第46話 願いを叶える俺

リュックのポケットからプラスチックのマルチケースを取り出した。


あの日拾った青い羽根は、変わりなくココにある。


叶えたいコトを決められないまま今日まで


いや


『いつか叶えたいコトが決まったら使おう』


って、


思ってはいたんだ。


でも


『いつか』なんて日は永遠に来やしない。


『いつか』なんて言っているうちは叶える気なんてない。


ひょっとしたら、そんな呑気のんきなコト言っているうちに


チャンスと一緒で、きっと消えてなくなってしまうんだ。


待っているだけじゃあ何も動かない。


小さな願いなんかじゃ勿体ない?


じゃあ大きな願いって何なんだ?


ちっぽけな願いなんかじゃ叶える価値もないのか?


叶える価値って何だよ。


誰が決めるんだよ。


俺だよ。


俺の自由だろ。


願いの大小とか、損得とか、価値の尊さとか


誰に誇るんだよ。


俺は


・・・


俺は


に精一杯向き合いたい。


に正直でありたい。


俺自身が納得すればそれでいい。


俺自身が満足すればそれでいい。


もし後悔することになったら


・・・


それならカッコ悪くっていい。


思いっきり悔めばいい。


みっともなく泣いてしまえばいい。


俺が今、本当に必要だと思う


今、本当に叶えたいと思う


そのキモチを


俺自身を


信じればいい。


もしかしたら


最後になるかもしれない


もう二度と会えないかもしれない



『とびっきりのありえない時間を過ごしたい』


そう思った。


(俺にしてはホント、ぶっ飛んだ思いつきだな)


ちょっとぶるっと震えたけれど


言いようのないワクワク感で、もうどうにかなりそうだった。


ケースから取り出した青い羽根は


今日はいつになく明るい月の光に照らされて


本当にキレイな濃い青い色を放っていた。


「よし。」


俺は迷わずその手を高く上げて


「俺は・・・、”そらり”と一緒に空を飛びたい!」


・・・


・・・


・・・?


「・・・何も起こらない・・・?」


もしかして願いが叶う時は、青い羽根が光ってとか想像していたけれど


そんなコトも何もなく


しん、と静まりかえっていた。


「どういうコトなんだよ・・・」


高く上げた手を下ろして、握った青い羽根の表裏をまじまじと見ていたら


「さぁ、いこう!」


は青い羽根を持っていた俺の手をとってそう言うと


大きな青い翼を広げて上空に羽ばたいた。


「ちょ、ちょっと!落としそうなんじゃないの!?え!?」


手を無理やり引っ張り上げられたら痛い!


・・・


って、


思っていたのに


何の抵抗もなく、優しく俺の手をとって舞い上がったと一緒に


俺は


!!


俺は


「と、飛んでる!!」


さっきまでいた屋上のはるか上まであっという間にきていた。


「うわっ!やば!!こ、これって手を離したら、お、落ちちゃうぅ!?」


ちょっとパニくっての腕にしがみついてしまった。


は笑いながら


「よくみて。うしろ。せなか。」


え?


「うわっ!!」


全然違和感もなくて気が付かなかったけれど


俺の背中には見たこともない大きな青い翼が生えていた。


「これって、っすっげぇ・・・はは・・・、と、飛んでる。飛んでるよ、俺」


なんだろう。


驚き?


感動??


・・・


わからない。


信じられない。


ありえない。


ありえないんだ。


処理しきれない感情がたくさん溢れてきて


どうしようもなく


もうぐしょぐしょに泣いていた。


「はは・・・、情けないよな。こんな時ですら俺、カッコ悪いよ。」


は、キョトンとするワケでもなく


泣いている俺を、優しい笑顔で見守ってくれていた。


鼻水をすすって、上着の袖で涙を拭って


はぁ、っと、空に向かって大きく一息ついた。


「よぉし。行くか!」


俺は握っていた青い羽根をポケットに入れて


と手をつないで


西の空に向かって飛んで行った。

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