護衛のイケメン〜二日目〜 前編

「あー……。なんかドッと疲れた……」


 家に帰って来た私は、着替えもせず真っ先にベッドにダイブした。



 愛良の天然発言に突っ込みを入れた後は、朝と同じように四人揃って帰路についた。


 歩きながら、愛良の中学でも赤井が一緒だった事で今日一日騒がしかった事や、友達とのお別れ会をどうするか話したという事を聞く。


 こっちも同じ様な感じだった事や、引越しに必要な買い物はしなくて良いらしい事を話した。



 お互いの報告の様な話をしているうちに家に着き、赤井と浪岡君と別れ今に至る。



 学校にいる間も疲れたけど、帰って来るときも注目されてるのが分かって疲れたし。

 それに私は愛良と話してるってのに赤井が話しに割り込んできた上に一々嫌味を言って来るからずっとイライラしてたし……。



 うん、これは赤井の所為だな。

 やっぱり嫌いだ、あの顔だけ嫌味迷子。


 思い出しただけでイライラしてくる。


 でもそうやって嫌いな奴の事ばかり考えてしまっている事自体も嫌な気分で……。



「あー! もう止めよ! お腹空いてるからイライラするんだよきっと。下行って何か食べよ」


 そう口にして起き上がり私は部屋着に着替えた。



 脱いだ制服をハンガーに掛けながら、この制服もあと二日しか着ないのかぁ……などとしみじみ考えていると。



 きゅるる……。



 小さく、でも確かにお腹から空腹の訴えが。



「……」


 うん、下で何か食べよう。


 とにかく小腹を満たさなきゃ。




 どうせ明日も赤井達は来るんだし、疲れもイライラも避けられない。


 あと二日の我慢と受け入れて、少しでもイライラを解消するようにした方が建設的だ。



 それに今日一日で少しは慣れたから、明日は今日ほど疲れないかもしれない。



 そんなわずかな期待は、翌朝すぐに砕かれてしまったけれど……。


 ***


 ……誰? この人達。


 真っ先に思ったのはそれだった。

 きっと隣に立っている愛良も同じだろう。




 朝食を食べ終わり、昨日と同じ頃合いにインターホンが鳴らされた。


 赤井達だろうということで、お母さんは出ず鞄を持った私達が玄関に向かう。


 自己紹介や説明なんかは昨日済ませてあるから、今日はもうそのまま学校に向かってもいいだろうと思ってのこと。



 靴も履いて、「お待たせー」とドアを開け外に出た私は固まった。

 私に続いて出てきた愛良も隣に来たところで固まる。


 そりゃそうだよね?


 だって赤井と浪岡君だと思ったら全くの別人がそこにいるんだもん。



 がっしりとしたスポーツでもやっていそうな体格の男と、チャラいという言葉がそのまま人間になったような男の二人。


 固まって警戒している私達に、チャラい男の方が話しかけてきた。


「おはよ。聖良先輩と愛良ちゃんだよね? 初めまして、俺は城山学園高等部一年の赤井 しゅん。こっちは二年の石井いしい 和也かずや。今日の護衛は俺達だから、よろしくね」


 と最後にウインクをした。



 うわっ……ウインクなんてする人本当にいたんだ。



 驚きはしたものの、不快感はない。

 それほどに彼、赤井 俊は顔立ちが良くウインクも自然な感じがした。



「あ、城山学園の人だったんですね。そういえば昨日の赤井先輩と同じ制服ですもんね」


 自己紹介を聞いた愛良がホッと息を吐いてそう言った。

 その言葉に私も目の前の二人をもう一度ちゃんと見てみる。



 白いワイシャツに学ランのズボンだから他の学校と見分けがつきにくいけれど、よく見ればズボンの前ポケット口が赤く縁どられている。

 それは確かに昨日も一昨日も見た、赤井が着ていた制服と同じだった。


 それを見た私もひとまずホッとする。

 少なくとも、彼等が城山学園の生徒だということは間違いない様だ。



「赤井先輩? ああ、零士のことか」


 愛良の言葉に軽く訝しげな顔を見せた後、そう言ってチャラ男は納得する。


 そしてイタズラっぽく笑った。



「オレは零士とは従兄弟なんだ。どっちも苗字は赤井だから、俊って名前で呼んで欲しいな」


 そう言った顔は甘えん坊の年下の顔で……。



 うっ!


