いずれ結婚する幼馴染との同棲生活~~好きだった学年一の美少女にフラれた俺を地獄から救い出してくれたのは昔から一緒の幼馴染だった~~
藍坂イツキ
プロローグ
学年一の美少女にフラれた日
<藤崎隼人side>
あの日の事は、今でも色褪せることなく覚えている。
希望が絶望に変わった瞬間でもあり、俺と葵の二人だけの物語が紡がれた瞬間でもある……あの日のことを今後、一生涯を掛けたとしても頭の中に染み付いて消えない呪いのように忘れることなどない。
そんな物語をどうぞ読んでもらいたい。
高校三年間が終わる、3月15日の卒業式。
「ごめんね、私——他に好きな人がいるんだ」
そっか……そうだったよな。
こんな気持ち、高望みだったよな。
そっかぁ……。
人生で初めての恋だったのに、フラれるなんて情けねぇな俺も。
でも、学年一の美少女に恋をしたんだから――告白できただけマシなのかもしれない。それが普通なのかもしれない。相手は数々の男子を蹴落としてきた高校のお姫様的な存在だ。
そんな彼女を俺みたいな一般庶民が頂けるわけもない。
当たり前だ、至極当然。普通にありふれた日常的な話だろう。
男にしては長い黒髪、そして陰湿な顔。自らの顔を自己採点しても六割もいかない程度だとなんとなく思っている。
ほんと、自分を見誤り過ぎだ。
自分が隣に座れる、居座れるなどと……少しでもスペースがある‼‼ なんて思っていたことが今になっておこがましく感じる。
―—恥ずかしい。ただ、そう思った。
気持ち悪い奴だ。ただ、そう感じた。
自分の事をそうとまで思ってしまった。
――――しかし、それ以上に悔しかった。
そんな思い込みで払拭できるほど俺は単純明快な人間ではなかった。
悔しいがそれが事実だ。
微かに震えていた彼女の肩を見て、さらに虚しくなるのは辛かった。怖いとか、痛いとか、そうじゃなくて。自分が好きな女が自分のせいで震えている。その構図を見ているだけで胸が苦しくなる。
「……ぁ、そ、そ……そう、なんだ……」
「——うんっ」
簡素な返事が耳に入って、刹那に直感した嫌な予感。
まるで、これが最後である——そんな顔をしていた。
「じゃあ、またね……」
そう言い残して、彼女は儚い背中を俺に見せる。
スラリと伸ばした黒髪が
——くそぉ。
―—割り切れるわけ、ないじゃないか。
―—大好きだったんだ、一番好きだったんだぞ。
——そんな簡単に……こうもあっけなく、諦められるわけっ。
何度も、何度も——俺が打ち砕かれそうになった時にいつも君の笑顔に助けられた。
サッカー部のマネージャーも務めていた君は怪我をしたら真っ先に駆けつけてくれて、手当だって、看病だってしてくれた。
色々な思い出が走馬灯のように俺の頭の中を錯綜する。
——なんでだったんだろう。
そう思えば思うほど、考えれば考えるほどに精神はすり減っていく。
崩れゆく膝、近づいてくる地面。
そして、目の前がモザイクの様に見えずらくなった。
ポタリ、ポタリ。
俺は、人生で初めて声をあげて泣いていた。
☆☆
ふらつかせて帰る俺の隣にいてくれたのは人生の半分以上を共にしていた幼馴染、
銀髪ロング、そして碧眼。
そこそこ大きな胸が制服の上からでもよく分かる彼女はもたれかかった俺を優しく受け止めてくれる。
「うおっ……大丈夫?」
恥ずかしい。
心を許しているはずの幼馴染にそんな思いがふと
「……ほらっ、しっかり」
「……あぁ、ありがと」
肩に触れて何も言わない。
本当に葵はいつも優しい。
嫁に欲しいくらいに可愛いし、お世話も出来て、何せ頭もいい。完璧と言っても過言ではない―—少しおっちょこちょいな幼馴染だ。
「っく、悔しいなぁ……」
「……?」
悔しいとは思っている。
しかし、そう言ったのは俺ではなく、隣で儚げに歩く葵だった。立ち止まると、数歩進んで振り返り、夕焼けの蜜柑色の空を見上げて、指を指す。
