-再びの土曜日、マコトとタケシの直接対決(2)-

 思った通り、スタートの加速でマコトは一気にタケシに追い抜かれた。

 急いでシフトを4速まで入れるが到底追いつかない、圧倒的マシンパワーの差。だが、


「悪魔の耳は地獄耳、タケシがブレーキを掛けた音まで聞こえる」


 今はメフィストを信じて急ブレーキを踏んだ。

 制動距離を土煙上げながらカブは不快な音を立てて止まった。

 直後、タケシのヤマハFZXが宙を舞い崖下へと滑落かつらくしていく様が霧の合間に見えた。


 タケシが崖から落ちた以上チキンレースはマコトの勝ちだった。


「タケシ! 大丈夫なのか!?」


 だがそれを制したのは鳥の王その人だった。


「敗者にも敗者なりの矜持きょうじがある、安易に彼に近づくのは止めていただこう」


「しかし怪我をしている!」


「それは君の憶測に過ぎない。帰り給え」


 メフィストフェレスはマコトにだけ聞こえるよう囁いた。


「これはどうやら本当に帰った方がよさそうだ、またわたしが帰路を案内しよう」


「わかった鳥の王、後のことは頼む」


 鳥のマスクの中で彼は無言で応えたようだった。



 時計を見るにひるを過ぎていた。

 帰り道殊更マコトは丁寧に運転していた。


「タケシは無事なんだろうか?」


「恐らく擦過傷を二、三負っている程度」


「なんだって!? じゃあ明日学校へ来るのか!」


「まあ鳥の王が言ったように彼にも矜持がある、決闘して負けましただから武井マコトのせいです。とは喧伝けんでんできないんだ」


「男はつまらないプライドの塊だからね」


「そういうことだ。君に敗北したことも口が裂けても言えないだろう」


 自宅に着くとマコトは駐輪場にカブを止めた。

「君の母上も、もう動き出しているよ」


「メフィスト」


 マコトはヘルメットを取りながら言った。


「今日はいろいろとありがとう」


「ん? 何だね、畏まって。でもねいつまでも君と一緒というわけにはいかないんだこの悪魔は、何時か別れなくちゃいけないよ」


「………………」


「近い将来わたしなしで君はやっていかなきゃいけないのだよ」


「それは解ってるけど」


 玄関を入って自室への階段を昇りながら、マコトはこのメフィストのいる生活が当たり前になっていることに甘えを感じてるなとも思っていた。

 部屋に着くとマコトは彼に質問した。


「月曜日、鳥の王は反撃に出てくるかな?」


「必ず」


「頭が痛いな……どうしてここまで鳥の王にぼくは敵視されなくてはならないんだ? 最初はタケシを焚き付けてるだけのはずだったのに」


「ターゲットのすり替わりは良くあることだよ、マコト君。午後は何の約束もないのだろう? 着替えて今日のところはゆっくり休み給え」

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