55歳のオッサンが異世界で肉を焼くだけ

挫刹

🍖

　平日の昼間から魔法を使い、海の上に座って火を起こすと空いた手から骨付き肉を生み出して焼き始める。

　55歳のオッサンの俺がこの世界で生きていくにはあまりにも齢（とし）を取りすぎた。今もこうして穏やかな波の上で座り、デカい骨付きマンガ肉を火の上で回して焼きながら水平線を眺めている。

　この世界では魔法が使える。

　若ければ冒険にも出れただろうし、好きなこともできただろう。

　小学生から剣を振るって魔法を学び、仲間を集めてパーティをつくり世界へと旅立つ。そんな光景はこの世界では見慣れた風物詩だ。

　モンスターがいて。魔王がいて。聖女がいて。精霊がいる。

　洞窟（ダンジョン）もあるが内部に宝箱はない。代わりに壁を採掘すれば素材になる鉱物が手に入る。しかし単純に鉱物が欲しいだけだったら情緒も無く上から洞窟ごと破壊して露天掘りにするのがこの世界でも常套だ。それは地球でも同じだろう。その時には猛り狂ったM９級以上のモンスターも高確率で出現して襲ってくるが。

　そんな冒険を、今の俺の齢（とし）でやろうとは思わない。

　俺は今年で56になる。他の仲間を集めるにしても全員、老けた中年しか集まらないし。いい年こいた加齢臭のする中年のおっちゃんやおばちゃんどもが集まっても今更冒険なんてできるわけがないし体も動かない（腰をやるぞ。ギックリとな）。

　冒険するためのパーティーを作るなら、やはり俺一人に若い女子高生（15）ばかりを集めたハーレムがいいが、それをやるとマジでカクヨムから警告が来る。既にもう二回（合計四作品）も警告を受けたらしい。俺ではないが。

　ならば一人で居るほうがマシだし、身動きも取りやすい。

　だからこうして今も一般の人間では立ち寄れない場所に踏み入っては、肉を焼いたりコーヒーを淹れたり本を捲ったりインスタントラーメンを鍋で作ったりして。ひがな一日、大自然の景色をボーっと眺めながら何も考えずに過ごすのが最近のMy日課（マイブーム）だ。

　今日は海の上で肉を焼きながら、何も考えずに水平線を眺めることに決めていた。幸せだ。骨付き肉は魔法で生みだしたので命は殺していない。断じて命は殺していない。不殺だ。炎も魔法で生みだしている。海の上に座り込んでいられるのも魔法の力だ。パッと見、格好は空気椅子だが足はプルプルしていない。普段と同じ椅子に腰掛けた感じで非常に楽だ。肉を空中で回しているのも同じ原理だ。魔法のおかげで腹も減ることがない。

　腹が減らないのに、なぜ肉を焼いているのか？　それはただ肉が焼きたいからだ。肉を焼きたいという欲求に理由が必要だろうか？　うん。必要だな。しかし残念ながら肉を焼きたい理由は特に無い。なぜか無性に肉が焼きたかった。それだけのことだ。すまんな。

　ここで魔法の原理を説明したほうがいいだろうか？　面倒なのでやめておこう。とにかく魔法が使えるということだけは覚えておいてくれればいい。ストレスフリーは非常に大事だ。なにせ、ここは地球とは全く違い異世界ファンタジー世界なのだから。

　俺は海の上で肉をぐるぐる回して骨付き原始（マンガ）肉を焼きつづける。肉という同じ単語を文章中で何度も使う。躊躇（ためら）わない。太陽の光で肌も焼けそうだが魔法で日射しを遮ることはできるし、汚れて擦り切れた怪しい不審なマントを身に纏っているので心配はない。

　水平線の彼方では数隻の帆船の姿が見え。遠くの高い空では飛空艇が飛んでいき飛空艇雲の尾を引いている。

　目の前ではイルカだと思ったら大きなドラゴンが海中からジャンプして海面の上に現われた。

「異世界転生トラックドラゴンッ！」

　海中から唐突にいきなり勢いよく飛び出してきた青いドラゴンが翼を羽ばたかせて大声で叫んだ。強大な魔力で空中に浮かんだまま背中を向けて咆哮を続けている青ドラゴンを無視して、俺は実家のような安心感で肉を焼き続ける。

「我が名は異世界転生トラックドラゴンッ！　この世界で異世界転生を司るドラゴン、トラックドラゴンなりッ！　我の攻撃で即死した者はトラックに轢かれて即死したも同じッ！　我の攻撃は全てトラックだと思えッ！　我の神スキル「異世界転生」発動ッ！　これで何時（なんじ）ら人間は我の攻撃で死ぬと地球の日本の赤子へと生まれ変わり、今までの記憶を全て無くして強制的に異世界転生させられるッ！　生き延びよッ！　人間どもンっ！」

　大海原のど真ん中で肉を焼いている俺に背中を見せながら、青いドラゴンが波間に向かって咆えている。この竜は波にむかって独り言を叫ぶのが趣味なのだろうか。

「……フ、練習はこれぐらいでいいだろう」

　何の練習だろう。海のど真ん中で肉を焼いている俺は、そこが非常に気になった。

「今日のオレ様を狩猟するクエスト「速報！新たな竜。異世界転生トラックドラゴン！」を受注した参加者は現在までで四人組パーティが二つだけか。情けない臆病者の人間どもめッ！　もっと我を楽しませろッ！　プロフィールにも堂々と異世界転生したなどといい齢こいて下らないことを騙（かた）りおる恥知らずの大きなお友達風情共がッ。ちゃんと働けッ！　地球の日本の知識を知っているのは俺だけではないぞっ！」

　それを言うなら「俺だけ」ではなく「お前らだけ」と言ったほうが正しい言葉の使い方ではないのだろうか。

　しかし確かに、太陽系第三惑星地球のことは、この異世界ファンタジー世界に住んでいる者なら誰もが知っている常識中の常識だ。さして珍しい知識でもない。

　ちなみに55歳のおっさんであるこの俺は、異世界転生は完全にしていないし異世界転移もしていない。正真正銘のこの世界で生まれて、この世界で育ったこのファンタジー世界を地元とする間違いのない現地の一般住人なので、そこはこれを読んでいる手軽な異世界転生や異世界転移が三度の飯より大好きな変態紳士淑女しかいないカクヨム読者諸君も安心してほしい（でもおっさんが女子高生たちとハーレムするほうがもっと好きなんだろう。俺もそうしたい）。地球の日本という国はよく知っているが、それはこの世界に住む人間なら誰もが知っている雑学なので実家のような安心感で読んでくれて貰いたい。俺はメタ発言が大好きだ。

　それを証明するためにも。

　俺は肉を焼きながら、ポケットから何気なくハードカバーの古びた本を取り出してパラパラとページを捲（めく）りはじめる。←この文章では、古本を取り出したのはポケットからだと一人称では言っているが、実はポケットから取り出したように見せて魔法で出現させた。察してくれ。ハードカバーのような分厚い本をポケットにしまえるとしたら、そのポケットは相当ドデカいモノになってしまうし、公募の文学賞に応募していたら選考員からダメ出しを食らっているほどの設定の甘さである。

　これからもこの作品の中では設定の甘そうな文章表現の箇所が出てくるが、それは俺が勝手に魔法で発生させたり消去したことを省略して文章に書き起こしたものだ。いちいち文章で、魔法で発生させた。魔法で消去させたと書いても煩わしいだけだろう。なのでこの作品では俺が魔法で何かを生みだしていても、いちいち文章では（文字数）