第5話・あいてむ を つかった!

 とりあえず森を出る。

 方針は決まったけど、何処からどう行けばいいか分からない。

 土田のおっさんは「高い所に行ければいいんだが」と言った。

 何でも娘さんが小さい時に一緒に行ったハイキングで道に迷ってから身につけた知識なんだそう。

 高い所に行けば道が見つかるかもだし、救助隊に見つけてもらえる可能性も格段に上がる。逆に怖いのは川に沿って降りることだという。

「なんで? 森から出られるのは確実だろ」

「沢や谷に落ちたらどうするね」

「ああ。あー」

 その意見は正しかったので、とりあえず高い所を探して……。

 探して……。

 ……。

 木の根で立て込んでいて上がっているのか下がっているのか分からない。

「土田のおっさん、なんか他に手はないか?」

「う~ん、迷ったら分かる道まで戻るのが鉄則なんだが……私ら、どうやってこの森に来たか……」

 そう、おねーちゃんの杖がぴかっと光って気が付いたら森の中だから、分かっている場所まで戻ろうにも来た道がない。

「すまんねえ役立たずで」

「いやいいわ、役立たず度で言えばオレも親が見放す程だから、人のことを言う権利はねーし」

「君は私を助けてくれたじゃないか」

「ぐーぜんぐーぜん。もし土田のおっさんがライター持ってなかったら、見捨てて逃げるつもりだった」

「だが、こうして助けてくれたじゃないかね」

 おっさんは、にこりと笑っていた。若いおねーちゃんじゃなくても、笑顔ってのはいいもんだ。

「この恩を私は一生忘れないよ。残り短いかもしれないが、初対面の人間を助けてくれた君はいい人だ。私が保証する」

 あ。

 初めて、褒められた、気がした。

 何か、くすぐったい。

 これまで、褒められることなんかなかった。

 親から金をもらってゲームに突っ込んで七年。いやゲームにハマってたのは中学時代からだから、十三年ほど、ゲーム以外で人に褒められていなかった。

 何か、嬉しい。

 うん、きれーなおねーちゃんじゃないけど、嬉しいわ。

「木に登れればいいんだが、あいにく私は木登りが下手でねえ」

「オレもゲーム以外で登ったことないわ、そういや」

 ああ、ゲームの世界は恵まれた世界だったんだなあ。

 ダンジョンで迷ってもホームページ検索すれば脱出ルートは載っていた。最強の装備に必要なアイテムだって書かれてた。時間さえかければどんなダンジョンやミッションだってクリアできた。

 ネットが使えれば……。

 ん、ネット?

「そーだった!」

 オレはポケットに突っ込みっぱなしだったスマホを引っ張り出した。

「おっさんはスマホ持ってるか?!」

「そ、そうか、スマホがあるんだった」

 いい歳した大人が二人そろって普段お世話になっているスマホの存在を忘れてたんだから、かなりパニックになっていたと分かる。

 それでも電波が届かないんじゃと不安を抱えながら起動させると、スマホは確かに電波を拾ってた。

「あれ?」

 メールが入ってる。

 かーちゃんか? それとも博?

 どれでもなかった。

 『狭間訓練校入試中の皆様へ』と件名がある。

 震える手でタップする。

『皆様に試験内容をご説明いたします。この森の中央にある校舎まで、三時間以内に辿り着くことが合格条件です。ただし、一人で辿り着いてはいけません。一緒に転移した四人が揃って当校に辿り着かなければ合格とは見なしませんのでご了承ください』

 土田のおっさんも震えながらスマホを見ているんだから、多分同じ文面だろ。

 にしても、なんなんだこの試験。

 イベントクリア条件は学校に辿り着くこと。ミッションは四人揃っていること。

 まんまゲームじゃねーか。

「ん? マップが……」

 土田のおっさんがスマホを恐る恐る弄っていると、ピッと地図が出た。

「地図だ! 神那岐くん、地図があった!」

「え? マジ?!」

 オレも慌ててマップアプリを起動させる。

 そこには、中央に光点二つ。近い場所に一つ。少し離れた場所に、一つ。

「これって、クリア条件の四人の居場所じゃね?」

「それに学校の方向も書かれてる……残り時間は二時間半。よかった、助かるぞ」

「それどころか全員で辿り着けば学校に合格すんだぜ」

 オレとおっさんの顔がにっこりと微笑んだ。

「よかったー! つーか普段お世話になってんのに今まですっかり存在忘れてたスマホ様すいませんでしたー!」

「文明の利器は便利だねえ……スマホを持たないでここに来ていたらどうなっていたか……」

 だからあのおねーさんはスマホを持って行くように言ったのか。

 あの場所についてすぐゴブリンと出会わなきゃスマホの存在を思い出していただろうけど、ゴブリンとの睨み合いと土田のおっさん救出ですっかり忘れてた。

「とにかく、一番近くにいるこの人と合流しよう。人数が多ければモンスターがカンタンに襲ってくることもないだろーし」

「うん、任せる」

 土田のおっさんとオレは、少し北にある光点目指して歩き出した。


「この辺りにいるはずだが……」

 光点が中央に来たのを見て、オレたちはあちこち見回す。

 幸い今のところモンスターは出てこない。でも、だからと言っていない理由にはならない。

「声を出して呼んだ方がいいか?」

「いやあ、モンスター呼んだらまずいだろう。そうでなくても武器がこれな我々じゃ……」

「武器がいるか。それとも仲間か?」

 突然の第三者の声に、オレとおっさんは枝を握りしめて声の方を向く。

 巨木の根元に寄りかかってこっちを見ている、オレより若い青年……下手すりゃ少年がいた。

「あんた、狭間訓練校の受験生か?」

「現世ではそう呼ばれる」

 ウツシヨ?

「僕の名前はながれ那由多なゆた。時の流れは那由多に等しい」

 ……うん、こいつ、あれだわ。

 中二病だわ。しかもこの学校受けたってことは高校卒業年齢ってことで、かなりこじらせてるわ。

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