第22話 ネームドボス
「いらっしゃいませー。あら、シーファちゃん。こんにちは」
冒険者ギルドの受付嬢であるカナリアは、まだ若い女性冒険者ににっこりと微笑みかけた。
シーファは若干十八歳ながら、すでにBランクに到達した天才で、ギルドでも期待の存在だった。
彼女のパーティメンバーであるアニィとセナも一緒だ。
セナはつい先日冒険者になったばかりの少女で、恐らく今は冒険者としてのイロハを叩き込まれている頃だろう。
「まだ彼女は戻ってきていないの?」
カナリアが問うと、シーファはこくりと頷いた。
「そう。せっかく新しい子が入ってきたんだし、早く帰ってきてくれたら嬉しいわね。前衛ばかりであまりバランスがよくないし」
シーファたちのパーティにはもう一人、魔法使いのメンバーがいた。
だが事情で今はこの街にいないらしい。
実力のある魔法使いの不在はパーティにとって痛手だろうと、カナリアは推測する。
その穴を埋めるのに、新人ではさすがに荷が重いだろう。
(あんまり強そうな子じゃないし……)
ちらりと見ると、「今日のご飯は何かなー」と呟きながら涎を垂らしていた。
カナリアはますます心配になってしまう。
「それで、今日は何の用?」
「討伐を報告しに来た」
「討伐報告? 何か依頼を受けていたかしら?」
「そうじゃない。……これ」
シーファが取り出したのは、直径二十センチはあるだろう大きな鱗だった。
「何これ……? もしかしてドラゴンの鱗……?」
「ドラゴンじゃない。ボルケーノの鱗」
「え?」
一瞬カナリアは何を言われたのか分からなかった。
「火山エリアのネームドボスを倒した」
「ええええええっ!?」
突然の大声に、ギルド中の視線が集まってくる。
カナリアは慌てて声を潜めると、半信半疑で聞き直した。
「か、火山エリアのネームドボスを倒した? それは本当なの?」
「本当。この鱗がその証拠」
「た、確かにこれはレッドリザードマンの鱗……だけど通常種ではあり得ない大きさ……」
カナリアは信じられないという目で三人の少女たちをまじまじと見る。
とてもこの三人でネームドボスを討伐したようには見えなかった。
そこでピンときて、カナリアは手を打った。
「なるほど、他のパーティと協力したわけね」
「していない。私たちだけで討伐に成功した」
「えええ……」
当惑するカナリアを余所に、シーファが話を進めた。
「ボスの死体は置いたままになっている。回収の協力をお願いしたい」
「じゃ、じゃあ専門の回収チームを派遣するわ。……派遣、できるかしら?」
ネームドボスはたいてい巨体だ。
そのため素材を持ち帰るだけでも一苦労である。
しかも火山エリアという、探索するだけでも辛い環境となればなおさらだった。
なので多くの冒険者は、討伐後、いったん地上に戻ってから冒険者ギルドに助っ人を頼み、改めて回収することが多い。
だが火山エリアとなると、それも容易なことではなかった。
「その辺りの心配ない。協力のときにはこれを使ってもらう」
「それは……?」
「氷冷ポーション。これがあれば、火山エリアでも涼しく探索ができる」
「そんなものが……っ?」
カナリアも聞いたことのないポーションだった。
こんな若い女の子ばかりのパーティが、ネームドボス、それもボルケーノを倒したことに加え、謎のポーションまで見せられたことで、さすがに頭が混乱してきた。
「え、ええと……ちょ、ちょっと待ってて!」
ようやくこれが自分だけで対処できる案件ではないと悟ったカナリアは、慌ててギルドの奥へと走っていった。
(こんなのどう考えてもギルド長案件だわ!)
その後、回収チームとともに、シーファたちは再び火山エリアを訪れた。
回収チームはギルドが依頼した冒険者たちで、日頃からよくこの手の依頼をこなしている熟練者たちだ。
解体の技術にも長け、大抵は現場で解体してから運搬する。
だがそんな彼らでも、火山エリアでの仕事は滅多にない。
「三十分もいたら脱水症状で死にかける場所だからな……」
「本当にここのネームドボスを討伐したのか……?」
不安と懐疑にとらわれる彼らへ、シーファが氷冷ポーションを配っていった。
「おい嬢ちゃん、こいつは一体何だ?」
「氷冷ポーション。飲めば身体が冷えて、火山エリアの熱さが気にならなくなる」
「まさか、そんなもんがあるわけ――」
疑いながらもポーションを飲み干した彼らは、すぐにその効果を知ることとなった。
「へっくしょん!」
「さ、寒いぃっ!」
「マジで身体が冷えまくってきやがった!」
さっきまで入るのを躊躇していたはずの火山エリアへ、慌てて突入していく。
「本当だ! 熱くねぇ!」
「涼しい!」
「確かにこれなら全然いけるぜ!」
そうして彼らはシーファたちの案内で、ネームドボスを討伐した場所へと向かう。
途中で何度か魔物を蹴散らしつつ、やがて目的地へと辿り着いた。
「これ」
「っ……ま、マジだったのか……」
そこにあったのは、確かに通常の数倍はあろうかというレッドリザードマンの死体だ。
だが彼らが驚いたのはそれだけではなかった。
「何でこんなに綺麗なんだよ……?」
通常こうした硬い鱗の魔物は、討伐しても素材がボロボロになることが多い。
だが目の前にある死体は、あまりにも綺麗だったのだ。
この状態であれば、査定の際にかなり値段が上乗せされるだろう。
さらに彼らは信じられないものを目の当たりにする。
「お、おい……この傷、誰が付けたんだ……?」
「なっ……ボルケーノの鱗をこんなに奇麗に斬り裂いてやがるだと……?」
「ん? あ、それ、あたしーっ!」
「「「っ!?」」」
手を上げたのは、まだあどけなさが残る十代半ばほどの少女で。
今までで一番の衝撃を受ける彼らだった。
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