第3話 魔女の公開処刑

 

 しかし国を変えようというカレンの思惑は、あっさりとついえようとしていた。


 皇国の居城についたカレンは王に呼び出され、豪華絢爛ごうかけんらんな内装をした謁見の間に来ている。

 周りには貴族なのか精悍せいかんな顔つきをした男たち。

 彼らは恐らくこの国の軍部を仕切る将軍たちだろう。

 どの男も屈強な身体つきで、文官らしき人物は何処にも居ない。


 徹底した実力主義で成り上がってきた彼らは、次代の王妃となる者がどんな人間かを見に来たのだろう。

 ちなみにカレンの美貌には興味が無いのか、あまり外見を見られなかったのが救いと言えば救いか。



 ――だがそれも、魔力の測定が行われるまでだった。


 王の形だけの挨拶は早々に終わり、側仕えが持ってきた特別製の水晶玉によるカレンの品定めが始まった。

 この水晶玉に手をかざすと、その者の持つ魔力に比例した大きさの光を放つようになっている。

 リグド皇国ではどの国民にも行われている儀式で、魔力が高ければ農民でも高官に取り立てて貰える仕組み。

 逆に魔力が少なければ、どれだけ権力のある子でも平民以下に落ちてしまうという、諸刃の剣だったりもする。


 果たして、未来の王妃はどんな結果だったのか。

 それはもう公開処刑に近かった。


 ――魔力が、殆ど無かったのである。



 予定されていた婚姻の儀結婚式は白紙となった。

 ジェイドは怒り狂い、カレンの頬を張ったビンタした

 姫としての尊厳も無い、地獄の日々の始まりである。


 人質にでも使うつもりだったのか、さいわいにもそれ以上手を出されることはなかった。

 協定を利用してウェステリアの技術を輸入する算段だったのだから、彼女の存在は必要だったのだろう。

 表向きは婚姻関係のまま、生殺しの状態でこの国に飼われることとなった。


 もちろん、元王妃候補だったからといって丁重に扱われることは無かった。


 使用人と同じように、王城の清掃から食事の準備といった雑用をこなす。

 果てには農村に降りて、自身の食料を確保するために農民と一緒に畑仕事をする毎日。


 とても一国の姫だった者に対する所業では無かったが、カレンは気にしていなかった。

 労働者と触れ合い、この国を知る。

 国民を土台から変えていこうと、彼女は方向転換したのである。


 最初は支配階級から落ちてきた屑だと思っていた者たちも、彼女のひたむきさと明るさに次第に癒されていく。

 結果、カレンは運命の相手と出逢うこととなる。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ジェイド(翡翠):パステルなグリーンをした宝石。日本の国石でもある。魔法の石と言われ、支配する力を授けると言われている。

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