第28話 あの子の姿と俺

「こんな風に、ゆっくりと空を見上げるコトなんて


 なかったかもなー・・・」



いつもの空の下ではあるけれど


初めて上がった屋上から見上げる夜空は


いつもより少しだけ、空に近くて


いつもより少しだけ、広く見えた。



気のせいかもしれないけれど


空を見上げている


とても穏やかで


優しい笑みを浮かべている


そんな風に見えた。



「・・・そらはこんなにひろいけれど」



「え?」



「・・・このせかいはそんなにひろくない」



そう言っては、


空を見上げたまま


ぽつりぽつり、話し始めた。


        ☆


(空はこんなに広いけれど、この世界はそんなに広くない、か・・・)



「・・・ただただ


 ・・・すきっていうおもいの


 ・・・そのつながったさきをさがして


 ・・・それをみつけた」



(え・・・っと、・・・何を言ってるんだろう・・・)



「え・・・っとぉ、その、好きっていう思い?っていうのは・・・


 君?が、その、つまり・・・お、俺のコトがす、好き?・・・


 じゃなくて・・・ファン?、っていうキモチで・・・


 俺のコトを調べて突き止め・・・じゃなくて・・・


 みつけた?ってコト・・・なのか、なー・・・?」



(・・・い、いろいろ、苦しい・・・)



「・・・とびたしてみた


 ・・・じぶんのおもうままに


 ・・・いきたいところにいってみよう


 ・・・さがしたいものをさがしてみよう


 ・・・みつけよう」



(・・・いったい、何のコトを言っているんだ・・・??)



「え・・・っとぉ、つまり、キモチのまま、思い立ったまま・・・


 東京まで飛び出してきて?・・・お、俺を探して?たら見つかって?・・・


 そ、それから付きまと・・・じゃない、待ち伏せ・・・じゃなくて


 ・・・


 ・・・


 あ゛ーーーー!もぉーーー!めんどくせぇーーーー!」



なんだか


いちいち気を遣ってみたり


なんとか理解しようとして


この場を乗り切ろうとするのも、苦しくなってきた。



(結局こうやって回りくどくするからになるんだよ・・・)



こういう自分の不器用さが、本当に情けなくて


ほとほとイヤになる。



(・・・ヘコんでる場合かよ・・・!)



「ふぅーーー・・・」



もう一度


深く深く


深呼吸してみた。



(お、俺がまず、一番知りたいコトを・・・ちゃんと聞くんだ・・・!)



「・・・あ、あの時、突然いなくなっちゃっ消えたのは、どうして?


 い、いったい、何が起き・・・たの・・・?」



ーーー キラキラ光になってそのまま消える・・・みたいな ーーー


ーーー キラキラーって、シューって、消えちゃったんだって ーーー



あいつの言葉と、を見たっていうヒトの言葉を思い出す。



「・・・このまちには


 ・・・たくさんたかいたてものもあるし


 ・・・そこにいけばみつからない」



「え?」



「・・・みつからないところにいないと


 ・・・おどろかせてしまうから」



(し、心臓が・・・)



「・・・驚かせて、しまう・・・って・・・?」



(し、心臓が・・・)



「・・・このすがたをみておどろくみたいだから」



(し、心臓が・・・・・・)



「・・・こ、この、すがた・・・って・・・?」



(し、心臓が・・・・・・・・・)



少しのがあった。



自分の破裂しそうな心臓の音だけしか聞こえない


・・・そんな感覚になっていた。



は、ゆっくりと立ち上がって


黄色いパーカーのジッパーを下ろし、脱いだかと思うと



(し、・・・心・・・臓・・・が・・・・・・・)



ぶわっ!



と、



急に、巻き上げるようなかぜが吹いて


思わず、腕で顔をガードして目を閉じてしまった。



ハッ!として、


慌ててを見た。



「・・・え?・・・ちょっ!?・・・」



目を向けると、


そこには、いなくて・・・



「え?え?ええ!?・・・ちょっ!え!?」



焦って、何度も何度も


前も、後ろも、横も


ぐるっと回って360°360ど見て


その場から動けなくなってしまっていた。



けれども



なんでだろう



・・・



なんとなく



なんとなくだけれど



・・・



ゆっくりと



(恐る恐る)



空を見上げてみた。



「・・・う、そ・・・だ・・・ろ・・・!?」



大きな翼の生えた



空に



・・・



空に



・・・



空に



・・・



「・・・浮・・・いて・・・る・・・」

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