第2話 そこそこの俺

「お疲れさま-」


今日も1日が無事終了・・・っと。


ここんとこ目まぐるしく忙しくなってきてるし


スケジュールもパツパツ・・・


(あ--、休みてぇ--!!)


ココロの中で叫びつつも、嬉しい悲鳴でしかない。


(まだまだ、もっともっとだ)


苦労してやっとの思いでレギュラ-を掴んでも


人気がでなけりゃ即、打ち切りでハイさようなら。


求められるモノもあっという間に変わっていくし


今は俺で良くても、次は俺以外の誰かが良しとされる。


(俺の代わりなんて、いくらでもいる)


なかなか仕事にもありつけなくて、何度も辞めようかと思った。


それでも、今の俺にはから


しがみついていくしかなかった。


ビッグコンテンツの一員になれてからは、認知度もあがってきた。


仕事も増えてきて、人気も出てきた。


人気もっていうのは、SNSでのフォロワーやコメント、


いいね!が、ここ2年の間でずいぶん増えてきたからそう思っているだけ。


(コンテンツのハコ推しが、ついでにいいね!してくれてるのもあるだろうけど)


ファンレターやプレゼントも随分増えた。


好きなキャラクターのグッズは、もうあふれんばかりに届いてしまって


こちらからお断りのコメントを出したくらいだ。


はじめは嬉しくて「事務所で受け取りました」とSNSでアップすると


それを見て喜んでくれるファンのコメントを読むのが楽しみだった。


人気が出てくる一方で、時間やココロにもなんだか余裕がなくなってきた。


仕事と、自分のコト以外には、もうあまり時間をかけたくなかった。


(いっぱいいっぱいなんだ)


そんなこんなで


(いちいち読むのも、めんどくせぇ)


に変わってきている。


(最低だわ)


ざっとしか見ないファンレターは、1箱の中。


プレゼントのほとんどは実家へと旅立つ。


(ありがとうと、ごめんなさいだ)


SNSには、当たり障りのないつぶやきに自撮り写真


仕事の合間でのオフショットで活動(活躍)報告。


(喜んでもらえれば幸いです的な)


以前の俺に比べたら、今の俺は


知られてるの人気者。


この仕事一本で、ちょっといい飯も食えるようになったし


(ようやくだな)


「あ?なぁにニヤニヤしてんすか-?なんかお楽しみなんっすか?」


「はぁ!?わりぃ、お先でーす」


       ☆


今日は現場終わりが近くて助かった。


あ-・・・遅くなったし、コンビニ飯にしとくか。


(今日のつぶやきつぶやき)


『こんな時間ですが、やっと今から晩ごはん(涙)

   頑張ったごほうび♪プリン買うーー!w』


(って、なめらかプリンしかないし)


ぽちっ、と。


→『もちろん!なめらかプリンですよね!癒される-♪』

→『今日もお疲れ様です♪なめらかプリン!美味しそうです♪』

→『おつかれさま♪とろ~りプリンに癒されてくださいね-♪』

→『めちゃめちゃ食べたい!こんな時間に罪です~ww』

→『ごほうびプリン♪相変わらずカワイイがすぎる-♪♪♪』


・・・


(はぁ)


俺が好きなのは、刺したスプーン立つくらいの固いプリン。


なめらかプリンが好きなのは、俺がってるキャラであって


俺自身じゃない。


ま、キャラあっての中身なんで。


(しかたないよな)



与えられればお望み通りに演じる。


求められれば期待以上に応える。


運良く「好き」や「憧れ」が生業なりわいにもなって


ほんの一握りのヒトしか掴めないとも言われているこの世界で


今のところ、生き残っていけてる。


(今のところは、ね)


もちろん


たくさんの理想は、何度も何度も粉々に打ち砕かれてきた。


たくさんの現実に、これでもかと打ちのめされてもきた。


強く、ただまっすぐだったはずの思いを見失って


表舞台から遠ざかっていたこともあった。


それでも


今の俺は


なんとかこうして


たくさんのキラキラした言葉やキモチを


もらえるようになった。


(これも俺、あれも俺。俺は俺!なんだからな!)


『うまし!!明日も頑張りましょう!

 今日もありがとうございました。おやすみなさい♪』


ぽちっ、と。


「あ、このプリンも一緒にお願いします」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る