高校生活を彩れ。しかし、これは任務だ

笹篠巴

プロローグ やっぱ、金っすか

「..7..8..39か。事前情報にあった通りだな。」


ここは住宅地の近くにある暴力団の事務所。現在時刻、23時ちょうど。予定より5分早く終わり、証拠隠滅が疎かにならずに済んだ。唐突に電話が鳴る。イヤホンをつけているので連絡は楽である。


「なんだ?」


“警察に通報完了。あと3分後に到着。撤退する準備を。やっぱ、事務口調はやりずらいねー。あといつになったら結婚してくれる?”


「軽口を叩く暇があったら逃走経路を早く開示してくれ。」


“警察が来る方向からしてルートBが最適。メガネの方に送るから早くしてねー。警察来ちゃうから。”


「了解。あと、外から警報音がするからもう近くにいるよね。じゃあ、会社の方に戻ります。愛車のバンを近くに寄せといて。それで帰るから。」


“了解。”


じゃあ、帰りますか。バイバーイ。そして、俺は窓から飛び降り、近くに止まっているバンに乗り込み、会社へ戻っていった。






会社は系列のビルに取り囲まれており、外からは本当に見えない。まさに裏社会って感じがする。そんなことはどうでもいい。会社に戻ると、社長に呼ばれた。


「失礼します。」


社長はタブレットと睨めっこをしており、新しい任務の請け負いを誰にするか決めているのだろうか。そして、社長の後ろにある社訓を見る。


『時間を無駄にするな』


シンプル。だが、わかりやすくていい。そして、この社訓はその通りだと思っている。

そんなことを考えていると、社長が俺に気付き、タブレットから目を離す。


「新しい任務が来てね。君を指名していたから君を呼んだわけだよ。今回の任務はプロテクトだ。高校生二人を守り抜いて欲しい。片方はただのプロテクトなんだが、もう片方は戦力としても手伝って欲しいそうだ。」


一気に捲し立てられたが俺は任務を断ることはほとんどない。なぜなら金になるからだ。


「わかりました。やります。」


ふふっ、と社長が口角を上げ、満足そうにする。


「今回の任務の給料の方はどれくらいなんですか。」


「ああ。二人合わせてしっかりやってくれるなら、2000万だそうだ。二人合わせてな。」


たっか。嬉しいことこの上ない。小躍りしたいくらいだ。武器を新調したいと思っていたから尚更だ。完璧にこなすしかない。話はまとまり、終わったと思ってドアノブに手をかけた時、


「ああ、一つ伝え忘れていたよ。もう一つあって、君が高校生活をしながら彼女を作るっていうのも任務だった。まぁ、やるって言ったし頑張ってね。」


「辞退します。」


「無理だよー。先方の方にはもう伝えちゃった。ちなみに高校生活を拒むなら給料大幅カットだからね。」


ニコッと笑いながら圧をかけてくる。めんどくさい。てかさっきから、イヤホンの向こう側のやつがうるさい。静かにせんかい。


「じゃあ頼んだよ。<ブラックナイツ>。」


<ブラックナイツ>は俺とイヤホンの向こうにいるやつ。二人のグループ名だ。


「渋々です。ですがやります。金のために。」


それをいうと満足そうに、タブレットに視線を移す。そんなに集中するとは。なにをしているのだろうか。


「なにをしてるんですか?」


「金を渡し、不確定要素を楽しむものをしているよ。」


「生産性皆無時間泥棒兼金泥棒、訳してソシャゲじゃないですか!社訓を思い出してください。」


「社訓変えるかな。」


「そんな簡単に変えないでください。」


「わかっているよ。では任務を頼んだよ。『フクロウ』。」


「はい。」


それを最後に会話を終え、社長室を後にする。


「これくらいしかできんのだよ。悪いな息子よ。子が不幸になるとは。これも罪滅ぼしだろう。」


社長室で一人そう呟いていた。彼は知らない。私が実の親であることを。

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