 私、チャラ男はそんなに好きじゃ無いけど……これはヤバイ。


 この顔立ちでその顔は反則だよ!



 赤井――じゃ無くて、俊君は零士の従兄弟というだけあって綺麗な顔立ちをしている。


 明るめの茶色の髪は長く、前髪はヘアピンでおでこが出る様に上げていて、肩より少し長い後ろはそのまま流している。


 ピアスも耳に三つつけているし、本当にチャラ男って感じなんだけれど、顔が綺麗な所為かそんな格好もただのファッションとして似合っていた。


 私同様俊君に軽く見惚れていた愛良はハッとして応えた。


「そうですね、確かに苗字同じだと呼ぶとき困りますし……えっと、俊先輩?」


「そうそう、それでよろしくね」


 とまたウインク。



 ……うーん、零士同様鑑賞するにはもってこいの容姿だわ。



 にしても、もう一人の……石井君だっけ?

 さっきから一言も喋らないなぁ……。



 180センチは確実にあるであろう長身を見上げる。


 一度も染めた事が無いような黒髪は短く、揉み上げの所は刈り上げている。


 太めの眉にキリッとした目。

 正に日本男子と言うような男らしい顔立ちだ。



 刀でも持たせたらまさに侍!って感じだなぁ。



 そんな感想を覚えながら見ていると、視線に気付いた石井君がこっちを見て初めて口を開いた。


「そろそろ行かないと、遅刻するんじゃないか?」


 耳に心地良い低音ボイスに告げられてハッとする。


 そうだ。多少余裕があるとはいえ、ここで立ち話していたら遅刻してしまう。



「そうだね、とりあえず歩こうか?」


 笑顔で応えた私に、他の三人も同意した。





「そういえば、何で今日は俊君達になったの? 護衛は三日間ずっと浪岡君達だって聞いたと思うんだけど……」


 テクテクと四人で歩きながら、さっき聞けていなかった事を質問する。



 浪岡君達は三日間別の護衛が来るなんて言っていなかったし、昨日帰るときも普通にまた明日とか言ってたし。


 どうして突然違う人が来たのか謎だ。



「ああ、それはね」


 と答えてくれたのはやっぱり俊君。


「わざわざ学年合わせて零士と将成を向かわせたのに、それぞれ違う学年の方に付いたでしょう? だから田神先生が、学年違っても良いなら俺達でも構わないだろうって」


 まあ、確かに構わないだろうけど……。


 でもそれで何の連絡も無く変更されると驚くから!

 警戒しちゃうから!



 と少し田神先生を非難する。

 けれど、俊君の次の言葉に少し考えを改めた。



「それに三日間丸っと休むと、将成達が授業に追いつくの大変になるからね〜」


 ああ、それは確かに……。



 昨日浪岡君は三日間なら大丈夫だとか言っていたけれど、全く大変じゃないって意味じゃ無いんだろうし。


 浪岡君達の事を考えての変更だって言うなら田神先生をあまり責めるわけにもいかないか。



 ……でもやっぱり電話の一本くらい欲しかったよ。



 責められない、と思いつつ心の中でだけは文句を言わせてもらった。




「それもそうですよね」


 そう同意した愛良は続けて質問する。


「それじゃあ今日は誰が誰につくんですか?」


 それは私も気になる所だ。

 返答を求めて私も二人を――というか、主に俊君を見る。


 俊君は気さくだけど、その気さくさの所為で周りの反応が昨日の浪岡君以上に大変な事になりそうだ。


 かと言って石井君だと全く喋らない可能性が高くてとても気まずくなりそうだ。



 正直に言わせて貰うと、どっちにも側にいて欲しくない!



