。
つーか、砕いた剣の代金は請求されないよね?
ね?
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