第24話

 シルメとユーファの婚約にショックを受けているなかで、ヒューイに仕事の依頼が舞い込んできた。仕事は、罪人を運ぶ馬車の護衛であった。その仕事はヒューイだけではなくて、門下の槍使いの後輩と共に受けた仕事だった。

 

 牢屋となった馬車に入っていたのは、一人の男だ。うつむいているから詳しい歳は推し量れない。ただ老いてはいないようだった。一体どんな罪で投獄されたのか、ヒューイには分からなかった。分からなくてもよい、と思った。


 馬車を護衛して、森に入る。


 二日間護衛しても、何も出なかった。三日目に、盗賊とは思えないほどに訓練された賊に襲われた。その数は二十以上の大群で、ヒューイ以外の仲間は全員がその賊にやられた。


 ヒューイは一人で、大軍の賊と立ち回ることになった。

 

 負けることはなかった。


 だが、乱闘の最中に馬を殺されてしまった。このままでは、もう馬車をひかせることはできない。しかたなく、ヒューイは罪人を歩かせることにした。預かっていた牢のカギを使い、罪人を外に出した。


「襲ってきた仲間はどうした?」


 罪人の言葉に、ヒューイは答える。


「賊ならば、全員を殺しました」


 その言葉に、罪人は眼を伏せた。


 近くで見ると、やはり罪人は若かった。ヒューイよりも少し年上という程度だろうか。


「僕を見逃してはくれないか?」


 罪人は、そう言った。


「あなた、正気ですか。どうして、私が罪人を見逃さなければならないのですか?」


 罪人は、にやりと笑う。


「僕は、罪人じゃない。この国の王子の一人だ。名は、リシャ」


 リシャ、と名乗った罪人。


 ヒューイは、戸惑った。


 リシャは、確かに第一王子の名前だ。だが、その王子が罰せられるようなことをしたという話をヒューイは聞いたことがなかった。


「偽物ですね」


「本物だ。あの父に幽閉されるところだったんだ」


 リシャの話は、信じられないことだった。


「どうして、王が王子を幽閉するんですか?」


 王子と王の関係性は知らない。だが、剣呑な噂も聞いたことがない。


「第二王子に政権を渡すためだ。そのために、第一王子の僕が邪魔になった」


 ヒューイには、政治の難しい話は分からない。


 だが、王子と王が意見をたがえて、対立していることは分かった。


「仲間たちはここで俺を保護して、来るべき日に備えるはずでした」


「来るべき日とは?」


 ヒューイの疑問に、リシャは答える。


「王権簒奪の日だよ」


ヒューイは、言葉を失った。


 それは、あまりにも恐れ多い言葉だった。


「……無理ですよ。王は、師匠たちが守っています。どんなに精鋭を用意したとしても、師匠たちを突破して王を殺すのは無理です」


「君が強力するとしたら?」


 リシャの言葉に、ヒューイは眼を丸くする。


「正気ですか?私に、師匠たちを裏切れと言っているんですか?」


 それは自分の師匠のローウェイだけではなく、シルメやユーファの師も裏切るということであった。いや、それだけではない。シルメやユーファたちも、裏切らなければならないのだ。


「僕が、王になった暁には君が望むものを与えられる。無論、地位も」


 そのとき、ヒューイの脳裏によぎったのはユーファだった。


 すぐに、ヒューイは頭を振る。


 たとえリシャの味方をしたとしても、ユーファは手に入らないだろう。彼女は国有数の魔法使いであり、王の護衛である。王権簒奪を企てるのならば、殺される人物である。


 だが、夢見てしまう。


 ユーファが、自分の手に落ちてくる夢想を。


「一人、絶対に殺さないでほしい人がいます」


 気が付けば、ヒューイはそう言っていた。

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