 まあ、そういう訳にもいかないんだろうけれど……。



「んー、学年合わせるなら和也先輩が聖良先輩で俺が愛良ちゃんなんだろうけど、力量を考えると愛良ちゃんには和也先輩が付くのが妥当かなぁ」


 ヘラヘラと笑いながら言った俊君。


「力量?」


 何の力量?

 ケンカの?



 聞き返すも、「んー、こっちの話」とはぐらかされてしまった。


 なーんか隠してるみたいで怪しいけれど、護衛とかするくらいなんだから闘う強さとかそんなところだよね。


 と納得する。



「えっと……じゃあ、石井先輩。今日はよろしくお願いします」


 愛良が少し緊張気味に石井に向き直って頭を下げた。


 まあ緊張もするよね、ここまで無言だと。


 それに倣って私も俊君に向き直る。


「今日はよろしくね、俊君」


 俊君なら、少なくとも気まずい雰囲気にはならないだろうという安心感もあり、素直に笑顔で挨拶出来た。



「……」


 すると俊君は何故かポカンと口を開けて私の顔を見る。


 何だろう?

 おかしいところでもあったかな?



「俊君? どうかした?」


「え⁉ あ、いや。その……その顔反則って言うか……」


「は?」


「いや! なんでも無い! こっちこそよろしくお願いします、聖良先輩」


 何やら焦りはじめたかと思ったら、慌てた様に返事をした彼を不思議に思う。


 でも、なんでも無いと言っているのに追求する訳にもいかず「はあ……」と返すしかなかった。



 とにかく、そんな風に話しながら私達は学校に向かった。


 周囲から沢山の視線を感じながら……。



***


 い、痛い。


 視線が痛い!



 学校に着いて愛良達と別れ、私は俊君と並んで歩いていた。


 学校の方には連絡入れてあるからと、俊君はずっと側にいる。



 学校には連絡入れて私達には無いのか⁉


 と突っ込みたい所でもあるけれど、今はそんな事はどうでも良い。


 とにかく視線を浴びすぎてもはや痛みを感じるレベルだ。



 昨日の浪岡君も目立っていたけれど、俊君はその比じゃない。


 イケメンという理由もあるけれど、やっぱり髪色やピアスの所為だろう。


 この学校、髪色は明るすぎない程度、ピアスはもってのほか。っていう校則だし。



 俊君は髪色は誰が見ても明るいと言うだろうし、ピアスも見える様に堂々と付けている。


 髪で隠してコッソリピアス付けている子とかはいるけれど、ここまで堂々と付けている人はいないからね。



 明らかに何こいつ、正気?って視線を向けられている。

 まあ、女子からのカッコイイって視線も勿論あるけれど。


 でもそんな視線も何処吹く風。

 俊君は鼻歌でもしそうな雰囲気で他校の校内を歩いている。


 私の方は、こんな奴と一緒に歩いているこの子は何? どんな関係? って感じの視線で見られてとても居心地が悪いっていうのに……。


 なんか不公平だ……。



 力なく思ってみても、虚しくなるだけだった。


 そんな視線の中を拷問されている様な気分で乗り切り教室に着くと、今度は席に着く暇もなく主に女子のクラスメートに取り囲まれる。



「ねえ、その人誰⁉」

「浪岡君はどうしたの⁉」


 当然ながら、俊君に関する質問ばかり。



「この人は赤井 俊君。今日の護衛。浪岡君は来ないよ」


 と一息で答えながら彼女達の間をくぐり抜け、何とか席までたどり着く。


 でもそこで安心出来た訳じゃ無かった。

 まだまだ質問したりないとクラスメートは付いて来て席の周りを取り囲んでいるし、昨日浪岡君を気に入っていた友達は「何で浪岡君じゃないのよー」と嘆いているし。


 朝の時点で昨日の倍以上の騒ぎだった。


 そんな中人混みを掻き分けて有香が顔を出した。


「あ、有香おは――」


 おはよう、と言い終わる前に肩を乱暴に掴まれる。


 痛いんだけど⁉



「せせせ聖良! その人、誰⁉」


 慌てた様子が気になったけれど、取り敢えずさっきから繰り返している言葉をもう一度有香に言った。



「赤井 俊君だよ。今日の護衛。ちなみに一つ下の高一」


「赤井……俊君かぁ……」


 私の言葉を反芻はんすうする様に呟きながら、有香はウットリと俊君に視線を移す。



 あれ?

