第84話ピクニック?
「肉、肉、肉、肉、にくーがすっき、ドラゴンさんーのにくーがすーきっ」
自分で作詞作曲した歌をご機嫌で歌っているのは、ベンダー男爵家のアイドル、シェリーだ。
今日はシェリー、ディオン、アラン、ベルナール、クラリッサ、アルホンヌの6人で森に来ている。
勿論これは楽しい、楽しい、ピクニック……と思っているのはシェリーだけだ。
ディオンとアランが新しい剣を購入し、ここのところのクラリッサとアルホンヌの手加減ない指導で、二人とも随分と剣の扱いが上手くなっていた。
どれ程成長したのかその確認も兼ねて森へ魔獣を倒しにやってきたのだが、一番ご機嫌なのはやっぱりシェリーだった。
そう、シェリーの中で森へ行くというのは、美味しいお肉を獲りに行く!
それと、美味しいお弁当を食べに行く!
と言う事がセットになっていた。
なので足取りもフワフワフヨフヨ軽いものだ。
ハッキリ言って半分浮いて歩いている。
そんな可愛いシェリーの姿を他の皆は目尻を下げて見つめていた。
「よーし、今日はたっぷり魔獣を連れて帰るぜー! ニーナ様を喜ばせるからな!」
「うん! アルホンヌ師匠頑張ろねー!」
ニーナに良いところを見せたいと、アルホンヌとディオンは燃えていた。
大型魔獣を必ず手に入れる。
それも出来るだけ珍しい魔獣を!
師弟二人はガツンと拳を合わせた。
「アラン様、魔法剣を試す良い機会です。今日は遠慮はいりませんからね」
「はい、クラリッサ様。この剣の能力を最大限発揮出来る戦いを致します!」
アランとクラリッサの師弟も燃えていた。
魔法剣!
研究家でもあるニーナにこの新しい魔法剣の良い報告がしたい。
ドラゴンのお腹から出てきた鉱石を使って出来たこの剣の情報を、詳しくニーナ様にお伝えする。
そのためには多くの魔獣を倒し情報を集めようと、アランとクラリッサは顔を見合わせ力強く頷いた。
そして永遠のライバル、ベルナールとシェリー。
残念ながらライバル視しているのはベルナールのみ。
シェリーはベルナールの事を面白いおじさ……ゴホンッ、お兄さんとしかみていない。
でもオヤツをくれるから好き。
シェリーにとってベルナールはそういう存在だった。
「ベルナールのお兄ちゃん、魔獣捕まえる競争今日もする?」
「ええ! シェリー、今日こそは、今日こそは絶対に負けませんよ!」
「じゃあー、お弁当のデザートを勝った方が貰える事にしよっか?」
「フフフッ、いいでしょう! シェリー、デザートが無くて泣いても知りませんよ」
ハハハハッとベルナールが腰に手を当て豪快に笑っている間に、シェリーは鳥を次々に落として行く。
魔獣の焼き鳥が大好きなシェリーには、飛んでいる鳥が全てご馳走に見える。
そのお陰かシェリーの風魔法の腕前は、百発百中になっていた。
ご馳走はすべて手に入れる。
シェリーの食欲はすさまじいものだった。
なので普段から負けっぱなしのベルナールは笑っている場合では無かったのだ……
「えっ、ちょ、ちょ、ちょっとまってよシェリー。ヨーイドン! してからでしょう?!」
「ふぇ? そうなのー? でもホラまた鳥さんいたよー」
鳥目掛けヒュンッとシェリーの風魔法が飛んでいく。
もう既にシェリーは何体も鳥魔獣を倒していた。
どうやらベルナールの今日のデザートもシェリーのものになりそうだ。
そしてそんな二人のやり取りを尻目に、騎士四人組はある存在に気がついていた。
「師匠、なんか大っきい魔獣いるね」
「ああ、ディオン兄様も気がついたか、アレは大物だなー。ニーナ様が喜びそうだ」
「あの動き……大きさ……蛇魔獣かもしれないな……」
