第148話新ベンダー男爵?
「私がベンダー男爵になる事に協力していただきたいのですわ」
ニーナの言葉にユージンだけでなく、アレクもニーナの弟子たちも驚き固まっている。
何故ならニーナは見た目が6歳児だからだ。
この国で貴族位を受けれるものは、基本成人男子。
それも貴族学校をきちんと卒業した、その家の長子が爵位を継ぐのが一般常識だ。
ニーナはベンダー男爵家の娘であり、その上三番目の子供。
勿論貴族学校に入学する以前の幼い美少女だ。
ニーナの中にセラニーナ様が入っている事を知るユージンには、ニーナの叙爵に対しては異論はない。
これまでの経歴を考えれば、男爵位どころか大公位を渡しても当然だと思っている。
だがセラニーナは貴族になることを望まず、叙爵をこれまで受け入れなかった。
その気持ちが変わった今ならば、ニーナ様さえ嫌でなければ、ウィルフレッド殿下との婚約だって受けて頂き、未来の王妃になって頂きたいぐらいだ。
そんな事をグルグルと考えているユージンに、ニーナはクスリと可愛らしい笑顔を見せると、一つ頷き話を続けた。
「私がベンダー男爵になりたい理由は、ベンダー男爵家の呪いを私に集めたいからですわ……その為には私がベンダー男爵を名乗る必要があるのです」
「呪いを集める? ニーナ様のその小さなお体に? そんな事をしたら……ニーナ様が……」
「ウフフ、ユージン、そこは問題ないのですよ。私が直接この呪いの影響を受けることは有りませんの、それにこのまま私が誰とも結婚しなければ、この呪いはその間は誰も苦しめることは無いことでしょう……」
「そうなのですか?!」
「ええ、王家の呪いの方は、解呪出来るまではアレクが王位をレイモンド殿下に譲らなければ問題が無いでしょう。ですがベンダー男爵家の呪いの方は既に父を蝕んでいます。呪いを解く前に父をすぐに楽にして差し上げたいの……それにもしも呪いを解く事に失敗した時の為にも、私だけに被害があるように予め準備しておきたいのです……」
「ですがニーナ様だけがそんな犠牲をしょい込む必要はないのでは?」
「フフフ……ユージンは優しい子ですね。それに皆もそんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私はこの呪いをこのままにしておくつもりはございません……勿論解呪の失敗などあり得ないことですわ……」
ニーナの自信満々の笑顔に皆が息をのむ。
ニーナは怒っているのだ。
この醜悪な呪いをかけたミラ・シェアードに対しても、そして証拠隠滅を図ろうと余計な事をしでかしたジギスムント・ナンデス……いや、ジギスムント・シェアードにも怒っている。
この呪いのせいで多くの者が苦しめられてきた。
そして今後呪いを解かなければ、ニーナの家族を、そしてアレクの家族を益々苦しめる事になる。
ニーナは凍てつくような冷たい目をした笑みを浮かべ、コテンパンにこの呪いを葬り去ることを決めていた。
そう、今もセラの森の中を彷徨っているだろうミラ・シェアードとジギスムント・シェアードの魂を消滅させ、後悔させるぐらいに……
ニーナの怒りを受けミラ・シェアードとジギスムント・シェアードの汚れた魂がどうなるかは……今はまだ誰にも分からない事だった。
ただし……呪いをかけたことを後悔することは確かだろう。
神になったとまで言われているニーナに、知らずに喧嘩を売ってしまったのだから……
「承知いたしました……それは確かにニーナ様がベンダー男爵を名乗る必要が有りますね……それも出来るだけ早く叙爵が必要でしょう……」
幼い子供にしか見えないニーナに叙爵するとなれば、貴族たちを納得させる何かが必要になる。
王家の呪いをここまで調べ上げた事で既に素晴らしい功績を上げているが、その話を貴族にしてしまって良い物か……悩む所だ。
中には呪いを恐れ、返ってニーナ様を遠ざけようとするものも出るかもしれない。
それに昔掛けられた呪いだと言って信じるものがいるかどうか……
呪いが目には見えない……という事が厄介でもある。
それよりはニーナ様の力を見せつける方が話が早い気がする。
役職についている貴族たちを呼び出し、ニーナ様の魔法を見せつける。
