第150話 畑が動いた

 サイクロプスの拳が結界に弾かれる。


「ウガ?」

「ほいっと」


 驚くサイクロプスの腕に飛び乗ったのはセナだ。

 そのまま腕の上を駆け上がって、サイクロプスの一つ目に思い切り剣を突き刺す。


「えいや」

「ガアアアアアアアアッ!?」


 セナの可愛らしい掛け声とは裏腹に、眼球が破裂する一撃に、悲鳴を上げてのた打ち回るサイクロプス。

 セナは宙を舞い、家庭菜園へと綺麗に着地した。


「な……なんて身軽さですカ!?」


 目を見開いて驚愕しているのは兎耳の少女だ。

 二本の剣を腰に差していて、彼女も剣士なのかもしれない。


「ウオオオオオオッ!!」


 サラッサさんの雷撃を浴びて麻痺状態にあったアトラスが、他の巨人たちを連れて一斉に襲い掛かってきた。


「ひとまず逃げよう」


 僕は家庭菜園を走らせる。


「「「畑が動いた!?」」」


 追ってくる巨人たちから適度な距離を保ちつつ、僕は言う。


「そんなことより、すぐにその人を治療しないと」

「それが、ポーションが切れてしまっているんだ……!」


 金髪少年が悔しそうに教えてくれる。


「それならこれを使ってください」

「っ! いいのかい? ありがとう!」


 持っていたマーリンさん印のポーションを渡す。

 それを兎耳少女が騎士風の少年に飲ませた。


「サイクロプスの蹴りをまともに喰らってしまったのでス。下手したら全身が複雑骨折してるかもしれませン。ポーションだけでは治らない可能性も……」


 兎耳少女の危惧を余所に、騎士風少年が「うう……」と呻きながら目を覚ました。


「あれ……? おれは一体……」

「「「ロイン!?」」」


 どうやらロインというらしい。

 ポーションが効いたらしく、すぐに身体を起こした。


「か、身体は大丈夫なのか?」

「え? あ、ああ、何とも……」

「すごくよく効くポーションですネ!」


 マーリンさん印だからね。

 それから彼らは簡単に自己紹介してくれた。


「ララと言いまス。見ての通り剣士でス」


 兎耳少女は語尾のイントネーションが独特で、その兎の耳の他にも、真っ白い髪と赤い目が特徴的だ。

 たぶん獣人なのだろう。


「おれはロイン。助けてくれてありがとな。って、槍がねぇ!?」


 彼は槍使いらしかった。

 ただサイクロプスの一撃を喰らった際に、愛用の槍がどこかに飛んでいってしまったようだ。


「おいらはボボ! シーフだよ!」


 テンション高く名乗ったのは小柄な少年。

 頭にバンダナを巻いていて、くりくりとした円らな目をしている。


「ぼくはリヨン。魔法使いだ。一応、このパーティのリーダーをしている」


 金髪少年は、サラッサさんと同じく魔法使いだという。


 でもサラッサさんの地味なやつと違って、すごく洒落たローブを着ているせいか、あまり魔法使いには見えない。

 端正な顔も相まって、どこかの貴族の子息だと言われても納得してしまう。


「私はシーファ。パーティのリーダーで、槍使い」

「あたしセナ! 仕方なく剣士やってるよー」

「わたしはアニィよ。斥候件弓士ってとこね」

「……サラッサと言います。魔法使いです」

「僕はジオです。ええっと、リヨンさんたちは……」

「ぼくのことはリヨンでいいよ」


 リヨンは十六歳で、ララさんとボボさんは十七歳、ロインさんは十九歳らしかった。


 そして彼らは全員がAランクの冒険者だという。

 この年齢ですでにAランクだなんて……。


「いや、君たちだってこの階層まで降りてきているだろう?」

「でもBランクとCランクだけ」

「シーファさん、僕はまだEランクです……」

「「「……え? Eランク……?」」」


 唖然とされてしまった。


「それは本当かい?」

「う、うん。まぁ、僕はつい数日前に冒険者になったばかりなので……」

「それでいきなりこの第九階層に!?」

「てか、そもそもどうやって数日でここまで降りてくるんだ!?」

「むしろそっちの方が凄いってば!」


 めちゃくちゃ驚かれてしまう。


「その辺りのことも気になりますが、まだ巨人たちが追いかけてきてますヨ。先にあちらを対処した方がよいのでハ?」

「た、確かにそうだね。魔物に追われながらのんびり会話するなんて、さすがに初めての経験だよ……」


 兎耳少女ララさんの指摘で、僕たちはひとまず巨人の群れをどうにかすることにした。

 そのうち諦めるかと思っていたのに、ずっとこっちを追いかけ続けていたのだ。

 どうやら僕たちを逃がす気はないらしい。


「あのアトラスが恐らくこの階層のボスだと思う。特定の場所に留まらず、常に階層内を徘徊しているんだけれど、それに運悪く遭遇してしまったんだ」

「アトラス一体だけならまだしも、巨人の配下を引き連れているから厄介なのでス」


 サラッサさんの雷撃を浴びたアトラスもピンピンした様子で走っているし、配下のサイクロプスは全部で六体もいる。

 これまでの階層のボスと比較しても、かなりの難敵だ。


「でも、この畑? のお陰で、しっかりと魔法を練ることができそうだ」

「それでは、まず二人でサイクロプスたちを一掃しますか?」

「うん、そうしよう」


 金髪少年とサラッサさんが揃って詠唱を始める。

 するとビリビリと空気が震え出した。


「凄まじい魔力……さすがAランク冒険者ね」

「いえ、そちらの青い髪の方だって、かなりの使い手でス」


 やがて二人の長い詠唱が完了する。


「敵を討ち滅ぼせ」


 そこへすかさず、シーファさんが【女帝の威光】を発動。

 それに後押しされて、魔法使い二人が渾身の一撃を放った。


「ライトニング!」

「エクスプロージョン!」


 雷の嵐と爆撃が同時に巻き起こる。

 強烈な閃光と爆音がようやく収まったとき、そこには大きく抉られた地面と、死屍累々と転がっている巨人たちがいた。


 さすがAランク冒険者、サラッサさんの雷撃に勝るとも劣らない威力だ。


「……え?」


 本人はなぜか目を丸くしてるけど。

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