第108話 アイドル冒険者?
「ふふふ、どうやらヒドラ討伐から帰ってきたみたいね」
冒険者ギルドに戻ってきた一行を発見し、ルアはニヤニヤと笑った。
彼女の予想では、あのパーティはレイドの足を引っ張り、大きく評判を落としたはずだった。
彼らが集まって話をしているところへ、盗み聞きしようと近づいていく。
しかし聞こえてきたのは、彼女の期待とは大きく異なる内容だった。
「特に大活躍だったシーファさんのパーティには色を付けてくれるようにと、私の方からギルドにお願いしてみます」
(大活躍? 一体どういうことよ!?)
レイドリーダーを務めたロインの言葉に、ルアは耳を疑った。
そんなはずはないと思いながら、ルアはさらに耳を澄ませる。
「いや、マジであんたたちのお陰で命拾いしたぜ」
「ほんとほんと。君らが参加することになってなかったら、俺たち全員どうなってたことか」
「ロインの判断は正しかったな。パーティを代えてよかったぜ」
すると他の冒険者たちまでもが感謝や賞賛を口にしていく。
(ななな、何でよっ!?)
(ちょっ、ルア、それ以上近づいたらバレるからっ)
今にも突っ込んでいきそうだったルアを、パーティメンバーたちが慌てて引っ張った。
そのまま彼らから離れると、ルアは大声で喚き出す。
「どういうことなのっ!? 絶対上手くいくと思ったのに!」
「その自信はどこから来るの……?」
メンバーたちから見ても、正直穴だらけの作戦である。
「見た感じ、身体の調子も良さそうだったけど……」
「おかしいわよ! あんな宿に泊まって、元気でいられるはずないじゃない! あたしなんて――じゃない、あたしの知り合いなんて、三日間、全身が痒くて痒くて、もはや冒険どころじゃなかったらしいのに!」
恐らく彼女自身が実際に泊って酷い目に遭ったのだな……と、メンバーたちは思った。
「そもそも泊ってないんじゃ……?」
「まさか……っ! あいつら、せっかくあたしがおススメしてあげたってのに、無視したっていうの!? 何て性格の悪い奴らなのよ!」
それをお前が言うのか……と、メンバーたちは思った。
「こうなったら、とっておきをお見舞いしてあげるわっ」
「も、もうやめときなって、ルア」
「なに言ってんのよ! このまま引き下がったら、アイドル冒険者の座をあいつらに奪われちゃうわよ!」
「……ていうか今更だけど、いつからあたしたち、アイドル冒険者になったの……?」
そんなやり取りをしていると、話が終わったようで解散していく。
そして何を思ったか、ルアが件の女パーティの後を追いかけ始めた。
「ど、どうするつもり?」
「しばらくあいつらを尾行するわ」
「尾行?」
「そう。彼を知り己を知れば百戦危うからずよ」
ドヤ顔で有名なことわざを口にするルア。
メンバーたちは溜息を吐きつつ、暴走するリーダーについていく。
「冒険が終わって、恐らくこれから宿に向かうかもしれないわね」
「結局どこの宿に泊まったのかしら? 高級なとこだったりして」
「……あり得る。儲けてるのかも」
「きぃぃぃっ、あたしらより若いくせに良い宿泊ってたりなんかしたら、絶対に許さないわ!」
「許すも何もないと思うけど……」
そんなやり取りをしながら尾行を続けていると、どういうわけか、シーファ一行は街の外へと出ていってしまった。
「ちょっと、あいつらどこに行く気よ……? もうそのうち日が暮れるわよ?」
「まさか、まだ冒険を続けるつもり?」
「夜にしか出ない魔物を狩るのかしら?」
「めちゃくちゃ働き者……」
「今日は朝から街を出てヒドラ討伐隊に参加したわけでしょっ? そろそろ休みなさいよっ!」
もちろん健康状態を心配しているわけではなく、ライバルが自分たちよりも頑張ってしまうことへの恐れからの発言である。
と、そのときだった。
シーファ一行がちょっとした茂みの中へと入っていってしまう。
「っ……いない……?」
少し遅れてその場所に辿り着いたルアたちだったが、茂みの中を探してみても連中の姿が見当たらない。
それどころか、周囲を見渡してみても見つからなかった。
もしこちらの尾行がバレていて、全力で走って逃げたのだとしても、さすがにこの短期間で見えなくなるということはないはずだ。
「き、消えた……?」
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドを後にした僕たちは、アーセルに帰ることにした。
家庭菜園は街の外に置いてあるため、いったん街を出る必要がある。
「……誰か付けてきてるわね」
その場所に向かっていると、アニィが声を潜めて告げた。
「ええっ?」
「何者かまでは分からないけど、あまり友好的ではなさそうよ。こっちが冒険者だと知らずに、馬鹿な連中ね。ただの女子供のグループだと思ったのかしら」
けれど相手が動く前に、家庭菜園のところまで辿り着いてしまった。
菜園隠蔽は使っているけど、念のため茂みの中に隠してある。
「どうする?」
「相手にする必要はない」
「じゃ、放っておきましょ」
そうして僕たちは家庭菜園に入って、アーセルにある僕の自宅へと戻った。
「にゃあにゃあ!」
「ぴぃぴぃ!」
「ん? どうしたんだ?」
いつも嬉しそうに出迎えてくれるミルクとピッピだけど、なぜか少し様子がおかしい。
「誰か来てるのか?」
「にゃ!」
「ぴぃ!」
二匹に連れられ、菜園の奥へ。
するといつもはのんびりと土の中に身体を埋めているララとナナの双子ドリアードが、菜園の隅っこで肩を寄せ合って震えていた。
「ぬしさまーっ!」
「しんにゅーしゃなのーっ!」
二人が指さす方向を見ると、菜園の角に蹲る謎の人影。
「だ、誰……? って、マーリンさん?」
そこにいたのは薬師のマーリンさんだった。
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