第107話 星暦555年 藤の月10日 俺はオマケです。(4)
「散歩に行きましょ!」
仕事では無いとは言え、一応ボランティアで手伝いをしているし、なんと言ってもシェイラと一緒に出勤(?)しているので平日はそこそこ朝早く起こされていた俺は、休息日の今日はがっつり寝坊しようと思っていた。
が。
シェイラに起こされた。
「え~?
まだ朝じゃん・・・」
昔のような極端な夜型人間では無くなったが、それでも朝に弱いことに変わりは無い。
特に夜更かししていた訳では無いし、疲れが溜まっていた訳でもないのだが・・・『寝坊』とか『二度寝』というのは肉体的な疲れとは別世界の快楽なのだ。
「何を言っているの、折角の休息日なのよ!
寝坊なんかしたら1日が無駄になっちゃうじゃない。
今日は良い天気だから、遺跡の周りを散歩しましょう!」
朝型人間なシェイラは休息日になると更に早起きしたくなるらしい。
・・・付き合う相手を間違えたかなぁ?
◆◆◆◆
「で?
何だって遺跡の周りを歩くんだ?
運動不足で気分転換に体を動かしたいなら、街の中なり街の周りを散歩すればそれで良いんじゃないか?」
朝食を食べながらシェイラに尋ねる。
買い物に付き合うというのもあまり有り難くない時間の過ごし方だが、何も無い遺跡周辺を歩き回るよりはまだマシだろう。
「あの遺跡は籠城中の要塞都市という訳では無いのだから、周りにも都市の人々の生活に関係する施設とかがあったはずだと思うの。
今は何も残っていないにしても、その頃何らかの形で使ったであろう小川とか道があるかも知れないでしょ?
洞窟みたいな都市の中だけで無く、周りを見てみたいと思わない??」
シェイラのワクワク感が凄い。
・・・シェイラって実は屋外派なのか?
王都生まれの王都育ちだから、なんとはなしに室内派だと思っていた。
「あぁ~・・・まぁなぁ。
シェイラって、もしかして洞窟の中にあるオーバスタ神殿の遺跡ってあまり好きじゃないの?」
シェイラが肩を竦めた。
「フォラスタ文明は私の好みにこれ以上無いぐらい一致しているの。
ヴァルージャの遺跡があの時期に見つかったのは本当に良かったわ~」
確かにね。
新しい遺跡なんてそうしょっちゅう見つかるものではないだろう。
発掘チームの人間の入れ替えはそれなりにあるだろうが、スポンサーにコネが無いと発掘チームに潜り込むのが難しいって話だからなぁ。
「見つからなかったらどうするつもりだったんだ?」
それこそ、見つからなかったらゼルガの代わりにガルバの後釜になっていたのかね?
・・・だとしても、ここにボランティアで来た際に俺達は出会えただろうけど。
「他のフォラスタ文明の遺跡の発掘隊に何とかして潜り込むか、どうしても無理そうだったら他の遺跡の発掘隊に入っていたわね。
流石に何十年も費やすことかもしれない発掘隊だから、このオーバスタ神殿だけは選択肢として無かったけど」
お茶を注ぎながらシェイラが答えた。
既に俺を起こしに来る前に朝食は食べ終わっていたようだが、俺を待つ間にお茶を飲むことにしたらしい。
「え、何十年も同じ遺跡で働くの???」
マジ?
ちょっとそれって飽きないか??
「何を言っているの。
小さな屋敷とか村が残っていたというだけならまだしも、『遺跡』と認識されるようなのは小さくてもそれなりの村サイズぐらいはあるのよ?
そこの情報を発掘して、分析して、理論を構築してそれが発掘して見つかった情報と一致するかを検証するのには一生どころか何世代もかかったとしても不思議では無いぐらいよ。
だからこそ、オーバスタ神殿みたいに穴蔵の中に1日中潜り込んでいなければならない遺跡はちょっと私には辛すぎるのよねぇ~」
カップに息を吹きかけてお茶を冷ましながらシェイラが答えた。
何世代も???!!!
ほぇぇぇぇ。
考古学者って気が長すぎる!!
しっかし・・・そうかぁ。
つまり、シェイラはずっとヴァルージャに居ると言うことになりそうだな。
・・・そのうち王都の歴史学会で働く気ってないのかなぁ?
◆◆◆
「アスカ」
魔力を込めて使い魔を喚ぶ。
今日はノンビリと街から発掘現場付近までアスカに一緒に乗っていくことにしたのだ。
普段は街に泊った他の発掘チームのメンバーと一緒に馬車で行くのだが、今日は二人だけだ。
シェイラは馬を借りるつもりだったようだが・・・俺はイマイチ乗馬は得意では無い。
なので『デートだから一緒に乗れる方が良いだろ?』ということでアスカに一緒に乗せて貰うことにしたのだ。
馬だって2人乗りは可能だが、振り落とされるかと俺がヒヤヒヤドキドキしているのではデートとして理想的じゃあ無い。
アスカなら乗り慣れているし、意思疎通も問題無い。
はっきり言って、いつ暴れ出して蹴りを繰り出してくるか分からない馬なんぞより100倍安心だ。
『久しぶりだな』
俺の魔力を受け取ってアスカが具現した。
「最近働いている遺跡現場の傍を散歩しようと思うんだけど、そこまで俺達を乗せてってくれないか?」
シェイラを紹介した後、今日の頼み事をする。
が。
頼んでみてから、俺がここ数日働いている現場がどこかアスカが知らない可能性の方が高いことに気が付いた。
『うん?
