第32話 つながった先と俺
もしかしたら
あの子は、俺なんかよりも
ずっとずっと強い覚悟で
こうやって包み隠さず、見せてくれているのかな。
俺を困らせたり、驚かせてしまわないように
俺に見つからないように
あれからずっと、ココに隠れていたのかな。
ドアを開けてくれた時から、覚悟を決めていたのかな。
俺なら見せても、知られてもいいって
思ってくれていたのかな。
どうして
俺、だったのかな・・・
「ど、どうして、ココに・・・俺に会いに?・・・来たの・・・?」
あの子は、目を閉じて
胸の上をぎゅっっと、握るような動作をした。
「・・・すきっていうきもちの
・・・つながっているそのさきを
・・・みつけた
・・・ここがぎゅっとなった
・・・あたたかいな
・・・うれしいな
・・・しあわせだな
・・・ずっとこのまま
・・・こうしていたいな」
あの子は静かに目を開けた。
「・・・うまれたときは
・・・いつもきらきらしたきもち
・・・たのしいとしあわせでいっぱいだった」
俺は、黙ってあの子のハナシを聞いていた。
「・・・とつぜんまっくらになった
・・・くろいどろどろしたぐるぐるがいっぱい
・・・きらきらもたのしいもしあわせも
・・・ちゃんとまだここにあるのに
・・・みつけてもらえなくなった」
(見つけてもらえなくなった・・・誰に?)
「・・・みつけてもらえなくなって
・・・くるしくなった
・・・ちゃんとまだここにあるのに
・・・まっくらのなかにある
・・・まっくろなハコのなかに
・・・とじこめられた」
(誰かが何かを閉じ込めてしまった・・・?)
「・・・なまえをなんどもなんどもよんだ
・・・なんどもなんどもよんでいたら
・・・まっくらのなかにある
・・・まっくろなハコのふたがあいた
・・・よんでるなまえといっしょに
・・・すいこまれていく
・・・まっくらのそのさきに
・・・みつけた」
(今度は見つけた・・・?何を・・・?)
「・・・そらへのおてがみ」
「空への・・・お手紙・・・?」
あの子は空を見上げて両手をいっぱいに広げて
何かをゆっくりと読み上げているようだった。
『じゆうにひろいそらにとびだしていったら
このせかいはどんなふうにうつるんだろう
わたしはいったい
なにをするんだろう
どこへいくんだろう
なにをさがしてなにをみつけるんだろう
だからわたしに
つばさをください』
空を見上げたまま、ゆっくりと両手をおろした。
(空へのお手紙・・・って、
『誰かの願い』だったってコトなのか・・・?)
「キミは、誰かの・・・その、空へのお手紙の
願いを叶えるために現れた、ってコト・・・?」
あの子はまた、少し首を
よくわからない感じでいた。
「・・・そらからのおへんじ」
あの子は、その青い翼を大きく広げた。
「うわぁっ!!」
ちょっとビビった・・・
「・・・このあおいつばさでじゆうにとんでいける」
(青い翼で自由に飛んでいける・・・)
「それは・・・願いが叶ってその翼をもらった、ってコトなのかな。
・・・いや、違うな。願いの主がどこかにいるんだよね?
なんでキミが・・・その・・・翼をもらっているの?」
あの子はまた、少し首を
よくわからない感じで
「・・・そらからのおへんじ」
と、言うだけだった。
・・・なんだか
(なんとなくだけれど)
あの時よりも受け答えが
あいつが名前を聞いた時、『
もし、あの子自身が『空からのお返事』だったとしたら
願いを叶えたカタチとしてこの姿で生まれたのか?
でも、それでどこかにいる誰かの願いを叶えたコトになるのか?
だって、翼が欲しかったのはそのどこかにいる誰かで
あの子じゃない。
それともどこかにいる誰かの願いを叶えるために
じゃあ、なんで俺のトコロに来ているんだ?
まずは願った本人のトコロに行かないとダメだろ・・・
(・・・って、思うんだけれど・・・)
あの子はまた、ゆっくりとハナシを続けた。
「・・・だから
・・・とびたしてみた
・・・じぶんのおもうままに
・・・いきたいところにいってみよう
・・・さがしたいものをさがしてみよう
・・・みつけよう
・・・このおおきなつばさがあるから」
(飛び出してみた・・・どこから?)
「・・・あの時は確か」
(西の、ずっとその先の街から来た?って言っていたかな・・・)
「うーーーーーーーーーーーーーん・・・」
俺は、両腕を組んで、ぶつぶつと独り言を言いながら考え込んでいた。
「やっぱり、キミはその誰かの願いを叶えるために
西の、ずっとその先の街?・・・の、どこからか飛び出して、
ココに飛んできたんじゃないのかな・・・」
(・・・どうしてココになのかは、よくわからないけれど・・・)
「それとも、何かの事情で叶えられなかった願いを、その誰かの代わりに
キミが自由に飛べるようになったコトで、叶えてあげているのかな?
それなら、キミはその誰かの思いから生まれた子、なのかな・・・?」
あの子はまた、少し首を
よくわからない感じだったけれど
胸の上をぎゅっっと、握るような動作をして
「・・・すきっていうきもちの
・・・つながっているそのさきを
・・・みつけた」
と言って、
優しく穏やかな顔で、俺をじっと見つめた。
「・・・そ、それって、その誰かが
俺のコトを・・・好き、でいてくれたから
ココに来た、ってコト・・・?」
(その誰かの好きっていう思いが、俺につながっていた・・・
ってコトなの・・・?)
あの子はまた、少し首を
よくわからない感じでいたけれど
また空を見上げて
優しく微笑んでいるように見えた。
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