第二片 病院
こんな夢を見た。
風邪をひき病院へ行くと、そこは奇遇にもクラスメイトの入院している病院だった。そういえばあまり喋ったことは無いが班分け等で顔を合わせることはある。ここまで来たのも何かの縁と見舞いに行くことにした。
「やぁ。調子はどう?」
「元気·····とは言い難いかな。」
そう言った彼はいつも通りの無表情で、ここ暫くの入院生活もあってか元々の白い肌が一層白くなっているような気がする。最近の学校生活と彼の入院生活を情報交換していると話が弾んだ訳では無いが、あっという間に時は過ぎ外はとっぷりと日が暮れていた。
「そろそろ帰らなきゃ。」
私が呟くと彼は「もう帰るの?」と無表情ながらにも寂しそうな目をして首を傾げた。その様子を見た私は不覚にも可愛いなと苦笑しながら「だってここで寝る訳にもいかないじゃないか。」と答える。と、ノックとともに病室の扉が開き看護士が夕食を持ってきた。
「失礼します。お夕食のお時間ですよ。お加減いかがですか?」
「可もなく不可もなしかな。」
「それは何よりです。」
そんなやり取りを横目に帰ろうとすると不意に「ねぇ看護士さん、彼を付き添いってことで泊めれない?」と彼が言い出した。冗談半分だったのかもしれないが、看護士は顎に指をあて考える素振りをすると私に耳打ちをした。
「ねぇ、彼さ、最近誰もお見舞いに来ないし寂しいと思うんだよね·····良かったら泊まってってくれない?」
そんな雑に付き添いで泊めていいのか。驚き怪訝な顔をする私とは対照的に看護士は悪戯っぽく、彼は寂しそうに笑った。
結局私自身風邪ひきであったのもあり、そのまま申請は通ってしまったらしい。彼のベッドの横で共に病院食を食べ、空いていた隣のベッドで横になりだらだらと学校の近況についてなどを喋っていたらいつの間にか消灯時間となっていた。病室はおろか病院全体が暗くなり、草木も眠るようなそんな時間。うとうととまどろんでいた私は彼の声で起こされた。
「ねぇ、散歩しようよ。」
夜の病院。そこは耳が痛くなるほどに静まり返っており、どんどんとしかしゆっくりと進む彼はどこか楽し気で、鼻歌までもが聞こえるようだった。暗い廊下の突き当たり、病院にしては薄汚れたエレベーターに乗り込むと彼は一緒に行こうとばかりに手招きをする。どこへ向かうのか皆目見当もつかないまま誘われるように乗り込みむと彼は何階やら分からぬほど文字の掠れたボタンを押す。しばし後、ポーンという到着音とともに扉が開くとそこにはベッドや展示されていたであろう医師たちの服を着たマネキンが何故か無造作に乱雑に置かれ、一層の不気味さを醸し出していた。
「なぁ、どこへ向かっているんだ?病室へ戻ろう?」
そう語りかける私に彼は何故?とばかりに無表情のまま首を傾げ、ぺたぺたと素足を響かせながら近づいてくる。
実は彼もここに転がる人形なのではないだろうか?無機質な瞳に射貫かれ金縛りにあったかの如く動けない私がふとそんなことを考えていると、おもむろに彼は腕を広げ私を抱きしめた。その動きはまるで壊れ物を扱うかのように優しくぎこちない。
「ねぇ・・・・・・」
「静かに。」
私の言葉を遮り耳元で響く彼の声はどこか妖しく、普段の彼からは想像がつかない声色に驚き首を動かすと、そこには蠱惑的な笑みを浮かべながら微笑む彼の顔があった。彼は再び私をぎゅっと抱きしめると「動かないで·····」と囁く。言われるままされるがまま、まるで彼の人形の如くなった私の耳の中に何か温かいものがぬるりと入り込んでくる。嗚呼これは彼のーーーーーーー
気付けばそこは自室のベットで、時計を見ると出勤時間の約一時間前であった。夢の彼は誰だったのか。じっとりと汗ばむ体を起こしながらそんなことを考える私を笑うように明るくなっていく窓の外でカラスがカァと鳴いた。
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