第34話 あの子を待つ俺

ピピピピピ・・・♪



スマホのアラームの音で目が覚めた。



「・・・朝・・・?」



いつの間にかベッドで眠っていた。



いつ戻ったんだろう。



昨夜ゆうべは屋上でを見つけて・・・)



はっ!



バタバタと慌ててサンダルを履いて、部屋を飛び出した。



はぁ、はぁ、はぁ・・・!!



起き抜けに屋上までダッシュなんて、体力が持つはずもなく


着くころには案の定、ヘロヘロになっていた。



「・・・た、たしかに、ゆうべ・・・こ、こ、ココ・・・


 きた・・・き、来たよ、な・・・」



ゼイゼイ言いながら屋上へと続くドアに目をやった。



開けっ放しになっているドアの向こうには


明るい屋上の景色がひらけていた。



昨夜ゆうべとは全然違う。



明るい太陽に照らされて、


ひび割れて年期の入ったコンクリートの床や壁があらわになって


より現実味リアルを増していた。



(昨日のコトは、夢・・・だったのか・・・?)



誰もいない屋上をトボトボと歩いていき


ちょうど真ん中辺りで立ち止まった。



ぐるりと、そんなに広くない屋上を見回してみたけれど



は、いない。



「どこに行っちゃったんだよ・・・」



夢だなんて


もう今さら、信じるコトなんてできない。



「絶対に、夢なんかじゃ・・・ない・・・!」



        ☆


あれこれと、思い悩むヒマもないくらい


今日はバタバタと仕事と移動を繰り返していた。



ゆうべのコトを思い出すと、ずっと考え込んでしまいそうで


仕事を終えるまでは、意識を向けないように頑張っていた。



「・・・終わったーー・・・」



思いっきり伸びをした後、脱力したら


どっと疲れを感じた。



アタマもカラダもクタクタだったけれど


明日はオフだし、ゆっくりじっくり考えたかったし


歩いて帰るコトにした。



「さて、と・・・」



スイッチが入ったかのように


ゆうべのコトが、目まぐるしくアタマの中を回り始めた。



「そっか・・・聞いてもわかんないコトだらけでアタマも疲れて


 眠いし、明日仕事があるからって帰ったんだっけ・・・」



ホント、情けないヤツだな、俺って。


もしこのままに会えなくなってしまったらどうすんだよ。


なんでチャンスをみすみす逃すかな、まったく・・・



・・・



「・・・今さら怒ってもしょうがない、か・・・」



両頬ほほをバシバシ!叩いて、気合を入れた。



そういえば、に会ったのはいつも夜だった。



もしかしたら、会えるかもしれない。


また、屋上に戻っているかもしれない。



自分のしでかしたコトはさておき


そんな根拠のない期待が、自然といつもよりも足早に


家へと向かわせていった。



「・・・あの青い翼・・・」



上空へ舞い上がっていたから


目の前から消えてしまったと思っていたんだ。


まさか空を飛んでいるなんて夢にも思わない。



「そりゃあ、目の前しか見ていなかったら


 消えてしまったと思うよなー」



ふと、あいつの顔が浮かんだ。



「あいつもきっと、あたふたして探してたんだろうな」



想像したら、ちょっとおかしくなった。



のコトを考えれば考えるほど


不思議なコトが多すぎて、思考が固まってしまう。



あの子の正体ってなに?


俺のトコロにきてどうしたいの?


青い羽根って結局、なに?



・・・



はてなばかりで、全然先にすすまない。



「ハナシを聞いても、全然意味がわからないんだよな・・・」



そういう意味では



またに会えるかな


と、考えてみると



楽しみなような


怖いような



・・・



「・・・えぇい!もう逃げないって決めただろ・・・!?」



よくある、弱気でポンコツなキャラクターっぽいセリフだ。



(まぁ、紛れもない、俺自身・・・なんだよな・・・)



はぁ・・・



更に情けなくなって、ため息をついた。



        ☆


家には入らず屋上に向かうと、まだドアは開けっ放しのままだった。


「誰も来ないんだな。こうしてみると・・・」


屋上に入ると、念のためドアを閉めた。


ゆうべ座っていた辺りに腰を下ろして、コンビニで買ったモノを広げた。


お茶とおにぎり、なんとなくスイーツも買ってみた。


「そういえば、ご飯食べなくて大丈夫なのかな・・・」


見た目はフツーの女の子なんだけど


きっと人間じゃない・・・


黄色いジャケットを着ているとちゃんと羽根が収まっているのが不思議だよな。


あれこれと羽根の収まり具合を想像してみたら、おかしくなってきた。



「都合のいい時に自由に出し入れ出来るなんて、いいよなー。


 そういう『特別』なモノやチカラ、俺も欲しいよ・・・」



ん?



だったら、なんで青い羽根にお願いしなかったんだろう。



「あの時は・・・その・・・思い浮かばなかったし・・・」



・・・



自分にすら言い訳しているのな、俺は。



「はぁー・・・ほんと、冴えないヤツだな、俺は・・・」



八つ当たりのように、ガツガツとおにぎりを食べていた。



「・・・xxり」



「え?・・・え!?・・・」



辺りをキョロキョロしたけれど姿は見えず


おにぎりを頬張ったまま、ゆっくりと真上を見上げてみた。



大きな翼を羽ばたかせているのに、何故かバッサバッサっていう音もなく


ゆっくり、すうっと


が下りてきた。



音がしない。


まるで現実感のない世界。



息を止めて見ていたら、突然苦しくなって


おにぎりを頬張ったまま、めちゃめちゃむせて咳き込んだ。



音が戻って現実の世界に引き戻された。



「・・・おかえり」



何事もなかったかのように、あの子は俺の前に現れた。

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