第49話 夢の続き
「さあ、もう夜も遅くなった。休もう」
「あら、もうこんな時間」
時計の針は十二時を指している。ついつい話し込んだり、道行く人を眺めていたら時間がたってしまった。
「風邪をひかないようにね」
「大丈夫だよ、体には自信がある」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
俺はベッドにもぐりこんだ。だがほんの少しの距離を隔ててお互いがいると思うとなかなか眠気が襲ってこなかった。痛いほど目をぎゅっとつぶってみる。
まあ、いいや。眠れなくても時間は過ぎていくし、朝が来れば帰れるんだ。
眠らなくてもいい。
と思って体を休めていると、体の方は睡眠を欲していたのか眠りについていた。
「礼人、起きなさい!」
「う~~ん、誰だ。俺の名前を呼ぶのは?」
「私よ、私。鈴奈よ」
「ああ、もう朝になったのかな」
「何を言ってるのよ、早くしないと学校に遅れるわよ」
「えっ、今日は休みじゃなかったっけ」
「もう、カレンダーを見なさい!」
カレンダーを見ると、黒い日(通学する日)だった。
えっ、家にいるのに鈴奈がいる。いつの間にか家族になったんだ。
「鈴奈、俺はどうしちゃったんだ」
「まあ、この子ったらお母さんのことを名前で呼んで、何かあったの?」
「えっ、お母さんって、どういうことだ!」
「まあ、自分の母親を忘れて、礼人は私の息子でしょ」
「そんなはずないだろう。俺たちは同い年、同級生だ!」
「まあ、寝ぼけてるのね」
悪い冗談か、俺は鈴奈の顔を見た。母親だったら、自分よりずっと年上のはずだ。だが、その顔は若いまま、要するに自分と同い年に見える。
「ちょっと鏡で自分の顔を見てみろよ」
「まあ、母親に命令して、悪い子ね」
「じゃ、俺が持ってくるから」
立ち上がって鏡を取りに行こうとするが、足が動かない。
どういうことだ、体の自由が利かない。金縛りにあったように、地面に縛り付けられているようだ。
悪い世界に紛れ込んでしまったのか。ひょっとして、以前図書室で探しても見つからなかった迷宮へ迷い込んだのか!
そうだ、助けを呼ぼう。大声を出せ!
「お~~い! お前は本当は誰なんだ!」
「何を言ってるの……」
「おいっ! 誰か、誰か、来てくれ~~~!」
「何……礼人」
「う~~ん、むにゃむにゃ」
「寝ぼけてるのね」
誰も助けに来てはくれなかった。そのまま俺は奈落の底へ落ちていった。
助けてくれ~~~~~!
「おはよう、礼人」
「むにゃ、むにゃ」
今度は目を開けることができた。
「あれ、朝になったの?}
「そうよ、おはよう」
「君は、鈴奈」
「当たり前でしょ、夕べからいたんだから」
「今日は学校へ行く日?}
「いいえ、休日よ、だから旅行に来たんだもの」
「ああ~~、よかった。鈴奈は俺の同級生だよな」
「そうよ。寝ぼけてるの?」
「いや、よかった」
これが現実の世界だ。
「夕べ何か寝言を言ってたみたい。うん、うん、唸ってたから目が覚めた」
「なんて言ってた!」
「はっきりとは聞き取れなかった。寝言を言ってたみたい」
「そっか、夢だったんだ」
迷宮に迷い込んだ夢を見たんだろうか。
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