第177話 規模が全然違うだろう
「ふはははははっ! もはや勝ったも同然だっ! 待っているがよいぞ、愚王ルードリッヒよ! やはり我こそが王に相応しい!」
そう高らかに哄笑を響かせるのは、絢爛豪華な鎧に身を包む中年男だった。
彼の名はマクロミル。公爵位を持つこの国有数の貴族だ。
王家に連なる血筋で、かつては王位継承権を持っていたものの、現国王が王位に就任した時点でそれは消滅。
しかしそれでも王位を諦めきれず、ついには隣国と結託して武力によって政権を奪わんという暴挙に出たのである。
「マクロミル卿。いかがですかな、我が国の地竜は?」
と、マクロミル公爵に訊ねたのは、隣国ベルマーラのバミン将軍だ。
今回、公爵軍と共闘するベルマーラ軍の最高責任者でもある。
「うむ! 素晴らしい兵器だ! こうも容易く都市を落とすことができるとは驚いたぞ!」
「この戦いが終わった暁には、ぜひこの地竜たちをお譲りいたしましょう」
「期待しておるぞ! 無論、そなたの要望通り、王国南西部のタミア地方をくれてやろう!」
王国の領地であるタミア地方は、ただ広いだけで、大した価値もない一帯だ。
それを隣国に譲り渡すことが共闘の条件だったのだが、そんなものと引き換えならば安いものだと、マクロミルはほくそ笑む。
一方で、バミン将軍もまた心の中で嗤っていた。
「(愚かな男だ。戦略上、あの一帯は非常に重要な意味を持つ。そこへ我が国の軍事拠点を築き上げさえすれば、もはや王国を落とすことなど容易い。それと比べれば地竜など安いものよ。何より地竜の操縦は簡単なことではない。我が国が長年をかけて築き上げた操縦法があってこそ、こうして兵器として扱えるのだからな)」
と、そのときである。
それまで硬い土に覆われていたはずの彼らの足元が、突如として柔らかい地面へと変貌を遂げてしまったのだ。
何の前触れもなく起こった変化に馬も驚き、騎兵たちが危うく落馬しそうになってしまう。
「な、何だ、これは……?」
「まるで畑のような……」
異変はそれだけではなかった。
ズズズズズズ……。
「っ!? ご、ゴーレムだと!?」
「こっちもだ!?」
いきなりその地面から次々と土の人形が姿を現したのである。
隊列のど真ん中に出現したこともあって、兵士たちは戸惑いを隠せない。
あちこちで乱戦状態となった。
「なんて数だ!? しかも倒しても倒してもまた出てきやがる!」
「これじゃキリがねぇぞ!」
「狼狽えるな! 近くに土魔法使いがいるはずだ! 探せ! それにいずれ魔力の限界が来る!」
だが魔法兵たちが魔力を探知しても、一向にそんな反応は見つからなかった。
しかもこれだけの数を操作し続ければ、並の魔法使いならあっという間に魔力が枯渇するはずだというのに、いつまで経ってもそんな気配がない。
動揺する兵士たち。
しかし真の異常事態はここからだった。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
「な、なぁ、ちょっと待て……地面が……浮き上がってないか……?」
「は? おいおい、こんなときに何を言ってんだ? って、本当だっ!?」
信じがたいことに、彼らが乗る地面が空へと浮上し始めたのである。
ゴーレムの襲撃に意識が向いていたため、すぐには気づかなかった。
お陰で気づいたときには、すでに地上から十メートル以上も離れてしまっている。
「一体何が起こっているんだよ!?」
◇ ◇ ◇
「い、一体、何が起こっているのでしょうカ……?」
敵軍が地面ごと空へと浮かび上がった光景に、ララさんが呆然としている。
もちろんそれは彼女だけではなく、
「俺は夢でも見てんのか……」
「う、浮いてるよっ!?」
「まさか、ジオ、これも君の仕業なのかい……?」
リヨンたちが揃って声を震わせていた。
思っていた以上の驚きように、僕は恐る恐る問う。
「ええと……菜園が空を飛ぶのはすでに見せてたよね?」
「「「規模が全然違うだろう!?」」」
全員から一斉に突っ込まれた。
「あれはもはやちょっとした都市並みの大きさだ! あれがすべて家庭菜園だって!?」
「あ、うん。さっき新しく作ったんだ」
「新しく作った……」
「それに先ほどのゴーレムは何ですカ!? あれもジオ氏がやったものですよネ!?」
「は、はい。菜園の土を使って、ゴーレムを作れるんです。あくまで菜園の中だけしか動けないんですが、それ以外には基本的に制限はなくて、幾らでも作れます」
「幾らでも……」
そんなやり取りをしている内に、巨大家庭菜園は僕たちが乗る菜園を超えて、地上からおよそ百メートルもの高さへと到達していた。
「こんなところでいいかな? じゃあ、これからあれを落とすね」
「「「え?」」」
何のことだという顔をするリヨンたちを後目に、僕は巨大家庭菜園を地上目がけて自由落下させた。
「「「うああああああああああああああああああっ!?」」」
兵士たちから凄まじい悲鳴が聞こえてくる。
「ジオ!? 一体、何をっ……」
「まさか、あのまま丸ごと全滅させる気ですカ!?」
「マジかよ!? 幾らなんでもそれはっ……い、いや、だがこれで王都は護られる……」
「あ、もちろんこのまま地面に叩きつけるわけじゃないよ?」
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