ウィルの魔力の残滓があるあっちの方に行けば良いのか?』
が、流石幻獣。
俺の魔力の残滓が分かるらしい。
・・・もしかして、幻獣って俺よりも
俺だってシャルロやアレクが働いていた場所をこの距離からは見つけられないぞ???
頷いて、乗りやすいようにしゃがみ込んでくれたアスカに登りながら思わず訪ねた。
「そう。
ちなみに、ここから俺の魔力の残滓が視えるのか??」
『
ウィルの魔力は時々食べさせて貰うからな。ここら辺は特に魔力が豊富なわけでは無いし、他にウィルの魔力は無いし、それ程難しくは無い』
立ち上がりながらアスカが答えた。
マジかよ。
魔力の匂いってこんなに遠くからでも分かるんか???
凄すぎる・・・。
◆◆◆◆
「で、散歩がてら何を探せば良いんだ?」
遺跡のある丘の横にたどり着いて、シェイラに尋ねる。
「そうねぇ。
川とか道、じゃなきゃ倉庫に使われていたような洞窟や建物かしら。
建物は残っているとしたら土に埋もれたちょっとした小高い固まりになっていると思うんだけど」
シェイラが伸びをしながら答えた。
「・・・アスカ、ここら辺って川とか昔人間に使われていたような洞窟とかってあるか?」
周りの森と丘を見回して、思わずアスカに助けを求める。
俺は自然の中を歩き回るのは好きじゃないんだよ。
今は冬だから少なくとも虫とか蛇とかはあまりいないだろうが、見つかるかどうかも分からない物を漠然と探して歩き回るのは遠慮したい。
これが屋外派なシャルロだったらシェイラ(シャルロの場合はケレナだろうが)と和やかに雑談をしながら散策を楽しむんだろうが、俺じゃあシェイラと話しながら歩こうとしたら木の枝や根っこに足を取られて転ぶのがオチだ。
目的物をさっさと見つけて、それをシェイラが調べている間に横に立つなり座りなるして雑談をしたい。
『水は・・・幾つか井戸の跡があるな。
道はちょっと分からない。
洞窟に関しては幾つか有るが、どれに行きたい?』
アスカはあっさりとシェイラが喜びそうなことを答えた。
ちなみに、素養が足りないせいでシェイラはアスカの声を聞き取れない。
まあ、がっつり魔力を込めればなんとか意思疎通が出来るらしいが、アスカとしてはそこまでしてシェイラと話をする必要を感じなかったのか、今回もあまり魔力を込めていない。
つまり、俺に通訳しろと言うことだよね~。
「アスカによると井戸の跡と人間に使われていたかも知れない洞窟が幾つかあるらしいけど、一番傍のに案内して貰うか?」
「あるの???」
シェイラが飛びつくような勢いで聞いてきた。
専門外のオーバスタ神殿文明でも、遺跡の発見に関しては飛びつくだけの興味があるらしい。
まあ、興味があるからこそこんな朝早くから『散歩』に連れ出されているんだろうけど。
「過去の文明の井戸の遺跡というのもどんな違いがあるか、興味があるわねぇ~。
でも、洞窟の方がお手軽に観察できるかしら?
いやいや、ウィルがいたら洞窟の遺跡だって掘れる?
う~ん、魔力で手荒に掘っちゃったら遺跡が傷つくかも・・・」
何やらシェイラが悩み始めた。
おい。
俺の魔力は井戸の跡を掘り起こすのには大して向いてないぞ???
まあ、アスカに頼めば何とかなる可能性は高いが。
「アスカ、ちなみに井戸と洞窟と、どちらが近い?」
どちらにも興味があるようなので、取り敢えずは近い方に行けば良いだろう。
『一番近い洞窟は、そちらを回って直ぐだぞ』
アスカがくいっと首を振って右手の方を示した。
「どうやら洞窟の一つはすぐそこっぽいから、まずはそこを見に行かないか?」
悩み始めたシェイラに声を掛ける。
どうせ1ヶ月いる間にどれもこれも見て回る事になるんだろうから、深く悩んでいる暇があったら近くの物から見ていけば良いだろう。
・・・考えてみたら、井戸の跡を掘り返す事になるんだったらアスカに今のうちにやって置いて貰うべきか?
取り敢えず、適当にここら辺で時間を潰して置いて貰うか。
どうせ帰りも乗せて貰う必要があるんだし。
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