第5話 ホエー鳥様
「うーむ」
暇だ。
俺は今、広大な畑の真ん中にぼーっと座っている。
真夏の太陽が容赦なく俺の体に突き刺さる。
「暑い……」
しかし景色は素晴らしい。街のそばにある大きな畑。鳥が囁き、緑の匂いがする風が俺の頬を撫でる。
「水分取れ、ベス」
「ベスッ」
愛犬ベスに水筒に入った水を飲ませる。熱中症は怖いからな。
冒険者センターにあった『畑の監視』とかいう、単にしばらく椅子に座っていればいいだけの仕事を受けた。こんなもんぼーっとしてれば終わる楽な仕事だぜ。
畑にはトマト、ジャガイモ、大根、スイカ、メロンなどが生っている。うまそうだなぁ。
畑のオーナーさんによると、たまに野鳥や動物がくるから追い払って欲しい、とのこと。
「なんとちょろい仕事か」
空を見上げると鳥が舞っている。心地の良い鳥の囁き。なんか心が洗われていくようだ。
「ホエー」
変な鳴き声だな、あの鳥。
「ホエー」「ホエー」
ん、鳴き声が増えた。
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
さらに増える。
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
倍に増える。
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
さらに倍、ドン。
ベスが警戒の姿勢を取り出した。
「どうしたベス……って、なんだありゃ!」
ベスの視線の先の空を見ると、黒い雲のような物が浮いている。
快晴なのに、畑の上にだけ黒い雨雲。……いやなんか蠢いている。
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
あれ、あの変な鳴き声の鳥の塊か!? ものすごい数だぞ!
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
黒い塊が大根畑に急降下。数匹が大根の葉っぱをくちばしで掴み、せーので引っこ抜き白い実を一瞬でたいらげる。何匹かがチームを作り、実に効率よく大根を食い荒らしている。
「な、なんだあの鳥……! 器用すぎんだろ! おいこら! 大根食うな!!」
俺が慌てて長い竹ざおを振り回す。
「いてっ……いたたたた!」
周りが真っ暗になるほどの鳥に囲まれ、オールレンジで突っつかれる。
「やべぇぞ、こいつら……! 人間を怖がらないのかよ! これはマズイ……はうっ!!」
鳥の一匹が俺の股間に体ごとダイブ。
「ほぉっ……ほぉぉっ……ほぉ……」
声にならない声が漏れ、全身の血の気がサーっと引き、内股になりぷるぷる震えながらガクンと俺は崩れ落ちた。か、完敗だ☆ぜ……。
「ベスッ!!!」
俺の愛犬が吼えた。ヒュンと風きり音が鳴り、俺の周囲の鳥達が不自然に吹き飛んで行く。
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
「ホエー」「ホエー」「ホエー」
鳥達が俺から離れていく。ベスが俺の側に走ってきて前足の爪で鳥を威嚇するように空中を引っかいた。
するとベスの前足から音が鳴り、かまいたちのような衝撃波が鳥達を襲う。まともに喰らった鳥の集団がボトボトと落ちてくる。
「……ベ、ベス……すげぇ……」
これが冒険者の力とやらか。
俺にはないやつだ……つーか普通そういうのって俺が使えるもんじゃねーの……。
犬、大活躍。俺、股間に一撃受けて震えながらノックアウト。
なんなんだよ……この俺に厳しい異世界生活は!
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