第26話 もう逃げない俺
「ホントに・・・いた・・・」
あの時と同じ
黄色いパーカーのあの子が
少し離れたトコロで
じっと俺を見ている。
(やっぱり、ハッキリ見えてるよ。幽霊、なんかじゃない!)
「・・・どうしたの」
屋上出入口の壁の後ろ側から、少しだけ顔をのぞかせて
聞こえるかどうかのギリギリの音量で
あの子が俺に話しかけていた。
・・・
言葉が
出てこない。
なんでこんなトコロにいるの?
とか、
どうやってココに入ったの?
とか、
いったい誰なの?
とか・・・
聞きたいコトが山ほどあり過ぎて
どれをチョイスしたらいいのか
脳内が(きっと)バグってしまって
まったく
言葉が出てこない。
「・・・xxxしまうから」
「え・・?」
「・・・こまらせてしまうから」
(困らせる・・・俺を?)
「・・・にげられてしまうから」
(逃げる・・・俺が・・・)
「・・・みつからないようにしてた」
ああ
(俺が追い払ったから・・・嫌がっていたから、か)
階段を駆け上ったダメージで、まだ
なんとか踏ん張って、立ち上がった。
俺はやっと
あの子に
ちゃんと向き合った。
☆
「・・・ふぅーーーー・・・」
深く深く
大きく、ゆっくり深呼吸した。
「は、ハナシ・・・しても・・・いい、かな・・・?」
不思議と、この前みたいな無理ゲー感はないけれど
(・・・めちゃめちゃキンチョーする・・・)
意を決して好きなあの子に告白する、的な
シチュエーション・・・?
・・・
いや、ちがう。
この感じは
そう、
オーディションだ!
俺が(俺自身に)試されている。
想像して、キモチを作って
短いコトバの中に、ありったけの思いを込めろ。
(・・・場面は・・・)
そうだ!
強い覚悟を決めて、彼女に語りかける。
(・・・
「・・・きみはいったい、誰なの・・・?
どうして、俺のトコロに来たの・・・?」
不思議と、
「・・・」
(伝わ・・・ったかな・・・)
沈黙が・・・また緊張を呼び覚ました。
「・・・xxxらない」
「えっ・・・?」
「・・・よくわからない」
少し首を
本当にわかっていない様子に思えた。
(・・・記憶喪失、とか?)
「あ、でも名前は言ってたよね?
たしか・・・そら、そらりって・・・」
あの子は、くいっとアゴを突き上げて、空を見上げた。
「・・・そらからのおへんじ」
「えっ?空・・・?」
思わず、俺まで空を見上げた。
「・・・そ、ら、ああるいい、そらからのおへんじ」
あの子は、空を見上げたまま、
ゆっくりとそう言った。
「そ、ら、あーるいー・・・空からの・・へんじ
へんじ・・・アール、イー・・・
(・・・え・・・!?)
「もしかして、そらり、って、そら、
俺はあたふたしながら、指で何度も何度も
あの子は、ゆっくりと
目線を、
「・・・よくわからない」
少し首を
本当にわかっていない様子に思えた。
「・・・え、っとぉ・・・」
俺は目を細めてあの子に目線を合わせたまま、
置き所のない指を遊ばせながら、
ゆっくりと首を傾げた。
(困った・・・ますますわからなくなってきた・・・)
とも思えるけれど、
(ええぃ!そもそもワケのわからないコトだらけなんだし、
今さらなんだよ!
こうなったら、とことん付き合ってやるよ!!)
「はは・・・あはは・・・」
苦し紛れに出た笑顔は、
めちゃめちゃ複雑にゆがんでいた(と思う)
「はぁ・・・もう降参!!」
両手を上げてから、その場に座り込んだ。
なんだか、すっと、チカラが抜けた。
「俺さぁ、体力ないクセに、ココまで全力疾走してきて・・・
もうヘロヘロなの・・・」
(もう、逃げないから、さ)
「・・・よかったら、一緒にココ、座って話さない・・・?」
トントンと、コンクリートの地面に手で
俺の少し隣を示した。
あの子は、
少し戸惑っていたけれど、
ゆっくりと近づいてきて
それでも遠慮がちに、
はす向かいに座ってくれた。
(さて、・・・どうしたらいいのか、な・・・)
出たとこ勝負になってしまったけれど
コレはコレで
なんとなく
(ちょっとだけ、楽しくなってきたかもしれない)
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