そうすれば一瞬で方は付きそうだ。
それにニーナ様が、あの大聖女セラ・ナレッジ様と、王族の理想とまで言われたレオナルド・ベンダー大公の子孫であることを話せば、役員から反発も起きないはず。
ユージンは一瞬でそこまで考え付き、その小鹿のような可愛さが残る顔でニヤリと笑った。
役職に付いている者たちの驚く顔が楽しみだ。
と、今度は顔には出さず心の中でユージンが笑って居ると、ニーナがまた話し出した。
「それから今現在のベンダー男爵家ですが、取りあえずナレッジ大公家と名乗らせたいのだけれど、どうかしら?」
「セラ・ナレッジ様のお名前ですね」
「ええ、あの周辺を守っていたのは元は大聖女のセラ・ナレッジ様、ベンダ-大公の名に変わった事で、セラ様の守りが弱まった気がしているの……これは私の憶測でしかないのだけれど……それに大公家だったベンダー家が、いつの間にか王家の貴族巻から名前を消されていた……これはシェアード侯爵家の生き残り、ジギスムントの”払拭の呪い”のせいだと思うの、秘密裏に王家を、そしてこの国を守っていた大聖女セラ・ナレッジ様の子孫……長年の功績を考えても十分に大公を名乗る権利はあると思うのよ……まあ、反対する意見がある様でしたら、お兄様やお姉様のお力も見せ付けても良いのですけどね……ウフフフフ……」
本来大公家を名乗るのは王の兄弟だけだ。
それも一代限り、そしてその子供は侯爵家となり、三代続けてなんの功績も無ければ爵位は下がってしまう。
だがベンダ-家は、ずっとこの国を、そして王家を守り続けていた。
その上大聖女のセラ・ナレッジ様と、レオナルド・ベンダー大公の血を確実に引いている。
この国が感謝を込めて叙爵をしなければ、ベンダー家の家族は呪いを解いた後、別の国へ行ってしまう可能性もある。
今現在隣国の王子アランデュール・ラベリティ殿下とニーナ様家族は仲が良い様だ。
これ程の家を隣国へ渡してしまうのか……と、そう言えば、役員たちも文句は言えないだろう。
何より陛下が叙爵を了承しているのだ。
反対出来る筈も無いだろう。
「クックック……ハッハッハ、アーハッハッハ! ニーナ様、お任せください! このユージン・ナンデスが、三日で貴族たちの心を掌握して見せましょう! フフフ……宰相としての腕がなりますね……」
「まあ、ユージン、たった三日で宜しいの?」
「ええ、三日でも多いぐらいでございます。フフフ……三日後に役員会議を開き、その場で全員賛成で叙爵も陞爵も勝ち取って見せましょう……ニーナ様、その際にお披露目で何か魔法を使って頂いても宜しいですか?」
「ええ、勿論ですわ。出来るだけ驚かせられるものに致しましょうね」
「フフフ……楽しみです。では、私は手回しがございますので、これにて失礼いたします」
ユージンは皆に頭を下げると颯爽と立ち上がった。
ガツンと大きな音を立てて膝をテーブルにぶつけたが、そんな事は良くあること、ユージンは気にせず出口へと向かう。
「ユージン……」
だがそこでニーナにまた声を掛けられた、まだ何か有るのかとユージンが振り返って見ると、ニーナは可愛らしい顔に苦笑いを浮かべていた。
「ユージン、そちらは使用人の控室ですわ……出口はあちらですよ」
ドジっ子属性のユージンは、これからの作戦を頭の中で考えていたため、出口をうっかり間違えてしまったようだ。
うっかり。うっかり。
もう一度ニーナたちに一礼したユージンは、今度こそ本当の出口から部屋を後にした。
宰相になってから一番楽しい日を迎えた!
そう思い興奮気味のユージンなのだった。
☆☆☆
こんにちは、白猫なおです。十月に小説のストックを作ろうと思っていたのですが、思った以上に週末が忙しく、全く作業が進みませんでした。今現在あるストックも残りわずか……心もとない状況です。( ;∀;)
なので一週間、各小説の投稿をお休みしようと思っております。ニーナのお話は章の途中ですが、次回は9日火曜に投稿させて頂きます。ご迷惑をお掛けしますが宜しくお願いします。(=^・^=)
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