第30話 言葉が出ない俺

「・・・・・・」



絶句・・・しているの、か・・・?



クチは何か言いたげにパクパクしているけれど



・・・



言葉が・・・



出ない・・・



出てこない・・・



え?



・・・ちょっと待って。



人間って・・・浮くんだっけ・・・?



(・・・なんで浮くんだっけ・・・)



特殊能力・・・?



アニメみたいな・・・?



・・・



いやいや



フツー空中に浮いたりとか出来ないし・・・



フツーのヒトだったら・・・



ヒト・・・だったら・・・



(・・・じゃないの、か・・・?)



じゃあ、なに・・・?



やっぱり、幽霊・・・!?



え?



だって足あるし・・・



近くでもハッキリ見えていたし・・・



ハナシしたし・・・



(・・・あれで、したって言えるのか・・・?)



いくらありえない光景を目の当たりにしたからって


こうもアタマの中が、どうしようもない押し問答になるなんて



(・・・俺の冷静は、いったいどこで迷子になっているんだ・・・)



どうやら



どうしようもないマヌケ面で見上げていたのだろう。


クチがポッカリ開いていたのに気づいて


慌てて両手で塞いだ。



一瞬、音が消えたような感覚になった。



が、ゆっくりと降りてきた。



俺はクチを塞いだ状態で


に目が釘付けのまま


降りてくる速度に合わせて


ゆっくりと視線をおろしていった。



「・・・青い・・・翼・・・?」



黄色いパーカーを脱いだの背中には


いわゆる『天使のような大きな翼』が生えていた。



乏しい外灯がいとう灯りあかりのせいで


本当の色がよくわからないけれど


見たこともない、濃い青色の大きな翼だった。



「・・・おどろかせてしまうから


 ・・・みつからないようにしてた」



幽霊・・・なんかじゃない。



ヒト・・・でもない。



よく・・・わからないけれど・・・



『青い翼を持った』だってコトは


ハッキリとわかった。



        ☆


「・・・・・・」



言葉が・・・



出ない・・・



出てこない・・・



「・・・おどろかせてしまうから


 ・・・みつからないようにしてた」



その場に呆然ぼうぜんと立ち尽くしている俺を見て


は、ただ同じ言葉を繰り返していた。



そのうち、



段々と悲しそうになっている気がして


ハッ!と、我に返った。



「ご、ごめん!だ、大丈夫・・・大丈夫だから!


 ・・・ちょっとビックリしたけど、大丈夫だから!」



慌ててに弁解していた。



両頬ほほを両手でバチバチと叩いて


気合を入れ直した。



しっかりしろよ!


覚悟を決めてきたハズだろ?


もう、なんて


きっとないだろ?



(と、とにかく、お、落ち着け!・・・ハナシはそれからだ)



「と、とりあえず、す、座って・・・話そう、よ・・・」



やっと言葉を絞り出したら、急に足のフラつきが戻ってきて


その場にペタンと座り込んでしまった。



、黙ったまま


ちょうどフードがアゴの下にくるよう前後逆さまで


黄色いパーカーの前面から両腕に袖を通していた。


だから、青い翼は露わあらわになったままだった。



(す、すごい・・・)



まるで現実感がないけれど



(夢・・・じゃないんだ・・・)

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