隼人のことが好き。(御坂葵Side)


<御坂葵Side>


『急用が入った。今日は一緒に帰れないから、先に帰ってくれ』


 4限目の「基礎教育英語Ⅰ」の講義を終えた私はいつもの待ち合わせ場所に向かう途中、スマホにラインの通知が入っていたのに気づいた。


「急用……? なんかあったのかな……」


 少し心配な気持ちとホッとした気持ちが混ざって思わず私は溜息をついた。


 あまりそうは思いたくはないけど……今は少し、隼人と顔を合わせたくはない。


 というか、顔を合わせずらい―—の方が正確かもしれない。まぁ、それしかないんだけど……。


 理由は単純だ。

 昨日の夜、あんなことを言われたからだ。


 まぁ、なんかこう……誤魔化された気はするけど、それにしても危うく一線を越えてしまうところだった。


 私ももっとこう、冷静にならねば。大学に入学してから昨日に掛けて、私の気持ちは右往左往している。


 好きなのかな~~嫌いなのかな~~。


 なんて、バッカみたい。


 「葵は天然だ」って言われることはあっても、別に鈍感じゃない――――つもりだ。


 つ、つもりよっ。


 つもりで悪かったわね。いいじゃん、私は所詮そんなもんよ。別に可愛くもないし……。


 とまあ、私も私で隼人の勇気に免じて、だ。

 自分の気持ちに素直にならないと。


 この嫉妬も、心配も、焦りも、怒りも——全部ひっくるめて、それらは私が隼人を好きな証拠だ。それなのに、幼稚園から今の今まで、私はその気持ちに目を背けてきたのだ。


 告白もしないで、隼人があのクソ女——じゃなくて、佐藤さんの事を好きになっても邪魔をしないで陰ながら応援することにしたのも、自分の気持ちにかづかないための建前だ。


 本音を言えば、私は隼人と付き合いたい。

 ハグしたいし、もっと抱きしめてぎゅっとしたいし、手も繋ぎたい。


 挙句の果てには―—キスだって…………え……エッチだって……したい。


『葵っ、き、気持ちいよっ——っく、ぁっ……もう、ダメだっ‼』


『ひゃっ……そ、そこをぉ……だ、だめぇっ……んぁ、ぁっ‼‼』


 なんてエッチできたら……って、何考えてるの私‼‼‼‼


 まあでも——た、たたた、確かにしたいけど、その私的にはもっと雰囲気が出来た後、もっと清楚な仲になってからしたい。


 最後は結婚してゴールインまでしたい。


「……あの美少女、めっちゃニヤニヤしてない?」

「なんで他の女の話って、ほんとだねっ。美人さんなのにオタクっぽい……ははっ」

「まぁ、あれもいいけどなぁ……」

「ぶっ飛ばすわよ?」

「はい、すみません、ごめんなさい、家帰ったら足を舐めるので許してください」

「あら、お利巧さんねっ」


 っ。

 変なカップルにネタにされたし……それにしても、さすがに緩み過ぎか。直さないと……。


「うぅ……こ、これで治ったかなぁ…………うへへぇ」


 ってダメだ。

 さっきの想像を思い出しちゃうし。


 隼人にエッチ、だなんて一生言えない……。




「はぁ……私、何考えてるんだろ、もうっ」


 


 二回頬を叩き、たるんだ表情を無理やり直して私は小走りで自宅へ戻った。








『北海道の札幌市ではようやく桜の開花が確認されたようで、二日後のゴールデンウィークの天気が気になるところですねっ!』


 ニュースキャスターが微笑みながらそう言っているのを見て、私は思い出した。


 そう、誤魔化しでも私たちは約束したのだ。ゴールデンウィークは一緒に居る。そして、二人きりでお花見に行く、と。


「ふぅ……二人で、お花見かっ」


 にしてもお花見なんて何年ぶりだろうか。去年は受験期でいけるわけもなく、一昨年、その前も隼人が部活でそれどころじゃなかったから私も行くことはなかった。友達には誘われていたが私は隼人が忙しい時に楽しんだりはしたくはない。もちろん、彼の出ている試合も見に行ったくらいだ。


 だから、最後にお花見なんてことしたのはきっと、中学……いや小学生以来だろう。


 あれから6年。


 ほとんど記憶はない。二人でぐるぐるのソーセージを食べた——ような気がするけど、あんまり覚えていない。


 また二人で食べたい。今度はお腹いっぱい、二人で分け合って……桜を見ながら食べてみたい……なんて、考えてはそんな情景が頭の中で浮かび上がる。


「私……気持ち悪いなぁ……妄想しちゃって」


 自覚してもやめられないよ、隼人のせいで。

 意識しちゃって、止められないし……。


 気持ちがもう、抑えられない。

 溢れてくる。


 カッコよくて、優しくて、強くて、でも守りたいくらいに愛おしくて、たまに弱くなる隼人が。


 あんなにも可愛い隼人が。


 私のたった一人だけの幼馴染の、この世で一番大切な隼人が。


 藤崎隼人っていう名前だけでも分かっちゃうくらいに。


 私は、彼のことが——。


「————あぁ、もうっ‼‼ 好き好き好き好き、大好きぃっ‼‼‼‼」



「っはぁっはぁ……はぁ……ぁ……」


 ボっと音がした。

 叫んだら急に体が熱くなった。


 頬を両手で覆うと火傷しちゃうくらいに熱かった。


「——っ///」


 やっぱり、私。

 隼人のことが大好きだ。




 


 


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