「見える?」
「……え?」
その指の先を俺もまたなぞったが、そこにあったのは雲一つない空。
何もかもが見えて、何もかもが見えない空がその先に広がっていた。
「あの向こうにある星々が見えるかな?」
質問の意味は分からないが、未だに明るい空に星は一つも見えない。
だから、俺は首を横に振った。
「でしょ?」
「……うん」
それはそうだと思って、今度こそ頷いたが御坂からの返答はない。一秒二秒、そして十秒と時間が進んで、居てもたってもいられなくなった俺は悲しそうに見上げている御坂の瞳を覗く。
「な、なんだよ?」
「——それだけだよ?」
「え?」
「ほんと、それだけ。 単純でしょ?」
「……はぁ」
意味が分からない。
普段から意味の分からない言動はするが、それは天然の類だ。こんなにも無駄で理解不能なことはしない。そう思った俺に、御坂は見透かしたかのように言ってきた。
「世の中ね、単純なんだよ。無駄なことなんてないし、みんな自分の事ばっかり考えてるの。あんなにも眩しく輝く星々たちのことを知らない隼人みたいに、周りの人なんて隼人のことをなんも知らないんだよ。隼人の告白は良かったと思うし……それに、隼人も悔しいじゃん? でも、そんなこと誰も知らない。私以外、誰も。でもね、だからこそ私、隼人の思っている以上に悔しいんだ」
「え」
「隼人は見た目こそ普通かもしれないけど、アレンジしたら化けるし、かわいいところだってたくさんある」
「……ほ、褒めてるのか?」
「っふふ、ほめてない?」
「……これでも心に傷があるんだぞっ」
へへっと苦笑いをして謝る葵。
そんな彼女を見て、真意には気付けていなかったが照り輝く宝石の様な碧眼は少し潤んでいた。
「まあ、本当のところは格好いいし、優しいし、頭もいいし、なにより思いやりがある私の大切な人なの。そんな隼人がさ、フラれるの見ててさ私……っ、く、くや……じ、くてぇ……」
すると、我慢できなかったのか、葵は涙を流していた。
「え、え……えっ」
あまりに急すぎて何もできなかったが、固まった脚をどうにか動かして葵の肩を掴んで抱き寄せる。
「ど、どうして——葵がっ」
「だって‼‼ 隼人、凄くすっごく……良い人なんだよ‼‼ なんで振っちゃうのかなぁ、なんでなのかなぁ‼‼ すっごいやさしくて、こんなに格好いいのにっ——あの人‼‼」
揺れる銀髪に、瞳から飛び出た大粒の涙。
美しい葵の
「…………っく、悔しいんだよ私‼‼ こんな隼人を悲しませるなんて‼‼ 許せないよっ——‼‼」
「ま、待てって……」
「——待たないよ‼‼ 私、絶対……隼人がっ」
「お、おれが?」
「っ⁉ あ、あぁそ、そのっ……なんでもない……ですっ……」
「なんで敬語?」
「と、とにかく……今のは何でもないっ‼‼ あれだよ、あの女だよ‼‼ 私、気に食わないんだよ‼‼」
「どうしてそこまで……言われてるのは俺なのに」
「私、隼人の幼馴染だしっ。隼人の味方だもんっ!」
「え、え——」
「と、とにかく、そういうこと‼‼ もう、いいから帰るよ‼‼」
「は……ちょっ、ま!」
俺の手を強引に掴むと、葵はその小さな身体を大きく反転させて俺を引っ張っていく。
今にも潰れてしまいそうな小さく細い手が妙に心地よかったのは傷心に浸っている今だからなのかはよく分からない。
ただ、彼女が……俺の幼馴染である彼女が慰めようとしてくれるのはよく分かる。
大切なものはすぐそこにある。そんなことを思い出させてくれた瞬間だった。
そんな俺思いな幼馴染が最近、チューしてよって言うようになったのは……またあとのお話。
<あとがき>
こっそりカクヨムコンに向けてリメイクでもあるこの作品を投下しておきます。
再び僕に力を。
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