第38話 今を大切にしたい俺
俺の好きな「スプーンが立つくらい固めのプリン」
あの子は不思議そうに見つめていて
初めてなんだろうな。
あまり表情がないのが気になっていたけれど
食べた時に一瞬、目を見開いた後で
ふんわり
ほどけるような表情になったのがとても愛らしくて
俺は嬉しくなってしまった。
明らかに人間ではないから
きっと普通の食事なんてしないんだろうな。
今にして思えば
「よくプリンを食べさせてみたよな、俺」
しかも
「・・・うまいよな」
って、
なんだそれ。
もう、おかしくてしょうがなかった。
「はぁ・・・笑ったわぁ・・・」
もくもくとプリンを食べては『ふんわり顔』をしているあの子を見て
俺はどうするべきかを考えていた。
「あの子の正体とか、目的とか、そんなに大事か・・・?」
確かに知りたいけれど
・・・
知ってどうするんだ?
あぁ、そうなんだ、とか
えーーー!そ、そんなコトがあってこうなってるワケ!?、とか
「今の俺にとって、それは本当に必要で、大切なコト、なのか?」
あの子のこの姿を知って
あの子がもうすぐ消えて、忘れて
なくなってしまうかもしれないコトを知って
「それでも、理由とか目的とか正体とかを知らないといけないって
・・・なんだよ、それ」
今
こうしてありえない体験をしているコト
一生関わるコトもなかった世界がココにあるコト
何より
あの子と一緒にいられる時間が
もうなくなってしまうかもしれないコト
・・・
「・・・だったら」
少しでも一緒にいられる時間を大切にしたい
そう思った。
「あんなにイヤがっていたのに、もう俺自身のコトもわからん・・・」
こうもありえないコトが起きすぎていると
どこかが壊れるよりも、好奇心?っていうか
「とことんハマってやろうじゃないの!って、ヘンな覚悟だな」
うっすら笑った。
あの子はプリンを食べ終えて、スプーンをくわえたまま
名残惜しそうにカップの中身を見つめていた。
俺はくわえたスプーンと空のカップを取って
「また買ってきてやるからさ、まだ消えないでくれよ、な!」
思わず言った言葉に、俺自身がせつなくなってしまった。
あの子は俺をじっと見て、よくわからない顔をしていたけれど
「・・・うまいよな・・・?」
上目づかいで、おねだりかよ。
「そう、・・・じゃなくて、プ・リ・ン。プリン!また食べられるぞ」
って言って思わずにかっと笑顔を見せたら
ぱぁぁぁぁっと、あの子の顔がみるみるほころんできて
見たことのない笑顔になった。
でも不思議だ。
笑っているあの子は、笑っているはずなのに笑い声が聞こえない。
とっても眩しい笑顔なのに、世界から音が消えたかのように静かだ。
喜んでいるのかな。
音のない世界で、あの子は笑いながらはしゃいで走りまわっている。
その大きな青い翼を羽ばたかせながら、ぴょんぴょん飛び回っている。
俺は夢を見ているのかな。
とても静かな世界で、見たこともないようなモノが楽しそうにはしゃいでいる。
それはキレイで、愛らしくて、眩しくて
なにより、楽しそうで
見ている俺は、すごくシアワセなキモチになる。
胸の奥の深いトコロが、ぎゅっとなって
ドキドキして
ワクワクして
嬉しくて
楽しくて
いま目の前に起きているコト全てが愛おしくてたまらない。
なんだろう
今まで味わったコトのない感情に
つい、答えを求めてしまいそうになるけれど
そんなコトはどうでもよくて
ただただ
今、こうして感じているコトが大事なんだ。
今、こうしてあの子と一緒にいられるコトを
こんなにも大切にしていたいんだ、俺は。
そんな気がする。
だから、さ
「たのむ。まだ・・・まだ消えないでいてくれよ、な。」
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