第7話 星暦554年 藤の月11日 いざ出発!(7)

「素晴らしい!!!!!」

ナヴァールが俺の手を握ってぶんぶんと振り回しながら叫んでいた。


同じく興奮しているっぽい船長は島に近づいてそれなりのサイズがあることが分かった際に俺の背中をバシバシと叩いて姿を消した後は船員達への指示に忙しいのか、傍にいない。


船長も中継地発見ボーナスがありそうだな、あの様子だと。

いや、船員達も何やら興奮して叫び声を上げてるから全員にあるのかな?

もしかしたら新鮮な肉を食えるかも知れないことに興奮しているだけなのかも知れないが。


「南東の方向で土地が高くなっていく手前の所に泉もあります。

全部はしっかり調べていないけど、西側には小川もありました。ただし、こちらは季節によっては涸れるみたいですね」

泉の方向とかを指さすのを口実に、ナヴァールから手を取り返す。


男と手を握って喜びを分かち合う趣味は無いんだよ。


「北側は山がそのまま崖になって海に落ちていく感じなので、船で接岸するのは難しいと思います。

南東の方はちょっとした半島っぽい感じになっていて、森が茂っていました」

ちょろちょろと上から見て分かったことをナヴァールに説明していたら、船長の指示で船が碇を降ろした。


おや?

意外と岸から遠いな。

そうか、砂浜って遠浅になっていて船が近づくと座礁してしまうのか。


だとしたら中継地の港用には南岸の砂浜は向いていないのかもしれない。


かといって、北側の崖の近辺では岸によじ登るのが大変だろうし、崖に船が激突したら危ないよな??


そう考えると、港に向いた場所ってどういう所なんだ?


そんなことを漠然と考えながら見ていたら、2隻ほどの手こぎボートが海面に降ろされて左右に分かれて進んで行くのが目に入った。


「接岸用のボートで島の周りを見て回って、大体の島の形と船を着けやすい場所を探すんだ」

少し落ち着いてきたナヴァールが俺の視線の先を見てとって説明してくれた。


「ああ、なるほど。

この船で回って座礁したら困りますよね、確かに。

でも、島の形そのものだったら上から空滑機グライダーで見た方が早いですよ?」

船員はちょっと臭うから、出来れば士官クラスを乗せて回りたいところだが。


ま、どちらにせよシャルロやアレクも空から島を見て回りたいに違いない!


◆◆◆◆


「ここの開発って直ぐに始まるのかな?」

シャルロが副長と一緒に井戸を掘る場所を選びながら歩き回っているのを見ながら、アレクに尋ねた。


結局、船着き場としては砂浜は向いていないものの、木を切らなくても使える平地というのは便利らしく、少し上がった辺に集落みたいのを作る予定らしい。

先程副長と空滑機グライダーでぐるっと島の上空を一回りしてきたシャルロが井戸掘りに協力することになった。


ただの船乗りなのにそんな集落の予定地まで決められるのか??と驚いていたら、どうやらあの副長は特別らしい。


こういった新規航路開拓船を専門にしていて、中継地として使えそうな場所が見つかった場合に開拓団が働きやすいように土地の把握やちょっとした手入れもしておく役割があるんだそうだ。


流石政府の送り出した探索船。

乗っている人間もそれなりに専門の技術があるんだねぇ。


シャルロも新しい島の開拓というのにすっかり興味を引かれたのか、空滑機グライダーから降りた後も船員達と一緒に上陸してあちらこちらを走り回っていたが、副長に井戸掘りが出来るか聞かれたらしく、何やら楽しげにあちこちを指さしながら歩き回っている。


「始まるだろうね。

ガルカ王国とはいつ紛争が勃発しても不思議じゃあない上に、東大陸との航路を短縮できるとなれば見込まれる利益は莫大だ。

国としてもさっさとここを開発してガルカ王国との接点を減らしたいところだろう。

まあ、向こうに落とす利益が減ったらそれが原因で紛争が早まる可能性もあるが」

アレクが肩を竦めながら答えた。


あ~。

利益が減ったら、確かにいちゃもん付けてきそうだよな。

あれだけタレスの涙を無駄遣いしたんだ。

資金繰りには困っている可能性が高いから、交易船から利益を搾り取れないとなったら何か理由をでっち上げて船そのものを没取しようとしかねない。


「こういう島の開拓ってどうやってするんだ?

大量に人間を運んできて作業をさせようとしたら食糧に困りそうだが。

第一、木とか石とかの材料を運び込むのも大変だろう?」

南東を目指すような方向へノンビリ足を進めながら聞いてみる。

魔術師には全く関係ない話題だが、アレクならそれなりに情報収集をしていそうだからな。


「私も詳しいことは知らないが・・・もしかしたら、土の精霊の加護持ちに手伝って貰うのかも?

山があると言うことはそれなりに石や岩はあるだろうから、土の精霊の加護持ちに手伝って貰えばそれで建物を作る材料が容易に手に入るだろう。

港を整備するのにも、海底を少し削る必要があるだろうしな。

まあ、海底ならばシャルロに頼めば蒼流が何とかしてくれるかも知れないが。それでも島の上での設備作りのことも考えると、土の精霊の加護持ちを雇うのが一番効率的なのではないか?」

アレクが顎の辺を軽くなでながら答えた。


なるほど。

水の精霊の加護持ちがいるんだ。土の精霊の加護持ちだっているだろう。


・・・そう考えると、俺たちが手伝えることなんてあまりないかなぁ?

せいぜい井戸掘りだけど、それは既にシャルロがやっているしな。


「興味があるなら開拓団に参加できないか、聞いてみるか?

魔具を使うにしても、魔術師が参加すれば多分効率的に作業が進むだろうから歓迎されると思うぞ」

にやりと笑いながらアレクが聞いてきた。


「俺が興味あれば・・・って顔しているけど、お前だってやりたいんだろう?」


「まあね。

こんな経験はそうそうないし、なんと言っても将来的には我々の収入に繋がるからな」

肩を竦めたアレクが立ち止まったシャルロの方へ歩き始める。


そうだよな。

こんな経験ってそうそう無いよな。

うん、楽しもうじゃないか。

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