懐かしき王都
第55話お迎えの準備
「お姉様、こちらを着てみて下さいませ」
ニーナは隣町の生地屋で貰った生地を使い、姉のシェリーに似合いそうな淡いレモン色の生地で可愛らしいドレスを作り上げた。
それをシェリーに渡し、サイズに問題が無いか見てもらう。
ドレスを見た瞬間、シェリーの目がキラキラと輝いた。
そうやっぱりそこは女の子、新しいドレスを見れば食いしん坊のシェリーでも興奮するようだ。
「ニーナ、これ私のドレス?! 凄い可愛い! ふぇー、着ていいの?」
「勿論ですわ、お姉様の為に作り上げた物ですもの、どうぞ着て下さいませ」
シェリーはザナに手伝って貰いながら、恐る恐るドレスに袖を通した。
ニーナの想像通りレモン色のドレスはシェリーによく似合っていた。
可愛い姉の普段以上に可愛い姿に、ニーナも大満足だ。
シェリーは新しいドレスが気に入った様で、鏡の前でクルクルと回る。
それを見て一言。
『我が姫は何を着ても可愛いのー、ワシは姫を見ながらメシを三杯はお代わりできる』
と黒髪の人形チャーターが答える。
そう、隣の隣町の魔道具屋から連れて来たチャーターを、シェリーは気に入りとても可愛いがっている。
ニーナが始めに魔力を流したせいか、チャーターはニーナの事をボスと呼び、シェリーの事を姫と呼んでいた。
お喋り大好きと言うよりは、ちょっと女好きの人形だとファブリスは感じていたが、勿論そんな事を突っ込んだりはしなかった。
何故ならシェリーがチャーターを可愛い可愛いと毎日抱っこしているのを見れば、余計な事など言える訳がなかったのだ。
「ニーナ、お兄様にドレスを見せて来ても良い?」
シェリーの弾ける笑顔にニーナは頷く。
今ディオンはアランと共に庭のカカシ人形と戦っている事だろう。ファブリスが作り上げたカカシに、ニーナが魔力を流した。
長い腕を使い二人を攻撃する凶暴なカカシだ。
そのお陰かディオンとアランの動きは益々俊敏になっていた。
そして二人の訓練に参加するのが攻撃人形のプルースだ。
プルースはチャーターの様に喋る事はないが、ケタケタと笑いながら電光石火の魔法攻撃をしかけてくる。
特にプルースは炎系の魔法が得意な様で、カカシと戦っているディオンとアランにファイアーボールを飛ばしてくるのだ。溜まったもんじゃ無い。
多分最初に魔力を流したニーナの力が関係しているのだろう、その攻撃にはまったく手加減は無いようだった。
ただしプルースは、ディオンとアランの事は好きらしく、訓練時以外はべったりと側にいる。
なので二人も弟の様にプルースを可愛がっていた。
ニーナはダンクから良い子を貰えたと大満足だ。
そんなニーナの杖も無事に出来、先日魔道具屋のダンクの下へ受け取りに行って来た。
ダンクの作ったニーナの杖は、ニーナの手にピッタリと馴染む物だった。
作り上げたダンクも満足気で、ニーナの為なら何でも作るとまで約束してくれた。
ただ商売下手のダンクの事がニーナは心配で、ダンクの事も幸せにしなければと、ニーナはまた決意を固めていた。
やはり、世話好きはどこまで行っても世話好きらしい……
「お兄様ー、アラン様ー」
レモン色のドレスを着たシェリーが庭へと駆けて行くと、ディオンとアランとプルースまでもが振り向く。
ベンダー男爵家のアイドルの可愛さに、皆目尻が下がって向かい入れる。
悪戯っ子のプルースもシェリーの事が大好きで、ケタケタと笑いながら抱きついていた。
甘えん坊。
そう、ダンクが言っていた通りプルースは甘えん坊さんの様だった。
「見てー、ニーナがドレス作ってくれたのー、どう、可愛いでしょう」
「うん、シェリーとっても可愛いよ」
「ああ、シェリーとても良く似合っている。この国一の美姫だと言える美しさだ」
『ケタケタケター』
皆に褒められてシェリーは満足そうだ。
後から付いて来たニーナも、姉の可愛さに大満足だ。
ニーナは今度はディオンとアランに近づき声を掛けた。
「お兄様、アラン、二人にも洋服を作りましたの。後で合わせて見て下さいませね」
「俺にも?」
「私にもですか?」
驚く二人にニーナは笑顔を向ける。
隣町で沢山の生地を貰えた事で、新しい衣装を作る事が出来た。
これはニーナの計画の為には有難い事だった。
「ええ、来週の始めに王都へ出掛けます。その為の衣装ですわ」
「王都? 王都に行くの?」
「ニーナ様、私もですか?」
ニーナはまた笑顔で頷く。
王都へ行くために杖も作り、衣装も作った。
そして馬車を購入しなかった理由は、ニーナが魔法を使って移動出来ると言う事もあるのだが……
一番の理由はニーナがこのベンダー男爵領からは魔法を使わないと出れないのでは無いか? と思っていたからだった。
森で拾われた使用人達、それにアランやベルナール。
そして父親のエリク。
彼らはベンダー男爵領に無意識で引き寄せられたのでは無いかとニーナは思っていた。
呪いを掛けた人間が喜ぶ様な感情を、皆が抱えていてここへ引き寄せられた……のでは? とニーナは想像していた。
闇ギルドで落ちこぼれだったファブリスの抱えていた感情や、城から追い出されたアラン、ベルナールが受けた行為に、この呪いは関係しているとそう感じていたのだ。
だからこそ、森を通り抜けるには魔法しかない。
ニーナの弟子達をベンダー男爵家へ迎えるのも、その方法しかないと思っていた。
「あら、そう言えばベルナールはどちらに? ベルナールにも衣装があるのですけど……」
「あー……」
アランが苦笑いを浮かべ見つめた先には、ベルナールが疲れ切ってのびている姿があった。
どうやらカカシにやられたようだ。
何故か笑顔を浮かべ、ベルナールは本当に寝ているだけの様に見えた。
後で癒しをかけてあげましょう……
ニーナはそう思いながら皆に声を掛けた。
「さあ! 王都へ行って魔獣を売りまくりますわよー!」
ニーナの掛け声に皆が「おー!」と答えたのだった。
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