第115話 また獣人が来た
「あいつら、次こそは絶対ぎゃふんと言わせてやるわっ!」
先ほど受けた屈辱に、怒り心頭といった様子で叫ぶルア。
「あることないこと悪い噂を徹底的に撒き散らして……いえ、いっそ夜中にギルドに忍び込んで中を荒らしまくって、あいつらの仕業に……」
ぶつぶつと不穏なことを呟き始めたリーダーに、メンバーたちもさすがに暴走を止めなければと思ったようで、
「ね、ねぇ、やめた方がいいって」
「そんなことしても、私たちには何の得にもならないし……」
「わ、私もそう思います」
「何よっ? あんたたち、あいつらの肩を持つって言うの!?」
「そ、そういうんじゃなくて……」
「ほら、思い出してよ! 冒険者を始めた頃のことを! 女ばかりだからって舐められて、だから見返してやろうってみんなで誓い合ったじゃない!」
「そうよ! 当時のあたしたちが今のあたしたちを見たら、どう思うか考えてみてよ!」
「っ……」
仲間たちの訴えに、ルアはハッとしたような顔になる。
冒険者を始めた頃、彼女たちは高い志を持っていた。
だが現実は甘くなく、段々と自分たちの実力を理解するにつれ、いつしか周囲の男性冒険者たちからチヤホヤされているだけで満足するようになっていた。
いつの間にか当時の想いを忘れてしまっていたのである。
「そう……だったわね……」
当時のことを思い出して、ルアは弱々しく頷く。
メンバーたちはさらに力強く訴えた。
「周りを蹴落とそうとするんじゃなくて、あたしたちがもっとやれるようにならなくちゃ!」
「そうです! そして見返してやりましょう!」
「あんたたち……わ、分かったわ! 冒険者として、真っ向からあいつらに勝ってみせるわ!」
「その意気よ!」
「そうとなったら、早速、依頼を探すわ!」
そうして決意を新たにした彼女たちは、依頼が張り出されている掲示板のところへ。
「何かいい依頼は……っ! これよ!」
見つけたのは、ある特殊な依頼だった。
「街で頻発している失踪事件? そう言えば、そんな噂を聞いた気がするわ」
「でも、こういうのは領主の仕事じゃないですか? 何でギルドに依頼してるんです?」
「いや、どうやら領主も頑張って調査を進めているみたいだけど、一向に尻尾を掴めていないようね」
最近この街で多発しているという原因不明の失踪事件。
何者かに誘拐、もしくは拉致されている可能性があり、その原因を突き止める、あるいは解決できれば、領主から多額の報酬を得ることができるようだった。
「さすがにこれは厳しいような……」
依頼を受けられる人数は決まっておらず、報酬は成果に応じる。
この手の依頼は、懸賞依頼と呼ばれており、もし達成できれば大きな実績になるものの、早い者勝ちであるため難易度が高い。
すでに他の実力ある冒険者パーティが挑んでいるかもしれなかった。
「ふっふっふ、これをよく見なさい。書いてあるでしょ? 失踪しているのは、若い女性ばかりだって」
不敵に笑うルアに、メンバーたちはハッとしたような顔になる。
「つまり、誰かが囮になって犯人を誘き寄せるのよ!」
◇ ◇ ◇
アーセルに戻ってきた僕は、また様子を確認するため第二家庭菜園へと飛んだ。
「そうだ。そろそろ魔物も増えてきた頃じゃないかな」
自動菜園レベルアップ法をやり過ぎたせいか、魔物寄せのお香を使ってもなかなか魔物が来ないようになっていた。
なので一時的にストップさせていたんだけれど、しばらく経ったので再開してもいいかもしれない。
というわけで、例のごとく結界の一部を開け、魔物が入ってこられるようにしておく。
すると、すぐに魔境から複数の影が近づいてきた。
「よし、来たぞ。後は頼んだ」
「――」
いつものように戦闘をゴーレムに任せようとしたとき、僕は気づく。
「……あれ? 魔物じゃない?」
よく見るとその影の正体は、獣人たちだったのだ。
十代ぐらいの若い獣人から、四十代ぐらいまで、全部で十人ほど。
魔境を抜けてきたのか、例外なく見た目がボロボロだ。
怪我もしている様子。
「ひ、人がいるぞ……」
「こんなところに……?」
向こうもこっちを驚きと警戒の混じった顔で見ている。
「ええっと……初めまして」
とりあえず挨拶してみる。
すると彼らは戸惑いつつも、こっちに近づいてきた。
そして菜園の中に足を踏み入れ、そこに広がっていた光景に目を丸くする。
結界の内側に入ると隠蔽の効果がなくなり、菜園を見ることができるようになるからだ。
「な、何だここはっ?」
「魔境の傍にこんな場所があるのか……っ?」
こうなった以上、仕方ないので、僕は簡単に説明した。
「ここは僕の家庭菜園です。訳あって、こんな場所でやらせてもらってるんです」
「家庭菜園……?」
「むしろ農場と呼ぶべきでは……」
そんなふうに困惑していた彼らのうちの一人が、突然、何かに気づいたように叫んだ。
「この匂い……っ!」
それを皮切りに、他の獣人たちも声を上げ始める。
「え? っ……これは!」
「ま、間違いない!」
「イオ様の匂いだっ!」
イオ様?
「もしかして、イオさんのこと、ご存じなんですか?」
「やはり! ここにイオ様がいらっしゃるのか!?」
どうやらイオさんの知り合いのようだ。
同じ獣人だから知っていてもおかしくはないけれど、匂いで分かっちゃうって、さすが獣人だよね。
「えっと……案内しましょうか?」
感激したように首を大きく縦に振る彼らを、僕はイオさんのところへと連れていったのだった。
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