「蛇魔獣……? 私は初めて出会います……」
四人はシェリーとベルナールにその場に待機と命じると、一斉に駆け出した。
目指すはニーナが喜ぶ大型魔獣。
鍛え抜かれた四人の走りはロケットスタート並の速さ。
あっという間に目標地点に着くと、そこにはうじゃうじゃと絡み合う、二メートル級の蛇が大量に集まっていた。
「うげー、気持ち悪いー、共喰いしてるー」
「こいつはリンゲルガだ! 気を付けろ凶暴だぞ!」
ディオン、アルホンヌ師弟が声を出す。
「アラン様、リンゲルガは魔法を弾く個体もいる、気を付けろ!」
「は、はい! 了解です!」
アランは戸惑いながらもクラリッサの指示に従う。
初めての魔法剣での戦いに、文字通り手に汗握っていた。
アランとディオンは知らないが、リンゲルガは凶悪魔獣鑑に載るほどの魔獣。
普通ならリンゲルガ一体を、数十人の騎士や兵士で倒す程の魔獣だ。
今この場に集まるリンゲルガは数十匹……ディオン、アランは知らぬ事とはいえ、それを四人で倒そうと思うなど普通なら命を無駄にする行為。
だがこの四人。
既に普通では無くなっていた。
クラリッサとアルホンヌに至っては今更だ。
アランとディオンも標準とする騎士がこの二人となっているため、感覚が狂っている。
その上自宅には凶暴なカカシがいる。
そして構ってちゃんのプルースもいる。
そして怒ったら何をするか分からない6歳児迄いる……
リンゲルガの相手など今のこの四人からしたら、蟻の手を捻るよりも簡単な事だった。
その上尊敬するニーナが喜ぶ程の凶悪で珍しい魔獣。
こんなチャンスもう無いかもしれない。
全て持ち帰ろう!
四人の目は嬉々として輝いていたのだった。
「お帰りー! 魔獣捕まえたー?」
シェリーとベルナールの下へ戻れば、シェリーはニコニコ顔で自分が倒した魔獣を魔法袋にしまい、ベルナールはガックリと肩を落としそれを手伝っていた。
それだけで二人の勝負の結果は丸わかりだ。
どうやら今日もベルナールのデザートはシェリーのものとなる様だ。
「ああ、シェリー姉様。滅茶苦茶良い魔獣捕まえたぜ」
アルホンヌがニヤリと笑い、自分の魔法袋からリンゲルガの顔を出す。
普通の8歳の少女ならばその瞬間泣き叫びそうなところだが、そこはシェリー、聞く事は一つだった。
「アル兄様、その子美味しいの?」
「ああ、滅茶苦茶美味い! シェリー姉様、腰抜かすなよー」
「ええー! じゃあ早く帰ろう! エクトルにお願いしなきゃ!」
興奮気味のシェリーに皆が笑顔になる。
可愛い。
シェリー可愛い。
だけど言ってることはかなり危ない少女なのだが、誰も突っ込むものはいない。
そう、ニーナに比べれば蛇の頭を見て涎を垂らすなど可愛いものだからだ。
「シェリー、残念だが、リンゲルガはニーナ様しか料理出来ないと思う」
「ふぇー、なんでー?」
クラリッサの言葉にシェリーはショック顔だ。
そう、今日ニーナ達研究組は王都の図書館へと行っている。
つまり帰ってくるのは夕方。
美味しいリンゲルガはそれまでお預けと言う事だ。
流石のシェリーもベルナールと同じようにガックリと肩を落とした。
「リンゲルガは衣が硬いからニーナ様しか上手く捌けないんだ。まあ、明日の楽しみにしよう」
クラリッサの言葉を聞いてシェリーは 「うん!」 と頷き、そして美味しいものを食べるために料理を覚えようとこの日決意したのだった。
こうして楽しいピクニック? は大収穫で幕を閉じたのだった。
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