 この反応って……。



 今の有香の反応が、昨日の友達二人の反応と似ている気がする。



 え? 有香が?

 いやまさか。



 有香もチャラ男は嫌いだったはずだ。


 それなのに、このいかにもチャラ男って感じの俊君にときめくとかありえないでしょ?


 ……まあ、カッコイイとは思うけど。



 まさかと思いつつ、確認しようと口を開いたとき。


「ほらお前ら席に着けー。出席取るぞー」


 と、いつの間にか教室に入って来ていた先生が声を上げた。


 周りに居たみんなは渋々といった様子で離れていく。


 有香も最後まで粘ったけれど、結局名残惜しげに離れていった。



 でもそうして人垣がなくなり先生に俊君が見える様になると、先生の顔がみるみる驚きの表情になっていく。


 目を丸くして俊君を見ていた。



 俊君の存在に驚いてる?


 いや、でも知らせてあるって言ってたし。

 それに驚くなら教室入った時点で何か気づくよね?



 ……ってことは、やっぱり俊君の見た目かな?


 髪色もピアスも校則違反になるもんね、この学校じゃあ。



 しばらく先生は何か言いたそうに口を開けたり閉めたりしていたけれど、やがて諦めた様にため息をついてうな垂れた。



「あー……じゃあ出席取るぞー……」


 結局何も言わない事にしたらしい。



 その後はざわざわしながらもHRが始まる。


 そして授業の合間のたびにまた取り囲まれ、有香と中々話が出来ないまま昼休みになった。


「有香! ポーッとしてどうしちゃったの?」


 お弁当を広げる前に、私は真っ先にそう言った。


 ずっと俊君の事を見ていた有香は、ハッとなって私に視線を向ける。



「あ、ごめん。なんて言った?」


「……」


 聞こえてなかったんかい!



