ロンドンバス

阿紋

お忍び温泉

「いつになったら愛されるの」


ぼくのとなりでミカが言う。


 

結婚してから本当に何もなかった。


ユリコがいればそれで十分だったし、


時間がたつにつれて、


お互いがそれほど相手を必要としていないことが


わかりはじめてからも、それは変わらなかった。


「あたしのどこがよかったの」


「それがさ、よくわからないんだ。気がついたら好きになってた」


「あたしもそんな感じかな。でも、最初に会ったときも何か感じたんだ」


「何かって」


「よくわかんない」ミカがそう言って笑う。


「ねえ、大丈夫だった」


「大丈夫って」


「奥さんにちゃんと話した」


「話したよ」


「何て言ったの」


「出張。たまにあるから」


週末ぼくとミカは温泉に行くことになっている。

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