デマ②
『スカーレット様の妹君』と断言している以上、『実は全く関係の無い人でした』というオチは有り得ない……彼女達は確実に私のことを言っている。
だけど、その話には全く身に覚えがない。大体、何故そんな噂話が流れているのかすら分からない。
だって、私は昨日入学したばかりの新入生よ?生徒会副会長の妹だから、注目が集まるのは分かるけど、昨日の今日でこんな噂が流れるなんて……予想外もいいところだわ!
腹立たしい気持ちを必死に抑えながら、私はチラッと周囲を見回す。
クラスメイトのほとんどがあの噂を知っているのか、皆『あぁ、あの子が……』と納得していた。
噂の広がるスピードがあまりにも早すぎる……昨日は何ともなかったのに一体どうして?
誰かが昨日、私の噂を言いふらした……?いや、それにしたって噂の出回るスピードが早すぎる。
仮にそうだったとしても、それを信じる者はほとんど居ないだろう。
だとすると、考えられる可能性は一つ……上級生の間に例の噂が既に広まっており、上に兄弟のいる一年生から順番に噂が広まっていった。
そう考えれば、噂の出回るスピードにも納得が行くし、ほとんどの者がその噂を信じている状態にだって説明がついた。
でも、一体誰がそんな噂を……?何か意図でもあるのかしら?私を貶めたところで、大してメリットはないと思うけど……。
姉を失脚させたい人達の仕業とか?いや、それはあまりにも非効率的すぎる。その上、やり方が回りくどい。
そんな面倒なことをするくらいなら、姉に直接関わる噂を流すだろう。
じゃあ、一体誰が……?どんな目的でこんな噂を……?
「私を貶めて、得をする人物……」
小さな声でボソッとそう呟いた私は脳裏に思い浮かんだ人物に、眉を顰める。
『そんな筈はない』と思いたいが、噂の内容やメリットを考えると、その人しか考えられなかった。
その人物とは────私の実の姉である、スカーレット・ローザ・メイヤーズだ。
姉はよく私を笑い者にしていたし、私を下に見ることで優越感を感じていた。だから、実家の時と同じように学園で私を罵倒していてもおかしくはない……。
姉は生徒会副会長だし、生徒達はあまり疑うことなくその話を信じただろう。
もし、そうだとすれば、姉を恨まずにはいられない……。だって、彼女は────私の楽しい学園生活をぶち壊したのだから。
出来損ないの子爵令嬢に近づく人なんて、居ないだろう。関わっても何のメリットも無いのだから。人間関係は損得勘定だけで決められるものじゃないが、最初はみんなメリット・デメリットを考えて関わる人間を選ぶ筈……貴族となれば尚更。
別に小説の主人公のようにキラキラとした青春を送りたい訳じゃないが、寂しいボッチライフを送りたい訳でもない。
ただ普通に友達と遊んで、楽しい学園生活を送りたいだけ!たまにお婿さん候補を探しながら……!それ以上のことは何も望まない!
なのに、これは……あまりにも酷すぎる。
姉は軽い気持ちで私のことを話したんだろうが、その影響力は凄まじかった。
ギュッと手を握り締めた私は周囲を見回すが……皆、私と目が合うなりパッと視線を逸らす。
知らんふりを決め込む彼らと仲良くなれるとは、どうしても思えなかった。
この状況で『その噂はデマカセだ』と弁解しても信じてくれないだろう。副会長のスカーレットとただの新入生である私じゃ、発言力も影響力も全然違う……。
誰にも相手にされず終わる未来が安易に想像出来た。
とりあえず、昼休みになったら姉に会いに行こう。それで噂の真相を確かめるのよ。
もし、私の予想通りであれば、姉に『あの噂は嘘だった』と撤回してもらいましょう。
胸の奥に燻る怒りを必死に抑えながら、私はそう結論づけた。
キュッと口元に力を入れ、周囲の視線に耐える。
────早くも私の学園生活の平穏は崩れ去ろうとしていた。
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