 仕方なく私はため息をついて仕切り直した。


「有香、俊君がそんなに気になる?」


「ちょっ! 赤井君すぐ隣にいるのにそんな事!」



 赤くなって慌てる有香にまたため息が出る。


 俊君は昨日の浪岡君と同じ様に沢山の人から質問攻めだ。

 浪岡君くらい地獄耳でもなければ聞かれる心配は無さそうなのに。



「有香、チャラい男子ってそんな好きじゃなかったよね?」


 なのにどうして? という言葉を含ませて聞く。

 でもその答えは至ってシンプルだった。


「ああ、うん。確かに好きか嫌いかで言うと嫌いな部類かな。でも赤井君は……その……顔が超好みなのー」


 きゃー、言っちゃったー! と何やらはしゃぎ出す始末。



 なんかもう目も当てられなくて他二人の友達に視線を移すと、丁度彼女達は俊君に質問しているところだった。


「昨日が浪岡君で、今日が赤井君って事は、明日は誰が来るの?」

「交互って事で浪岡君なの?」


 何気無い質問の様に見せかけているけれど、目が期待に満ちている。


 明日のお別れ会に来るのが浪岡君なのか気になるんだろう。



 そんな視線に気づいているのかいないのか、俊君は「明日? 明日はねぇー」とヘラヘラ笑いながら答えた。


「俺と零士だから、こっちに来るのは強制的に俺かなぁ」


「そうなんだ……」

「そうなの⁉」


 二人がションボリする横で有香が嬉々として喜びの声を上げた。



 天と地の差っていうくらい正反対の反応だなぁ。


 にしても、明日も俊君が護衛なのかぁ。



 正直勘弁して欲しい。注目されまくって迷惑だ。

 今日の様子を見るに、昨日の浪岡君の方がまだ落ち着いていたし。



 でも、だからと言ってまた知らない人が来たり、零士が私の方についてきたりというのはもっと勘弁して欲しい。


 間をとって俊君、って事で納得するしかないのかな。

 どうせ変えられないし。


 はぁ……と小さくため息をつき、私はお弁当箱を広げる。




 ……そして食べ終わる頃には私は孤独を楽しんでいた。


 なんてね……。

 勿論本当に楽しんでる訳じゃないよ。

 イヤミだよ嫌味!



 周囲を人が取り囲んでいると言うのに、彼らの目的は俊君ただ一人。

 私なんてお呼びじゃない。


 昨日は有香が話し相手になってくれたけれど、今日は期待出来そうにない。


 ずっと俊君を見つめていて、箸が全く進んでいない程だ。



 じゃあ他の二人はと言うと、こっちは昨日とほぼ変わりない。


 俊君との会話を楽しんでいる。



 それなら私も会話に混ざれば良いじゃない。

 とも思ったけれど、話している人が多すぎて入り込む隙がない。



 という訳で、私は一人どうしようかと考えていた。


 でも、お弁当を食べ終わって片付けても何かを考えつくことはなくて、本当にどうしようかと悩む。



 昼休みが終わるまでまだ二十分以上はある。

 その間ずっとここにいるのは結構辛い。


 ちょっとでも良いから離れたいなぁ……。


 そう思い、取り敢えず立ち上がった。



 するとすかさず俊君が反応する。


「聖良先輩、どこ行くの?」

「えっ?……とぉ……」


 ずっと話しっぱなしの俊君がまさかわざわざそんな事を聞いてくるとは思わなくてちょっと驚いた。


 でも一応護衛だもんね。

 当然と言えば当然か。



 でもだからと言って、ちょっと離れようかと……なんて正直に言うと俊君は付いて来るだろう。


 この人垣から離れたいのに、俊君が来たら人垣もゴッソリついて来そうだ。



 私は逡巡しゅんじゅんして答える。


「ちょっとトイレに……。ついて来なくていいからね?」


 嘘をつき、一応念を押す。


 本心を悟られないかちょっと心配だったけど、杞憂だった様だ。



「はーい。分かりましたよ」


 と、ヒラヒラと手を振って送り出してくれた。



 こうして何とか一人、この場を離れる事に成功する。


 一先ず廊下に出た私は、さてどうしようかと考える。


 離れたいと思って廊下まで出て来たけれど、どこか行きたい場所があるわけじゃない。


 でも廊下をウロチョロしてたら気付かれそうだし……。



 仕方ない。

 取り敢えずトイレに行こうか。



 そうすれば嘘を言った事にはならないだろうし。


 って事でトイレ前に行ったはいいけれど、もよおしてるわけでも無いので入る気にはなれない。


「…………」



 とりあえず人が少ない所に行きたいなぁ。


 教室からあんまり離れてなくて、人気のない所ってどこかあったっけ?



 そう思いながら当てもなく歩き始めると。


「あの、香月さん」


 男の声に呼び止められた。


 振り向くと、そこには見知った顔の男子生徒。

 とは言え、本当に知っているという程度で話した事はあまり無い。


 去年同じクラスだったけれど、それ以外に関わりは無い相手。



 何だろう?

 先生に言付けでも頼まれたとか?

 でもそれなら同じクラスの人に頼むよね?



「何? 鈴木君」


 不思議に思いながら彼の名を呼んだ。


「その、話したい事があるんだけど……。ちょっとついてきてくれないかな?」


 大人しそうな印象そのままの、控え目な話し方。

 眼鏡の奥の目はオドオドと揺れている。



 そんな様子、しかも大して仲が良い訳でもない相手に何の話があるというのか。


 疑問はあったけれど、断る理由もないので了承する事にした。


「うん、良いけど?」


 気軽に返事をして私は鈴木君について行く。

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