第16話 『特別』なあいつと俺

「・・・マジ、か・・・」


現場に行く前、立ち寄った事務所で聞いたニュースに


俺のキモチは、いい意味でも悪い意味でも


穏やかじゃなかった。


(どんだけ、俺を突き放していくんだよ)



週刊少年雑誌で、大人気連載中のマンガのアニメ化が決定した。


つい先日行われたオーディションで、あいつは見事に


そのを射止めた。


1stファーストシーズンから、すでに2クール分の放映と


それに続く劇場版アニメも、ほぼ決まっていた。


もちろん、2ndセカンドシーズン、その先も更に続いていけば


(いくに違いないけど)


何年も先の活躍まで、約束されるだろう。


最近の人気作の流れからいって


数多くのイベントや配信番組だけでなく


民放テレビ番組への出演など、いろんなオファーも多くなってくるので


声だけでなく(役とセットで)その顔も、多くのヒトに知られるコトになる。


まさに、『国民的人気声優』となる道を、歩いていく。


(と、俺は思っている)



でも、わかっている。



これは、タイミング的なコトとか、ただのラッキーだけじゃない。



(あいつは本当に、才能のある『特別』で『選ばれた』ヤツなんだ)



「・・・」



       ☆


「よぉー。久しぶりー!」


(それでも、相変わらずなんだな、おまえは)


「おぅ。やったな!おめでとう!!」


「ふふーん。ハグしていい?」


「いいや、ソーシャルディスタンスなんで」


「冷たいなぁ、わが友よー。ははは。」


(ホント、まったく憎めないヤツだよ、おまえは)


「忙しくなってきてるんじゃないの?」


「いやいや、全然。公式発表もまだまだ先だしねー。当分は今までと変わらずかなー。


 いま出来る仕事コトを、全力でやっていくだけだぜーー!」


(でた!シャキーンのガッツポーズ・・・)



「・・・やっぱ、すげぇよ、おまえは・・・」



「え?なになに?」


「い、いや、なんでもない。えーと、あれだ。ちゃんとお守りの効き目があったってことか?」


「そう!それそれ!実は結果を聞くまで、こうやって握ってお願いしてたんだけど・・・」


「・・・けど、なんだよ・・・また、ヘンな話になるのかよ・・・」


(だから、そういうをとるの、やめてくれよ)


「結果を聞いて、思わず、やったーーーー!って両手でガッツポーズしたんだよ。


 すっげぇ興奮してたんだけど、ふと、手を開いてみたら・・・」


(・・・みたら・・・?)


「・・・消えてなくなってた・・・」


「・・・マジ・・・?」


「マジ!『本気と書いて読み方はマジ!』」


(うざっ・・・)


「そりゃ、興奮しすぎて暴れてるうちに、どっかに飛んでっちゃったんじゃないの?」


「いや!断言す・・・、うーん・・・」


「おいおい、いつものドヤ顔の自信はどうしたんだよ」


「なんとなくなんだけど・・・、こう、すうっっと、消えてなくなる感じがしたんだよ」


(なんだよ、それ)


「でも、見たワケじゃないんだろ?」


「そうなんだけどさ、アニメでよくあるじゃん。キラキラ光になってそのまま消える・・・


 みたいな。実際、見てないし、上手く言えないけど、そんな感じがしたんだよねー」

 

(・・・なんだよ、それ)


「やっぱ、だったんだよ!幸運の!青い羽根!!


 あーー!もう一度会って、お礼が言いたいー!」


(幸運の青い羽根、かぁ・・・)


「俺、あれからも、そらちゃんがどっかにいないか、色々探してみたりしてるんだけどさー


 まったく見つからなくって。だから、もし見つかったら、連絡してくれよ!


 いや、捕まえといてくれ!たのむ!」


(捕まえるって、あのな)


「い、いやいや!幽霊だったら、もう一度とか(それに捕まえるとか)無理でしょ、フツーに」


(しかも、俺は追い払った方だし)


「もともとは、おまえにつきまとってたんだしさ。また現れるんじゃね?」


(ぐ・・・、推し変って、デリカシーないな、おまえ)


「わ、わかったよ。でも、あまり期待するなよな・・・」


(推し変って言われて、意地になってんなよー、俺ー!)


「うしゃー!じゃぁ、たのむな!またな!」


        ☆


・・・とは言ったものの


まったくアテが、ない。



よく見かけていた場所にもいないし


もう待ち伏せされてるコトもない。


(ファンのキモチは、移ろいやすいよな)



「・・・幽霊だけど、ファンだった、ってコトでいいのか・・・?」



(・・・まぁ、いい、とするか)



手紙をよくくれていた


黄色いパーカーの


あくまでも


大多数の声優の中での


ほんの


ほんの一時いっとき、好きになってくれていた(んだよな?)


だけだったのかもしれない。


(そんなの、よくあるコトじゃないか)



声優も、キャラクターも


世の中には、こんなにもたくさん、あふれているし


ナンバーワンも、オンリーワンも


目まぐるしく変わっていったって


おかしくはない。


責められもしない。



好きっていうキモチは


一途であっても、たくさんであっても


長くても、短くても


浅くても、深くても


(自由なんだ、きっと)



寂しくない、って言ったらウソになる。



けど



(しょうがないよ、な)


        ☆


気が付いたら、いつもの駅を越えて


随分、歩いていたみたいだ。


「ついでに、歩いて帰るか」


明日は遅めの出発だし


なんとなく、ゆっくり過ごしたい。



(・・・ひょっとして、俺、落ち込んでる・・・?)




「・・・え・・・?」




ウチまでもうすぐ


っていうその先に



黄色いパーカーのがいた。



(うそ、だろ・・・)



見つけた奇跡ミラクルに、一瞬、喜んでしまったけれど



けっして、ストーカーではなくて


むしろ、幽霊であってくれ・・・



とも、


祈っていた。











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